デジタル
2016/9/7 7:00

【西田宗千佳連載】全天球カメラの質は「スティッチ」が握る

「週刊GetNavi」Vol.46-3

 

前回のVol.46-2で述べたように、現在、中国の小規模な製造企業を中心に、「全天球カメラ」が大量に作られ、市場に出て行こうとしている。大手メーカーのなかにも、そうした企業と共同で開発し、市場投入を検討するところがある、と聞いている。大手カメラメーカー関係者からは、「アクションカムは、ハードウエア的な差別化点がほとんどない。全天球カメラも同様だ」との話も聞こえてくるが、それは、多くのメーカーが一気に製品化を検討していることと無縁ではない。

 

一方で、各製品のクオリティに差がないか、というとそうでないことには留意が必要である。キーワードは「スティッチ」だ。

 

1つのレンズ・撮像素子で全天球分の映像を撮影できるカメラは存在しない。実際には、複数の魚眼レンズで撮影した映像をソフト的に合成し、うまく繋がった「全天球の映像」にすることで対応する。この処理がスティッチ(縫い合わせ)である。業務用としては、複数のGoProを組み合わせて高画質・高解像度の全天球映像を作る手法もあるのだが、これは、大量の映像をうまくスティッチングすることで成立する。Adobeの動画編集ソフト「Premiere Pro CC」の最新版には、VR動画向けのスティッチ機能が搭載されている。

 

PCなどを使うのであれば、高度な演算と長い処理時間を使い、非常にクオリティの高いスティッチが可能になった。だが、全天球カメラ、特に個人向けのものでは、「スティッチに必ずPCを使う」という形が使えない。撮影してすぐに見られる・シェアできることが重要だからだ。撮影すると同時に、高品質なスティッチを行うのはなかなか難しい。

↑リコー「THETA S」
↑リコー「THETA S」

 

問題はハードウエアの構造にも関わる。全天球カメラの厚みが大きくなると、魚眼レンズ同士の距離が離れていって、画像の中の「縫い合わせる」部分が不自然に大きくなる。また、カメラの向きによって周囲の明るさは違うものなので、そのまま撮影すると、縫い合わせる部分で明るさが変わって大変なことになる。だから、「自動で光量を合わせる技術」「ハードウエアを薄く作る技術」「高精度なスティッチをする技術」などがすべて必要になるのである。先行メーカーであるリコーは、そういう縫い合わせ部分の不自然さを目立たないように努力することで商品性を高めている。

 

では、今後の全天球カメラになにが求められるのか? その辺は次回Vol.46-4にて。

 

●Vol.46-4は9月14日(水)公開予定です。

 

週刊GetNavi、バックナンバーはこちら