グルメ
ラーメン
2017/8/27 11:00

若き才能が生む一杯は毎回進化を楽しめる! 曙橋「麺庵 ちとせ」

ラーメン好きなミュージシャンとして知られる、サニーデイ・サービスの田中 貴さん。年間600杯以上を食べ歩く田中さんが、女性にイチオシのお店を紹介するとしたら?そんな発想からはじまった本企画。今回は、若手ラーメン職人のなかで田中さんが特に一目置いている作り手が登場します。

 

ラーメンには高みを望む情熱が、空間にはハートウォームな居心地が

お店は、都営新宿線「曙橋駅」から徒歩数分の場所に。幹線道路の脇を入った路地にたたずむ「麺庵 ちとせ」です。田中さんにオススメポイントを聞くと、これまで紹介してきたラーメン店とは一風違った視点での答えが返ってきました。

 

「名店で何年もかけて修業をし、その後に独立開業する店主さんがほとんどのなか、『麺庵 ちとせ』は若き才能あふれる三嶋元気氏がほぼ独学で開業。僕が初訪問したのは2015年のオープン直後でしたが、当時の三嶋店主は23歳! 味は荒削りな部分もありましたが、それよりも独自性を出そうとする熱意やラーメン愛が感じられ、ものすごく惹かれたんです。それからはもう、ことあるごとに気になってしまい、何度も通うようになりました」(田中さん)

三嶋店主。学生時代に数軒のラーメン店でアルバイトの経験はあるものの、修業といえるほどではなかったそう。現在は塩ラーメンのリニューアルに奮闘中。準備中とし、9月中旬以降の提供を目指しています
三嶋店主。学生時代に数軒のラーメン店でアルバイトの経験はあるものの、修業といえるほどではなかったそう。現在は塩ラーメンのリニューアルに奮闘中。準備中とし、9月中旬以降の提供を目指しています

 

そんな田中さんの先見の明は、まさしく的中することに。有名ラーメン誌が開催している「東京ラーメン・オブ・ザ・イヤー」では、その年の新人賞を獲得。また今年は人気口コミサイトの「ラーメン百名店TOKYO」に選出されるなど、すでに名店といえる人気ぶり。期待もふくらむなか、看板メニューからいただいてみました。

「醤油(細麺)」(¥750)。スープには天草大王、はかた地どり、奥久慈しゃもと3種の鶏ガラを使用し、牛骨や豚足のうまみも調合。魚介はウルメイワシと宗田ガツオにアサリとシジミのダシも効かせ、仕上げにはサンマ節の香味油を。タレは各地の生揚げ醤油や再仕込み醤油をブレンド。春よ恋、ゆめちからなどの国産小麦による全粒粉ブレンドのストレート麺が絡みます
「醤油(細麺)」(¥750)。スープには天草大王、はかた地どり、奥久慈しゃもと3種の鶏ガラを使用し、牛骨や豚足のうまみも調合。魚介はウルメイワシと宗田ガツオにアサリとシジミのダシも効かせ、仕上げにはサンマ節の香味油を。タレは各地の生揚げ醤油や再仕込み醤油をブレンド。春よ恋、ゆめちからなどの国産小麦による全粒粉ブレンドのストレート麺が絡みます

 

「10日前にも食べたんですけど、その時よりさらにおいしくなってる!そう、2年前のオープン当初に比べると、チャーシューは焼き目の付いた大判タイプから低温調理のしっとり系に、ネギは爽やかな九条ネギに変わるなど、見た目だけでも大幅な進化を遂げています。こうやって少しずつブラッシュアップを重ねて、どんどん高みを目指しているのが同店の魅力のひとつ。研究熱心なのはもちろん、学ぼうとする謙虚さがあるからトレンドも大胆に取り入れるし、変革を恐れない攻めの姿勢があるからこそですよね。若くして名声を得て調子にのってしまう人もいるなか、三嶋店主の誠実さとやわらかな物腰は変わりません。正直な話、爽やかなイケメンだし、チャラいのかなーなんて思ったんですけど、まったく真逆(笑)。もちろん接客も心地よく、女性がリラックスして楽しめるお店ですよ」(田中さん)

 

ちなみに、店名は祖母の名前に由来しているとか。田中さんは、そんな家族想いの一面にも感心。ラーメンにはアツい情熱が、店内には温かな空気が流れているのですね。

 

青年ならではの衝動が詰まったセンスあふれる限定麺を試すべし!

