デジタル
2015/11/9 9:00

【西田宗千佳連載】「GoPro」が変えた動画カメラ市場

「週刊GetNavi」Vol.36-3

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前回(Vol.36-2)解説したように、ホームビデオなどを撮影する従来型のビデオカメラの市場は、様々なライバルの浸食に耐えられず、縮小を続けている。

 

そのなかでも特に大きな影響を与えているのは、スマートフォンと「GoPro」に代表されるアクションカメラだ。前者は一般的なデジカメの市場にも多大な影響を与えているが、後者はビデオカメラの市場を食いつつ、新しい市場を開拓している、変化の中核にいる存在だ。

 

実のところ、スマートフォンとアクションカメラにおける動画市場の開拓は、根っこが同じところにある。通信の進化に伴い、「人に見せる」動画を撮影することが増えたためだ。

 

アクションカメラブームの前、2007~ 2008年頃、アメリカで「FlipVideo」という製品がヒットしたことがある。MP4で撮影できる小型のカメラで、内部のフラッシュメモリに映像を記録するシンプルなもので、いまの目で見れば、たわいもない製品だ。だが、USB端子が内蔵されていて、PCに直接接続できたことがヒットの要因になった。ビデオカメラから映像をPCに取り込むのは、当時は意外に大変なことだった。だがFlipVideoならば、USBメモリからファイルをコピーする感覚で良かった。自分が撮影した映像をYouTubeなどで共有する際の使い勝手では、天と地ほどの差があった。

 

アクションカメラは、そこに「堅牢性」を追加したものと考えていい。カジュアルな動画共有はスマホが担っているが、スポーツを中心とした映像の撮影には堅牢性の面で問題が多い。そこはFlipVideoも同じだった。

 

そこで、GoProは、スマートフォンの普及で低価格した撮像素子を活用、FlipVideoが押し広げた市場を「スポーツファンのためのもの」と定義し、ビデオカメラやスマホが入って来づらい場所として、アクションカメラの市場を作り上げ、独自にマーケティングを展開したことが、GoProの成功の理由だ。

 

実際問題、技術力という点では、従来型のビデオカメラを作っているメーカーの方が、GoProよりも高い。ソニーやパナソニックのアクションカメラは、GoProよりも高性能である。しかし、彼らがGoProより高いシェアを持つのは日本だけで、海外では全くかなわない。どういうシーンで使えるのか、複数使うとどう面白いのか、といった用途提案を積極的に行い、スポーツイベントのスポンサーにもなることで、「アクションカメラといえばGoPro」というブランド価値を構築したことが成功につながった。2010年代の製品の中で、最も華麗な成功例だと筆者は考えている。

 

映像のブレなどについては、周辺機器でカバーできる部分もあり、またそこに市場が生まれた。ドローンにアクションカメラを搭載し、そこでのブレを補正するためにジンバル技術に注目が集まったのも当然と言える。そして、そうやって生まれた市場から、DJIのOsmoのような、操作感も映像も、いままでとは違うビデオカメラが誕生することになった。

 

結局、現在のビデオカメラ市場をドライブしているのは「見せる」という用途を軸にした提案であり、過去のビデオカメラはそこに硬直した思考があったことが、敗北の原因だったのである。

 

では、ビデオカメラで培われた技術は今後どう使われていくのだろうか? その辺は次回Vol.36-4にて。

 

●「Vol.36-4」は11/16(月)ごろ更新予定です。

 

 

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