本・書籍
2018/1/1 17:00

2017年の国内主要ミステリ小説賞を三冠受賞!『屍人荘の殺人』は新たな本格ミステリの潮流を作るか!?【ネタバレなし】

あけましておめでとうございます。
新年1冊目に読む本は、縁起の良いものを選びましょう。

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2017年の国内主要ミステリ小説賞を三冠受賞した『屍人荘の殺人』(今村昌弘・著/東京創元社・刊)がオススメです。ネタバレなしで紹介します!

 

 

密室の新たなバリエーション

密室殺人を題材にしたフィクションが成立するためには、いくつかの「前提」が必要です。

 

その前提とは、解決がむずかしい事件として認識させるための「事件現場」「地理条件」「閉塞環境」「記述方式」などです。

 

(1)出入り不可能だった事件現場

(2)科学捜査がおよばない地理条件

(3)天候など不可抗力による閉塞環境

(4)読者を錯誤させるための記述方式

 

これらの「前提」は、登場人物や読者による犯人特定を「遅延」させるために必要なものです。作者が仕掛けた「遅延」のおかげで、読者は謎解きを楽しむことができます。

 

今回紹介している『屍人荘の殺人』も、特殊な前提によって物語を遅延させています。本書のキャッチコピー「たった1時間半で世界は一変した」がほのめかしている仕掛けの成功こそが、2017年におけるミステリ賞三冠達成という評価につながったようです。

 

 

クローズド・サークルの新境地

本書『屍人荘の殺人』は、本格ミステリのなかでも「クローズド・サークル」と呼ばれるジャンルに該当します。先述した「前提」の(2)と(3)を主題としているものが「クローズド・サークル」と見なされます。台風の直撃を受けた孤島の洋館、吹雪で閉ざされた山荘などが有名です。

 

ところで、本格ミステリ小説にも玉石混淆があって、なかには破綻しているのではないかと疑ってしまうような作品も実在します。そういうものに目をつぶって楽しむかどうかは、読者に委ねられてきました。

 

逸脱や前衛表現の許容範囲によっては「変格ミステリ」や「脱格ミステリ」と呼ばれることがあり、本格ミステリの作者や読者たちによって許容範囲の手さぐりがおこなわれてきた歴史があります。

 

 

本格ミステリに新たな地殻変動!?

『屍人荘の殺人』も、著者のチャレンジ精神にもとづく「手さぐり」によって書き上げられた本格ミステリ小説です。ミステリ賞三冠があらわすとおり、その試みは成功しており、多くの本格ミステリファンが支持を表明しています。

 

今回の三冠受賞は、すなわち<ネタバレ事項>が本格ミステリ界隈において市民権を得たことを意味します。クローズド・サークルを構築するのに必要な「不可抗力による閉塞環境」づくりに<ネタバレ事項>を使っても良いというGOサインに他ならないのです。

 

近年のウェブ小説界隈において、異世界転生テンプレによる優れた物語の爆発的発生があったように……『屍人荘の殺人』で採用されている”特殊設定”の定番化は、1980年代後半の「新本格ブーム」以来の大きなムーブメントを巻き起こす可能性を秘めています。

 

プロ小説家はもちろんのこと、ウェブ小説を発表している書き手たちによって「(ネタバレ事項)を活用したクローズド・サークル」を題材にした本格ミステリが次々と発表されるかもしれません。楽しみです!

 

 

【著書紹介】

 

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屍人荘の殺人

著者:学研教育出版(編)
出版社:今村昌弘

神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と会長の明智恭介は、曰くつきの映画研究部の夏合宿に加わるため、同じ大学の探偵少女、剣崎比留子と共にペンション紫湛荘を訪ねた。合宿一日目の夜、映研のメンバーたちと肝試しに出かけるが、想像しえなかった事態に遭遇し紫湛荘に立て籠もりを余儀なくされる。緊張と混乱の一夜が明け――。部員の一人が密室で惨殺死体となって発見される。しかしそれは連続殺人の幕開けに過ぎなかった……!! 究極の絶望の淵で、葉村は、明智は、そして比留子は、生き残り謎を解き明かせるか?! 奇想と本格ミステリが見事に融合する選考委員大絶賛の第27回鮎川哲也賞受賞作!

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