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2015/12/31 8:00

【西田宗千佳連載】東芝・富士通・VAIOの「3社統合」はあり得るか?

「週刊GetNavi」Vol.38-1

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ビジネス基盤の異なるVAIOまで統合?

12月4日、日経新聞などは、PC事業に関し、東芝・富士通・VAIOが事業統合をする方向で交渉を進めている、と報道した。PCは単価が下がり、特に個人向けは、スマホなどと競合しており、売るのが難しくなっている。だから、3社が事業を統合しても「そうなのか……」と受け止めた人も多いようだ。

 

だが、この報道は「まだ」事実とは言い難い。特にVAIOの側は、報道されてすぐに「そもそも交渉の事実がない」とする、強い広報コメントを出した。信濃毎日新聞12月10日日付記事にて、VAIO・大田義実社長への取材記事として「統合の可能性は排除しない」としつつも「VAIOにも、出資元の日本産業パートナーズにも打診はな」として、改めて現状で統合路線にはないとアピールした。

 

一方、東芝と富士通も「統合の合意に至ってはいない」と否定コメントを出しているものの、そのトーンはVAIOに比べると弱い。この2社は、すでになんらかの交渉を行っていると考えてよさそうだ。統合報道の中心は東芝のようで、不正会計による大幅な負債から脱却するために、調子の悪いPC事業をできるだけ効率よく切り離したいのだろう……と予測できる。

 

だが筆者は現状、「東芝と富士通のPC事業統合の可能性はあるが、VAIOまでは、短期的にはありえないし、うまくいかないのでは」と考えている。

 

理由はビジネス基盤だ。東芝も富士通も、強固な法人顧客基盤を持っており、その上に個人市場がある。営業部隊も法人向けの販売が主体で、個人市場での戦い方は比較的おとなしい。

 

一方VAIOは、まず個人市場で支持されており、法人市場の拡大はこれから。ある程度ブランド名にシンパシーを感じる人向けであることは否めない。3社が統合することになれば、調達・開発・営業という各社が持つ部隊を再編せねばならない。残したままでは効率が悪く、統合の意味がないからだ。開発は各社とも独自性があるため、とりあえず置いておく。ビジネス基盤の似通った富士通・東芝の場合、統合した場合の方向性もさほど違わず、あとはどうリストラしていくか、という話になるだろう。しかしVAIOの場合、商品の特性も、支持者も、個人向け・法人向けのビジネス比率も大きく異なる。ソニーから分社し、日本市場を中心とした会社へコンパクト化したことで、ビジネスの規模も、富士通や東芝よりずっと小さい。会社として解体したうえで合流するような状況になりかねない。

“数”は重要な要素だが「副作用」も大きい

統合のメリットは、パーツを調達する際により多い数で臨めるため、いまより優位な立場に立てる、ということだろうか。PCビジネスにおいて数は重要なファクター。海外の強豪と戦うにはまとまってあたるべきだ……という発想はわかる。

 

だがそれでも、統合はプラスばかりではあるまい。調達力の上昇よりも、独自開発力の低下を中心とした「副作用」も大きく、依然として厳しい状況に置かれるのは変わらないからだ。
PC事業はなぜこんなに苦しくなったのか? そして、日本メーカーが勝つ方法はもうないのか? そのあたりはVOl.38-2以降にて解説していきたい。

 

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