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2016/11/14 19:00

打倒アップルに燃えるファーウェイ―見えてきたスマホシェア2位の野望は実現するか?

11月3日、ファーウェイはフラッグシップモデルとなる「Huawei Mate 9」の2モデルを発表した。Mateシリーズは毎年秋冬モデルとして発表される、大画面モデルだ。だが今回の2つの製品は同社の高画質カメラスマートフォン「Huawei P9」譲りのライカ製カメラを搭載し、しかもポルシェデザインとコラボレーションしたモデルも加えるなど、春のフラッグシップモデルであった同P9を上回る製品に仕上がっている。

 

このMate 9ファミリーとP9、さらにはオンライン向けのHonorシリーズなど豊富なラインナップを誇るファーウェイのスマートフォン。しかも新製品の発表サイクルは早く、中低位モデルを含めるとほぼ毎月のように新製品を市場に投入している。同社の端末部門であるファーウェイ・コンシューマー・ビジネス・グループの リチャード・ユーCEOは、2016年に入ってから各メディアのインタビューに応える形で「2018年にはアップルを越え、2位入りを目指す」と話している。果たしてファーウェイの野望は実現するのだろうか?

↑11月3日に発表された「Mate 9」。P9より性能を上げたハイスペックモデル
↑11月3日に発表された「Mate 9」。P9より性能を上げたハイスペックモデル

 

2016年4月に行われたP9の発表会にはライカカメラのCEO、オリバー・カルトナー氏も登壇し、カメラ性能がライカ品質であることを説明した。これはファーウェイがライカのカメラを搭載したという意味だけではなく、ライカが自社ブランドを供与するメーカーとしてファーウェイを認めた、という歴史的な瞬間でもあった。100年以上の歴史を誇るライカは、自社のブランドを安売りすることは決してない。そのライカのお墨付きをもらったことで、P9はこれまでファーウェイに見向きもしなかった消費者の目を向けさせることに成功している。

 

もちろんカメラスペックが高いのは当然だが、スマートフォンとしての性能も高い。P9を初めて手にした消費者は、これがファーウェイの製品であるとは認識せずとも、高性能で高品質なスマートフォンとして満足感を十分得て使い続けていることだろう。その結果、P9は4月の発売から実質8か月で900万台を売り上げた。この数は過去のiPhoneが発売直後の週末数日で販売した数―たとえばiPhone 6sは最初の週末に1300万台を販売した―には遠く及ばない。だが忘れてはいけない、P9はアップルではなくファーウェイの製品なのだ。

↑P9はライカがファーウェイをパートナーとして認めた製品だ
↑P9はライカがファーウェイをパートナーとして認めた製品だ

 

このP9は日本でも5万9800円(税別)で発売されたハイエンドモデルだ(現在は5万800円に値下げ)。つまりターゲットはスマートフォン需要が一巡した先進国であり、現在もまだ成長が続く新興国を狙った製品ではない。その先進国で900万台を売り上げた実績は、大手メーカーにとって脅威となるだろう。しかもファーウェイによれば、ここ3か月でも毎月100万台の販売を続けているという。つまりP9人気は販売直後からまったく衰えず、コンスタントにファンを増やし続けているのだ。

 

このことは同社のブランド価値も高めてくれるだろう。インターブランドの世界ブランドランキング(Interbrand Best Global Brands)でファーウェイは2014年に94位と初めて100位以内にランクインし、2015年は88位と順位を上げた。もちろんアップルのブランド力1位、サムスンの7位と比べられるポジションではない。しかし「ライカの高画質カメラ搭載スマートフォン」を製造している企業という点だけでも、ブランド順位以上の力をつけていることは間違いない。

 

このように先進国でもブランド力を高めるだけではなく、新興国では「憧れのP9」の下に、「Huawei Gシリーズ」やHonorなど多数の中低価格モデルを販売している。同じ低価格のスマートフォンを買うなら、ライカカメラのファーウェイを買おう、と思わせるような広告戦略も多数展開中だ。ボリュームが稼げる母国、中国市場は成長が鈍化しているが、インドやインドネシア、そしてロシアなど次なる巨大マーケットへも本格的な進出を行っている。

