デジタル
2016/2/8 8:00

【西田宗千佳連載】快適なVRには、今までの「ゲーム向け」を超えた性能とチューニングが必須

「週刊GetNavi」Vol.39-3

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現状のVRに問題点はないのか?

もちろんたくさんある。

もっとも深刻なのは、VRの命である「そこにいる感じ」を出すには、相応の演算力が必要、ということだ。

Oculus Riftが最初の試作機を発表した2013年ごろ、VRには「普通のPCがあればなんとかなる」と思われていた。だが、人間が「そこにいる」と感じること、そして、そういう映像を描画するHMDをかぶった場合には、一般的なPCやゲームの世界より厳しく、異なる条件が必要であることがわかってきた。

まず、映像には一切のコマ落ちが許されない。映像の描画コマ数も、テレビなどで一般的な毎秒60コマでは不足しており、最低90コマ、できれば120コマ必要であることがわかってきた。また、頭や体の動きを感知するセンサーは、最低数百分の1秒単位で働き、可能な限り遅延なく動きを読み取る必要が出てきた。

HMDは、人間の目の前を「別の映像」で覆う機器だ。それで「自分がいるのは現実の世界ではなく、別の場所だ」と感じさせるには、体や頭の動きに対し、映像が遅れずに反応する必要があったわけだ。だから、毎秒90コマから120コマの描画と精度の高いセンサーが必須になった。

それだけの速度で、一定の密度のあるCGを描画するには、十分なグラフィック性能が必要になる。Oculus Rift向けのPCが高性能なゲーミングPCと同義であるのはそのためだ。

PlayStation 4(PS4)と組み合わせて使うPlayStation VRの場合、話は少々ややこしい。PS4は、PCに比べ無駄のない最適化された設計であるため、同コストのPCに比べるとはるかに「ゲーム向け性能」は高い。だが、20万円近い最新のゲーミングPCに比べると性能は低い。純粋な「画質」では、Oculusに比べ劣る。とはいうもいのの、機器によって性能にばらつきがあるPCに比べ、「ゲーム機」という定まった規格の中で動くため、最適化が行いやすく、短期的には「誰もが同じように快適なVRを楽しめる」ものになるのも事実だ。そしておそらく、Oculusに比べHMD本体も安くなる。伸びしろは小さいものの、金銭負担も小さい。

スマホを使ったVR用HMDは、さらに厳しい状況にある。いまのスマホは、VRに求められるほどの性能を持っていないからだ。体験はどうしても、PCやPS4のものに比べて小ぶりとなる。サムスンのGalaxyシリーズを使う「Gear VR」については、Oculusとサムスンが綿密な技術協力を行い、映像描画や反応の遅延ができるだけ出ないよう、描画ドライバーソフトのレベルでAndroidにチューニングを施しているという。動作対象であるGalaxy S6などを、単にスマホとして使っているときにはそれを意識することはないが、隠れた「VRチューニング」が行われており、その結果、Gear VRはGalaxyシリーズ専用、となっているのである。

では、「ここにいる」感覚を重視するVRでどんなコンテンツが出てくるのか? その辺は次回Vol.39-4(2/15更新予定)でご説明したい。

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