本・書籍
2016/7/9 14:00

自分より年上で高学歴で、扱いづらい人への「教え方」

大学の教職をしている知人が、よくこう漏らしている。「最近の学生は、酷いよ」。どうやら、連絡事項をメールで送っても、返信してくるのはごく僅か。重要なミーティングの欠席連絡も、前日の夜にしれっと送ってくるだけ。中には無断欠席も珍しくない。そもそも、目上の者への文章がお粗末すぎる、と。ちなみに、その大学は日本でも指折りの高偏差値校。あの大学の学生でさえも、最近はそんななのか……。

27584227 - baby girl pupil in glasses and chalk at a school board with arithmetic examples

 

教える立場は、ある日突然やってくる

「最近の◯◯は」なんて言葉を使い出すなんて、自分が年をとった証拠かもしれない。でも、それにしても、若い人に限ったことではなく、常識がない大人が多いと感じるのは私だけだろうか? 根本的な価値観の違いは仕方ないとしても、大人としてその行動ってどうなの? と突っ込みたくなることが、日常生活の中で多々ある。その人は今日まで誰からも注意されてこなかったわけで、それはかわいそうなことかもしれない。とは思いつつ「今更そんなことを言うのも」と、結局私も教えないことが多いのだが。

 

だが、生きていれば、教える立場に立つときが、ある日突然やってくる。職場に新入社員が配属になり、教育係に任命された。パート先に、年上の新人がやってきた。管理職になり、部下ができた。「今更教えるのも……」というような内容でも、教えなくてはいけない。たとえ相手が自分より年上でも、高学歴でも、生理的に得意ではなくても。そんなとき、どう教えていったらいいのだろう?

 

まずは「教え方」を教わろう

こんな本がある。『オトナ相手の教え方』(関根雅泰・著/クロスメディア・パブリッシング(インプレス)・刊)だ。子ども相手に教えることはあっても、相手が大人となると、その教え方、伝え方は難しい。誰しも、「教え方」を学んできてはいないからだ。そんな悩める大人たちに向けて、大人への教え方をわかりやすく指南してくれている一冊だ。
関根氏によれば、教え方の本質は「相手の立場に立つ」、そして「学習の手助け」。この2つだという。一見すると、さして難しいことではない気がするが、ここを押さえておくと、大人相手に教えることがとても楽になるのだそう。本書の中から、いくつかの教えるコツをご紹介しよう。

 

上手な教え方のポイント3つ

大人を相手に何かを教えるとき、「上手に説明できるか否か」が最も重要な局面。そのためには、3つの押さえておくべきポイントがある。

 

・相手のコップの大きさを確認する
まずは相手の「コップの大きさ」、つまり「現状のレベル把握」をすること。一方的に説明をする前に、相手の経験や知識の度合いを確認することで、どのあたりから教えていけばよいかが明確になる。また知識や技術のレベルだけでなく、気持ちや意欲のレベルをはかることも大切。ずっと教わり続けてコップが満タンの日に、多くを教えてもこぼれてしまう。逆に意欲的でコップに余裕がある日なら、一気に教えても受け入れてくれる。

 

・小分けにして伝える
相手のコップの大きさを確認したら、そこに入るだけの量を小分けにして入れる。つまり「あれもこれも詰め込まない」「持っている情報をすべては伝えない」こと。一方的に持っている情報をすべて伝えようとすると、教える側は「すべて伝えた」気になるけれど、肝心の教わる側は、自分のコップから水が溢れてしまい、情報が混乱し、結果記憶に残らない。そして、再度教えてもらわなくてはいけないという悪循環に陥る危険性が。

 

・理解度を確認する
伝えた情報が、どのくらい相手に理解されたか? 相手の理解度をしっかりと確認すること。「分かった?」と訊くことはNG! 教わった側としては「No」とは言いづらいため、本当の理解度は確認できない。また「何か質問はない?」という訊き方も避けるべき。いっぱいいっぱいの相手は「大丈夫です」と答えるのが関の山だ。言葉・文字・行動の3つの方法で、相手のコップにどのくらい水が入ったかを具体的に確認することが大切。

 

教え上手は「相手本位」な人

結局のところ、相手の立場に立てない人、自分本位の人は、相手にうまく教えることはできない。相手本位になること、これこそが、教え上手になる秘訣なのだ。他にも、教える前にすべきこと、イラッとしたら考えるべきこと、職場の雰囲気づくり、プライドの高い相手に教える極意など、たとえ今は教える立場にない人にも勉強になることばかり。一度読んでおいて損はない。教わる側としても、必読な本だと思う。

 

さらに、『オトナ相手の教え方』に書かれていることは、実は子育てにも生かせる。子どもの気持ちになって、子どもの理解度を考えながら、物事を伝える。一方的に教えてはいないか、わかりやすい表現になっているか、命令するような教え方になってはいないか。もう一度この本を読みながら、親としての自分に問いかけてみたい。(文・水谷 花楓)

 

【参考文献】

2060709-a04 (2)

オトナ相手の教え方

著者:関根雅泰
出版社:クロスメディア・パブリッシング(インプレス)

人事異動、昇進、中途採用で新人が入ってきたなどで初めて教える立場になった人もいるでしょう。急に教えろと言われても、教え方を学んだわけでもなく、見よう見まねで教えているだけで、正しいやり方なのかわからない。経験や自分なりの考えをもった大人を相手に、教え方の「素人」が教えるなんて、すぐにできるものではありません。そんなはじめての後輩、部下をもった方やうまく教えられずに困っている方に、誰が相手でも、「これさえ押さえておけば大丈夫」といった教え方の本質を紹介します。

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