↑新興国でも街中にはP9の広告であふれている(バンコク)
↑新興国でも街中にはP9の広告であふれている(バンコク)

 

インドに関してはアップルのティムクックCEOが2016年5月に訪問するなどテコ入れを行っているが、高価格な製品しかないアップルの製品がインドでシェアを取ることは難しい。インドでの売れ筋は100ドル台、1万円前後の製品であり、その数倍もするiPhoneを買うのは限られた消費者だけだ。しかもローカルメーカーなどが低価格スマートフォンを次々とリリースしており、旧モデルなら数千円程度でも購入できる。スマートフォンを日用品として考える消費者にとって、数万円の製品は選択肢には入りにくい。

 

インドの多くの消費者は街中に掲げられたP9の広告を見てファーウェイの店舗に訪れ、低価格なHonorシリーズを買っている。これは過去にノキア、そしてサムスンが新興国でシェアを伸ばした戦略と同じで、高価格なハイエンドモデルから、1万円以下で買える低価格モデルまでを揃えることで、あらゆる所得層にリーチできる。製品の種類だけならばローカルメーカーのほうが数は多いものの、それらのメーカーには性能と品質の面で安心できる製品はない。Galaxy Note 7の販売中止で失速気味のサムスンに変わり、Mate 9をこれから販売するファーウェイは新興国でのスマートフォン人気をこの冬、独り占めするかもしれない。

↑サムスンに変わり、ファーウェイが話題を一気に集める可能性も高い
↑サムスンに変わり、ファーウェイが話題を一気に集める可能性も高い

 

IDCの調査によると、2016年第3四半期(7-9月)のスマートフォン出荷台数は、サムスンが7250万台でトップ、アップルが4550万台で2位、ファーウェイは3360万台で3位につけている。2015年の同期ではアップルが4800万台、ファーウェイが2730万台と約倍の差をつけていたが、この1年で23%の成長を示したファーウェイが急激に追い上げた。例年ならばホリデーシーズンと重なる第4四半期(10-12月)はアップルの出荷台数が1年の中でも最も伸びるが、iPhone 7には過去モデルほどの勢いは感じられない。Mate 9人気でファーウェイがどこまで追いつけるか、注目される。

 

向かうところ敵なしに見えるファーウェイ。北米では大統領が変わり、今後の対中貿易政策にも影響が出てくるだろう。だがファーウェイは北米では苦戦しており、大統領選の結果は現在のビジネスに影響を与えることはなさそうだ。ちなみにカンターの調査では、2016年第2四半期の北米市場のシェアはアップルが31.6%で1位だったのに対し、ファーウェイは0.6%しかなかった。

 

ファーウェイのライバルは、シェア1位のサムスンはもちろんのことだが、むしろ注意しなくてはならないのは後ろから追いかけてくる同じ中国のOPPOとVivoだろう。この2社は2016年第2四半期に中国国内でシェア16.6%、16.2%を取りファーウェイの15.0%を追い抜き1位と2位となった(カウンターポイント調査)。両者は新興国を中心に展開しており、先進国までもカバーするファーウェイとは異なる戦略を取っている。だが強力なフロントカメラ性能や急速充電という、いまのスマートフォンに求められる機能を大きくアピールすることで、少数モデルながらも販売数を急激に伸ばしている。

↑各国でP9の新色も限定発売。値下げもされ販売数はさらに伸びるだろう
↑各国でP9の新色も限定発売。値下げもされ販売数はさらに伸びるだろう

 

アップルも2017年に登場させる新製品は、iPhone登場から10周年の記念すべきモデルということで、これまでの機種にはなかった機能やデザインで市場の人気を独占するだろう。ファーウェイがスマートフォンシェア2位になるためには、その新型iPhoneの前にブランド力と販売数を伸ばし、なおかつ後ろのメーカーに対抗しうる、特徴あるモデルを投入する必要がある。P9の新色やMate 9の発売時期、そして次なるHonorシリーズの新製品など、ファーウェイの今後の新製品の動向は、シェア2位を目指すためにひとつも外せない、重要なものとなるだろう。