そんな店主の探求心が、よりわかりやすく表れているのが限定メニュー。この日は2種類があり、両方味わってみることに。まずは、この4月に登場して以来、好評のため提供し続けている「担担麺」。

「担担麺」(¥850)。ゴマから自家製の芝麻醤(チーマージャン)を作り、丁寧に仕上げた一杯。炸醤(ザージャン。肉味噌のこと)も、豆豉(トウチ)などの調味料を駆使した味わいで、オリジナリティをしっかり感じられます
「担担麺」(¥850)。ゴマから自家製の芝麻醤(チーマージャン)を作り、丁寧に仕上げた一杯。炸醤(ザージャン。肉味噌のこと)も、豆豉(トウチ)などの調味料を駆使した味わいで、オリジナリティをしっかり感じられます

 

「ピ-ナッツなどで濃厚なコクを出しながらも、ベースは中華の清湯スープからなる醤油ラーメン。陳建一さんの父親である陳健民氏が作り上げた、日本式の担担麺の王道スタイルを踏まえながら、オリジナリティを出しています。本格中華の経験がなくても、独学でここまでのレベルに仕上げられる技術力も素晴らしい!」(田中さん)

 

そしてもうひとつの限定は、8月に発売されたばかりの「油そば」。こちらにも、田中さんを感心させる要素が満載でした。

「油そば」(¥750)。加水率を高めてもっちりさせたストレート太麺に、醤油ダレのほか天草大王、ポルチーニ茸、香味野菜、サンマ節などの油を調合。ニンニクのガッツリした風味がインパクト大ですが、隠し味に加えたリンゴ酢の甘酸っぱいエッセンスも絶妙です
「油そば」(¥750)。加水率を高めてもっちりさせたストレート太麺に、醤油ダレのほか天草大王、ポルチーニ茸、香味野菜、サンマ節などの油を調合。ニンニクのガッツリした風味がインパクト大ですが、隠し味に加えたリンゴ酢の甘酸っぱいエッセンスも絶妙です

 

「これも驚きの一つなんですけど、店主は製麺も独学で習得し、開店当初から毎日麺を打っているんです。この油そばは、自家製麺ならではの弾力ある食感の太麺がたまらないです。さらに、香味油を多彩に使うことで、ただ濃厚なだけでなく重層的なうまみを醸し出しています。とはいえ、ニンニクが効いててパンチがありますね! 繊細な味わいのラーメンとは正反対のインパクトある味わい。そりゃあまだ25歳、ガッツリ・コッテリしたのも好きなんでしょうね(笑)。

 

全体的に、元気くんには若いからこその感性や思い切りのよさを感じます。こういう大胆さって、音楽にも同じことが言えるんですよ。たとえば、ミュージシャンのファーストアルバム。初期衝動といえる情熱や勢いが込められているから、完成度は高くないけど個性的な音や詩が満載だったりして。ファーストアルバムの輝きは、二度と出せない光。どんな熟練した技術を持った職人でも、それだけは絶対に真似できない。元気くんのラーメンにはその輝きを感じるんです。僕らのデビューアルバム『若者たち』も・・・はい、恥ずかしながら例外ではありませんね」(田中さん)

カウンター6席のこぢんまりとした空間には、祖母からもらった「一期一会」のメッセージが。奥には製麺機があり、すべて自家製で打っています
カウンター6席のこぢんまりとした空間には、祖母からもらった「一期一会」のメッセージが。奥には製麺機があり、すべて自家製で打っています

 

最後に田中さん、特に同店はエリア的にもセンスがいいと言います。最寄りは「曙橋駅」という単線の地下鉄ですが、その理由を聞いてみました。

 

「四谷三丁目~早稲田~牛込柳町にかけては、この数年実力派の新店が多くオープンしています。池袋や高田馬場など、一般的に激戦区と言われている街より家賃が安価なので、店側からすれば出店もしやすいし、そのぶん食材に原価をかけられるから美味しい店が多いんです。マイナーな駅ではあるんですが、山手線の内側は地下鉄を使えば動きやすく、都心で働いてる人たちにとっても、私鉄沿線の郊外にある店に行くよりアクセスしやすいんですよね」(田中さん)

 

ちなみに、「麺庵 ちとせ」は都営大江戸線の「若松河田駅」からも徒歩で行ける距離。お店は土日も営業しているので、秋のグルメ探索の一軒に加えてみるのもいいのではないでしょうか!

 

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