デジタル
2015/6/1 10:00

SIMロックが外れても残る「事業者の壁」

「週刊GetNavi」Vol.31-2

Vol.31

 

5月1日から(制度上は)始まった「SIMロック解除義務化」のルールは、いまのところ率直に言って期待外れに終わっている。対象機種の販売がまだ本格化しておらず、さらに「購入から180日間が経過しないとロック解除には応じない」という状況なので、消費者として実感を持て、という方が無理、という部分はある。

 

さらに、多くの消費者にとってわかりにくいのは、「SIMロックが解除されたといっても、その端末は他の携帯電話事業者で使うのに向いていない可能性もある」ということだ。

 

ポイントは「対応バンド」だ。

 

第三世代(3G)ではKDDIのみ通信規格が異なるため、SIMロック解除をしても、顧客の流動はドコモとソフトバンクの間に限られていた。第四世代携帯電話、いわゆる「4G」「LTE世代」になり、NTTドコモ・KDDI・ソフトバンクは、それぞれ同じ規格の通信を採用している。だからこそSIMロック解除によって顧客の流動性が……、というのが、基本的なロジックだ。

 

しかし、同じLTEを採用していても、各社が販売している端末で使っている通信に差がないかというと、そんなことはまったくない。事業者によって利用する周波数帯、すなわち「バンド」が異なっているためである。

 

例えばNTTドコモの場合、利用しているのは主に1(2100MHz)・19(800MHz)・21(1500MHz)だ。3(1800MHz)が東名阪だけで使えるバンドとして、28(700MHz)が今後利用を予定するバンドとして用意されている。一方、KDDIは1・11(1500MH)・18(800MHz)が中心であり、ソフトバンクは1・3・8(900MHz)が中心である。3社で共通なのはバンド1だけである。

 

各端末は、製造段階で「どのバンドをサポートするか」が決まっている。日本の携帯電話の場合、端末は携帯電話事業者に納入されるのが基本なので、まずは納入される携帯電話事業者の利用バンドに最適化される。そのうえで、他のバンドへの対応も行われるわけだ。そのため、例えば「元・ソフトバンクの端末をドコモのSIMで利用したら、エリアや通信速度が不利になった」というようなことも起きうるのである。

 

とはいうものの、実際には、「特定の事業者向けのバンド以外は一切対応していない」端末はほとんどない。海外でも広く販売される製品の場合、最初から複数のバンドに対応しておけば企業や国による仕分けが楽になるので、対応バンドを多くする傾向にある。また、海外ローミングのことを考えると、諸外国で使われているバンドはある程度カバーしていないと使いづらい。ルール上は、バンド1および3が全世界共通、バンド28がアジア太平洋地域共通、とされている。だから「1つか2つ、自分が使いたい携帯電話事業者向けで対応していないバンドがある」という形が実情だ。まったく通信ができない……ということはまれであるのだが、各社が通信速度向上に使っている「キャリアアグリゲーション(CA)」での対応まで念頭に置くと、対応の幅はさらに狭まる。また、LTEが入りづらい場所の場合、3Gでの接続がまだまだ重要になるが、こちらだと接続性はさらに落ちる。これらを勘案すると。「その携帯電話事業者専用の端末に比べ、不利である」という感じだと考えていい。

 

こうした部分は端末のスペックに記載されているので、きちんとした技術知識をもっていれば理解可能だ。だが、大多数の人々は、そこでまで勉強してSIMフリーで使いたい、とは思わないだろう。

 

各事業者は自社のためにビジネスをするわけだから、「他社へのSIMフリー移行も考えて端末を作れ」というのも無理がある。消費者は「携帯電話というハードを買っている」つもりだが、携帯電話事業者は「自社サービスに合わせたハードを提供している」つもりであり、少々思惑が異なるのだ。

 

では、携帯電話事業者が販売しない「SIMフリー端末」や、MVNO事業者が提供する「格安スマホ」はどうなっているのだろうか? その辺は次回Vol.31-3にて。

 

●「Vol.31-3」は6/8(月)ごろ更新予定です。

 

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