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2019/9/30 18:30

5Gが始まったらWi-Fiは要らなくなるのか? 「Wi-Fi 6」の気になる本当のところ

いよいよ日本でも、「5G」(第5世代移動通信システム)のプレサービス提供開始が目前に迫る。将来的に、理論値で10Gbpsレベルの通信速度を実現する日も遠くはない。こうした背景を元に、もはや「Wi-Fi」は不要になるのではという期待も高まるが、果たしてそれは本当なのだろうか。

 

iPhone 11も対応した「Wi-Fi 6」とは

5G時代に合わせて登場したWi-Fiの次世代規格は「Wi-Fi 6」と呼ばれる。そもそも、これは従来の呼称を踏襲するならば「IEEE 802.11ax」に相当する規格だ。最大通信速度は理論値で9.6Gbps、実効速度でも1Gpbsを超える。

 

ちなみに、名称が変わったのは、Wi-Fiブランドの認証制度を管理する業界団体「Wi-Fi Alliance」がブランディングを分かりやすくするために2018年10月に命名・表記の仕方を改めたことによる。従来のIEEE 802.11acが「Wi-Fi 5」、IEEE 802.11nが「Wi-Fi 4」という表記に対応することも合わせて覚えておきたい。

  • Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax):理論値9.6Gbps → 実質1Gpbs以上
  • Wi-Fi 5(IEEE 802.11ac):理論値6.93Gbps → 実質800Mbps前後
  • Wi-Fi 4(IEEE 802.11n) :理論値600Mbps → 実質150Mpbs前後

 

このWi-Fi 6がいよいよ動き出した。Wi-Fi Allianceは9月16日(米国時間)、Wi-Fi 6との相互接続性に関するデバイスの認証プログラム「Wi-Fi CERTIFIED 6」の提供を開始した。例えば、スマートフォンならば「Galaxy Note 10」がすでにWi-Fi CERTIFIED 6に準拠しており、「iPhone 11」などもこれに続く。また、今後発表される主要端末やWi-Fiルーターの多くが、この認証を取得すると見込まれる。

↑9月20日に発売された「iPhone 11」シリーズもしっかりWi-Fi 6対応だ

 

ちなみに、市場にはすでにWi-Fi 6を謳う製品も存在したが、これらはあくまでもトライアルという位置付けだった。今回、正式な認証制度がようやくスタートしたことで、市場は「ハイエンド製品ならばWi-Fi 6は対応して当たり前」という段階に突入していくだろう。

 

Wi-Fi 6は「5G」を補完する存在に

9月19日には、日本でも同認証プログラムに関する記者説明会が開催された。同会には「Wi-Fi Alliance」のバイスプレジデントである、マーク・ハング氏が登壇。5GとWi-Fiの関係性について、以下のように語った。

↑Wi-Fi Alliance、テクノロジー兼エンジニアリング担当 バイスプレジデント、マーク・ハング氏

 

ハング氏「Wi-Fi 6は5Gと相互補完的である考えています。今日の日本においてはモバイルトラフィックの8割以上がセルラー網からWi-Fi網にオフロード(※)されているという事実があります。5Gではその傾向がむしろ強まるでしょう。また、技術的な観点でWi-Fi 6と5Gは多くの共通性を持っています」※ネットワークを切り替えて分散すること)

 

Wi-Fi 6は、5Gと連携する前提で組み立てられており、その特徴は似ている。例えば、理論値10Gbpsレベルという高速通信、1ms以下の低遅延、IoTデバイスでも使える電力効率の良さなどだ。また、密接した配置が可能だったり、通信範囲が拡大していたりすることも特徴。——要するに「Wi-Fi版 5G」と言ってよい。

 

また、ハング氏は商業利用に関しても、運用経費の安さを考えると、Wi-Fi 6が5Gを補完するものだと主張する。

 

ハング氏 「Wi-Fiはオーナーが運用するので、コストは設備投資や運用経費の両面で廉価です。一方、セルラー網はオペレータが運用するモデルです。例えば産業向けIoTやインダストリー4.0を想定する場合、すべての装置にSIMカードを挿入して、毎月の料金を支払う余裕はあるでしょうか。非常に速く多く移動するドローンの場合は、そのメリットもあるでしょうが、同じ場所に配置されたマシーンであれば、Wi-Fiのかわりに5Gを使う必要はあるか疑問です。どちらの技術にもそれぞれ強みがあると思いますが、大方の領域では補完し合う関係になると思います」

