デジタル
2015/12/25 10:00

【社長インタビュー】Makuakeに出てくる製品は、なぜこうも我々の心をくすぐるのか?

一時期のサービスインのラッシュが一段落し、クラウドファンディングサービスはマーケティングツールや宣伝ツールとして、より身近に、より具体的な戦略で使われることが増えてきました。

 

そんななか筆者(編集部山田)が最近注目していたのがサイバーエージェントグループのクラウドファンディングサービス「Makuake」です。「Amadana Music」や「MaBeee」といった、個人的にツボに入る製品が矢継ぎ早に登場。アイテム好きの30代の男性を中心に、SNS上でも拡散され話題になっています。

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「amadana」と「UNIVERSAL MUSIC」との共同企画で登場したレコードプレーヤー。目標金額150万円に対し、947%越えの1421万6520円を集めました。
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スマホでおもちゃを動かせる電池型IoT 「MaBeee」。スマホを傾けると電車などのおもちゃの速度をコントロールできたり、スマホの音声に反応してぬいぐるみのおもちゃが動き出したりする。公開後、すぐに目標金額を達成。12月8日現在、残り64日の期間があるなか、目標金額の852%となる426万2830万円を集めています。

 

 

一般的にクラウドファンディングサービスでは、掲載されるプロジェクトのアイデアが重要になってきますが、それにしても「Makuake」は完成度の高いプロジェクトを連発しています。そこには、プロジェクト実行者の持っているアイデア以外に、何か独自のプロジェクト実行者のアイデアを更に磨き上げるコンセプトやノウハウ、環境づくりがあるのではないか? そこで、「Makuake」を運営する株式会社サイバーエージェント・クラウドファンディングの代表取締役社長・中山亮太郎さんに取材してみました。

 

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株式会社サイバーエージェント・クラウドファンディング 代表取締役社長・中山亮太郎さん

 

 

サイバーエージェント・クラウドファンディングの設立は2013年5月。社長に就任した中山氏には、そもそもある思いがあったといいます。「2010年から2年半、ベトナムに海外赴任していたのですが、身の回りに日本製品がほとんどなくて、ちょっと悔しかったんですよ。日本から面白いものがもっと出てきたら、日本製品が使われる場面も増えるんじゃないかな、と」(中山氏)。そう思っていた矢先、サイバーエージェントがクラウドファンディング事業に乗り出すことが決まり、声をかけられた中山氏は「その手があったか!」と大いなる可能性を感じたといいます。

 

さて、「Makuake」のプロジェクトの面白さを探るべく、まずビジネスモデルについて質問。しかし、これはクラウドファンディングの世界標準とほとんど変わりません。「いまは、プロジェクトの調達金額における15%を手数料としていただいてます。特に初期費用や月額費用はかかりません」(中山氏)。同サービスでは、一般的なAll or Nothing方式(目標金額に達成しないと1円も振り込まれない実施パターン。手数料も一切かからない。)のほかに、All in方式と呼ばれる、目標金額に達しなくても調達した金額が獲得できるパターンがありますが、これも他サービスとの決定的な違いにはならなそうです。

 

ならば、ターゲットを30代男性に絞っているのでしょうか? しかし、支援者の男女比に大きな差はなく、プロジェクト毎によって支援者層は異なるといい、「少しだけ男性のほうが高いかな、というくらい」(中山氏)とのこと。カテゴリもガジェットやアイテムに偏っているわけでなく、現在プロジェクトを実施中の日本酒製造体験「MAKE SAKE PROJECT」をはじめとする飲食ジャンルのプロジェクトもあるなど実に幅広く展開しています。

 

だとしたら何が「Makuake」を魅力的なサービスにしているのでしょうか? 話を聞くうちに、1つのプロジェクトごとに「キュレーター」と呼ばれる担当者が1人おり、彼らのフォローがプロジェクトの完成度の高さと密接に結びついていることがわかりました。

 

開発者のドヤ顔ではなく、得られる体験を重視

キュレーターは企画のブラッシュアップからプロモーション方法まで、幅広くプロジェクト実行者をフォローします。ここまでは他のサービスでも見られる仕組みですが、「Makuake」ではキュレーターのサポートが実に手厚い。「ひとりのキュレーターが担当するのは、多くても毎月10件から20件です。ページを見ていただくユーザーさんに、新しい製品を使ったときにどういう体験ができ、どう楽しめるのか。そのイメージを必ず伝えられるよう、キュレーターは常に気をつけています」(中山氏)。

 

単なる場所貸しではなく、キュレーターが新しいアイデアの提案者と一般ユーザーをしっかり橋渡しする。「これまでのクラウドファンディングは開発者ばかりに目がいきがちでしたが、『Makuake』では、普通の人、つまり支援する人が見ているだけでも楽しいサイトを作ろうというコンセプトを掲げ、サイトのビジュアルやUIを構築しています」(中山氏)。そうしたスタンスだから、クラウドファンディングでありがちな、開発者がドヤ顔で商品自慢をする動画を延々と見せられることもありません。強すぎるこだわりは、プロジェクト実行者と話し合いながらなるべく入れないようにしているそうです。ちなみに、サポートは手厚くとも、キュレーターが商品提案自体をすることはないのとこと。やはりいちばん大事にしているのはプロジェクト実行者の持つアイデアと情熱だそうです。

 

もうひとつ、「Makuake」の製品が面白く仕上がる要因に、百貨店・伊勢丹新宿本店とのコラボがあります。クラウドファンディングの場合、支援者でなければ出来上がった製品を実際に見たり、触ったりすることはほとんどできません。ですが、「Makuake」では新宿伊勢丹の一角に、同サービスでプロジェクト実施中のプロジェクトを一部展示。ネットとリアルが組み合わさることで、さらに幅広い層にアプローチできているのです。「2~3年かかっていたプロダクトの広がり方が、たった2~3か月で一気にワープできる感覚ですね」(中山氏)

 

優れたアイデアから生まれた商品があり、その魅力を伝えるために尽力するキュレーターがいて、実際の店舗での反応もフィードバックされる。だから、「Makuake」のアイテムは、半歩先の未来を行くガジェットを求める私たちの心をくすぐってくれるのでしょう。「あとは、これまでは新しい製品を作るときに、実際に売れるかわからないなど、すごくリスクが高い状態でした。そんな状況の中で、クラウドファンディングが徐々に普及しはじめることで、試作品のコンセプト段階で世間の人に買ってもらうことが可能になりました。いままでだったらこれはさすがに踏み込みすぎ、といったアイデアでもニーズを探ることができるようになったのです」(中山氏)。

 

最後に、今後の野望を聞いてみた。「日本ってものすごい数のメーカーさんがあるじゃないですか。メーカーの方々にも、『Makuake』が新商品をヒットさせるために最適なツールだという認識を広めていきたいですね。面白い商品がたくさん日本から生まれるためにも、もっと頑張っていかなきゃと思っています」(中山氏)。

 

取材:山田佑樹