2008.12.11 17:32
今日は、高価な飲み物についての話。
長くなるので、暇な人だけ読んでほしい。
去る12月2日、本当に幸運なことに、
「ザ・マッカラン55年
シックスピラーズコレクション」を
試飲する機会をサントリーさんにいただいた。
なんとこのマッカラン、
55年以上熟成させた超高齢の1本。
限定100品、1本115万円で
12月16日より発売される。
もともとスコッチ(特にシングルモルト)を
愛してやまない僕にとって、
これは万難を拝してでも
出席すべきイベントである。
かつて飲んだことのある高級スコッチといえば、
有名なロイヤルハウスホールドがある。
これは英国王室ご用達のスコッチで、
いまでもイギリスの一部と
日本でしか飲めない逸品だ。
なぜ日本では飲めるのかといえば、
昭和天皇がこのウイスキーを愛していたから。
天皇が皇太子時代に訪英した際に
英国王室からプレゼントされ、
愛飲するようになったらしい(1920年の話!)。
その縁で、日本のみ特別に輸出が許された、
という歴史的な物語を持つお酒なのだ。
そのロイヤルハウスホールドで、
価格はボトル1本2万5000円~3万円。
バーで飲めば、1ショットで3000~5000円。
まあ僕にとって、
これが高価なスコッチの
ひとつの目安となる。
比べてどうだろう?
1本115万円。
バーなら、1杯......いくらすることか。
ロイヤルハウスホールドと
比べるのは無意味だが、
参考までに単純計算してみると、
115:2.5=X:0.5だから......
えーっと......グラス2万3000円!?
ハウスホールドがボトルで買える!
で、その味わいは、いつも飲んでる
マッカランの12年とは別物だった(当たり前)。
いや、の馥郁たる甘く上品な香りは、
12年の延長線上にあるものなのだが、
味は超複雑。そしてどこまでも蠱惑的。
ドライフルーツのような甘さと
柑橘類を思わせる爽やかな甘みが
渾然一体となって広がったと思えば、
直後、ピート(泥炭)のスモーキーな
余韻がフワっと口蓋を撫でまくる。
マッカランの特徴である高貴な、
品ある味わいは維持しながらも、
アイラ系モルトが持つパンチ力も併せ持つ。
僭越ながら、そんな感想を持った。
「注射前の消毒液が染み込んだ
ガーゼをチューチュー吸ってるみたい」
人に勧めるとそんな感想が返ってくるような、
クセがありまくるアイラの
スコッチばかり飲んでいる僕だが、
この日ばかりはマッカランの底力に
改めて感服した次第。
おそらく、もう二度と飲めないだろう。
一緒に試飲会に参加し大室と二人で、
この味わいを月に一度は語り合って、
記憶を風化させぬよう生きていこうと思う。
調子に乗ってもう少し、
「高い飲みもの」の話を。
2006年の冬、長野駅での話。
次の電車がくるまでの
30分程度の時間をつぶそうと、
雑居ビルの2階にある「珈琲屋」なる
うらぶれた喫茶店に入った。
見渡すと、老齢の店主と、張り紙がひとつ。
「ここは、喫茶店ではありません」
珈琲屋なのに!?
確かに、メニューもない
店主が一言。
「今日は、誰のご紹介?」
「何をお飲みにいらっしゃった?」
何、言ってんの!?
「珈琲屋」とは思えぬその質問。
そりゃコーヒーなんだけど......
雰囲気的に「アイスコーヒー!」とか
「ブレンド!」とかは言えない空気。
テーブルの上には、
まるで古文書のように変色した
昔の雑誌の切り抜き。
どうやら自分が出た記事を
ずーっとスクラップしているようだ。
壁には今週の人気コーヒーランキング。
1位 モレリヤ
2位 アリタリヤ
3位 ウィリアム
......
これ、何の話!?
店主がとうとうと語り出す。
昔は銀座資生堂パーラーで働いていた。
その後、ある縁で英国に渡ることになった。
店主のサービスを気に入ってくれた貴族が、
屋敷で専属の給仕として雇ってくれたという。
店主は、英国貴族の世界へと足を踏み入れたわけだが、
その珈琲の世界の奥深さにハマっていった......。
以下ウンチクが続くこと、30分。
電車......もう行っちゃったよ!
もう、とりあえず「モレリヤ」でいい。
いくらするか知らないけど、それでいい。
さらに10分、雑誌の切抜きを眺めて待つ。
年代モノの寄書き帳まである。
「九州からはるばる来ました!
こんなにおいしいコーヒー、
生まれて初めて飲みました。
マスター、絶対また来ますネ!
勝彦&ミキ」
知るか!
で、いよいよモレリヤのお出ましである。
時間がない。次の電車も迫っている。
急いで飲もうとすると、
店主が口を挟む。
「そんな飲み方をしてはいけない!!!
その1杯で2時間は楽しみなさい。
その後、後味の余韻で半日は楽しめる。
ゆっくりと、味わいなさい」。
なんなのよ! もう!
「日本にエスプレッソを持ち込んだのは私だ」
「ここの珈琲を飲むためだけに日本中から客が来る」
「コーヒーに関する本も執筆している」
自慢話は尽きない。
正直うんざりしてきいていると、
ふと、気が抜けたのだろう。
僕のカップを持つ手がツルっ!
複雑な薔薇の香を放つ、欧州の貴族も
楽んでいるという高級コーヒー・
モレリヤが、思い出の寄書き帳にザバーッ!
ギャーッッッ!
悲鳴の後、僕、嫁、店主、一同沈黙。
特に店主、顔面蒼白でワナワナしている。
店主の思い出が、モレリヤ色に
ジワジワと染まっていく!
や、決してわざとではなくて......。
とにかく、信じられないほど超気まずい!
嫁に号令をかける。
「出るぞ!」
寄書き帳はビタビタで
もう書き込めないけど......。
マスター、おいしかったです。
たぶんまた来ます。謙介&ヒロコ。
コーヒー2杯。
お会計は「5000円でござい」。
......高い。ホテルよりも高い。
翌年1月。珈琲屋は、
勝彦&ミキをはじめ、
多くのお客様に惜しまれつつ、
その歴史に幕を閉じた。
僕が原因じゃないといいんだが。
高い飲みもの、というキーワードで
思い出した、しょうもない
エピソードでした。
では。
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