 

↑Wi-Fi 6が5Gをサポートするとの旨を解説するハング氏

 

家庭での利用シーンに目線を下げて考えてみると、Wi-Fi 5では5GHzのみに対応したものだったが、Wi-Fi CERTIFIED 6の認証デバイスは、5GHz・2.4GHzの両方に対応することもポイントだ。5GHzは比較的障害物に弱いという特性があるので、2.4GHzに頼るしかない場面でも恩恵を受けられる。

 

2.4GHz帯の現行規格である「Wi-Fi 4」が正式に認定されたのは2009年のこと。2.4GHz帯の進化は2世代=10年間分に相当する。Wi-Fi 6の2.4GHzにおける最大速度は、例えばバッファローの公式サイトでは、理論値で最大1147Mbpsと明記されている。先述の通りWi-Fi 4が理論値で600Mbpsなので、2.4GHz帯の通信速度だけでもざっくりと倍に近い値になると期待できるわけだ。

 

5Gがその本領を発揮するのは、ミリ波を駆使し、SA方式で運用する基地局が普及してからだ。日本では、おそらくこの段階にいくまでにまだまだ年月がかかると思われる。

 

もちろん5G対応を謳うスマートフォンの利用も確かにワクワクするのだが、現実的には家庭内のWi-Fi 6の環境を整えることが、動画視聴やゲーミングのユーザー体験を向上させるための、現時点での一番の近道なのかもしれない。

 

覚えておきたい2つのキーワード「OFDMA」「TWT」

最後に、Wi-Fi 6を象徴する技術用語として、ハング氏が強調した2つのキーワードを紹介しておこう。一つは「OFDMA」、もう一つが「TWT」だ。

↑Wi-Fi CERTIFIED 6で重要な特徴について。中でも「OFDMA」と「TWT」は特に注目したい

 

OFDMAとは、「Orthogonal Frequency Division Multiple Access」の略で、周波数利用効率を向上させる技術のこと。混雑した場所でのユーザー体験を向上させるのに重要であり、元々セルラー通信でも利用されていた。Wi-Fiへの導入はWi-Fi 6が初となる。

 

ハング氏 「従来のWi-Fiではベストエフォート型のチャンネルアクセスが使われていましたが、Wi-Fi 6のネットワークでは、デバイスの間にリソースを分配して、すべてのデバイスが一定の帯域幅を確保できるようになります。OFDMAのおかげで、Wi-Fi 6は5Gで使われているネットワークスライシングと似たような仕組みを利用できるようになります」

 

↑OFDMAについての概要

 

TWTとは、「Target Wake Time」の略で、接続デバイスの電力消費を効率化できる技術のこと。具体的には、アクセスポイントに接続したデバイスが、起動するタイミングを設定できる。この際、決められた周期でデバイスが起動するのではなく、起動のタイミングを柔軟に調整できるのがTWTの特徴だ。例えば、IoTセンサーなどは日に1度データを送信すれば良いので、これによって消費電力を抑えられる。また、イレギュラーな変化を感知した場合にも起動頻度をあげるようなコントロールが可能になる。

 

ハング氏「従来、Wi-Fiは、消費電力の少ない技術とは言えませんでしたが、TWTでその状況がかわります。TWTのおかげで(接続デバイスの)電池の寿命が数時間、数日という単位から、数ヶ月、数年まで伸ばせるようになるでしょう」

 

↑TWTについての概要

 

Wi-Fi 6ではこれらを含めて、技術的な8つの特徴——「マルチユーザーMIMO」「OFDMA」「ビームフォーミング」「160MHz」「TWT」「BSSカラーリング」「8空間ストリーム」「1024-QAM」——がある。本稿では詳細を解説しないが、興味がある人は調べてみるといい。

 

5G時代に必須となる「Wi-Fi 6」——。Wi-Fiルーターの買い替えやスマートフォン、ノートパソコンなどの購入時には、重要なキーワードとなるだろう。今後の新製品では、対応有無に注目してほしい。

 

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