エンタメ
2017/5/4 16:00

【GWおすすめマンガ】ファンタジーに振り切る潔さのなかにクスッと笑えるセンスが光る『高台家の人々』

大人になると、いくら漫画好きでも、クラスの俺様イケメンとどうのこうのするとか、目立たない平凡な子がステキな王子様に見初められるとか、もうそういうラブストーリーはおなかいっぱいです。学園モノとかOLモノでも、女に都合よく気の利くイケメンなんか存在しないんです。ファンタジーです、ファンタジー。じゃあ、どうせファンタジーなら、最初っからファンタジーにしちゃえばいいじゃない?  というのが今回ゴールデンウィークにオススメのコミック第2弾としてご紹介する、森本梢子先生の『高台家の人々』です。

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(c)森本梢子/マーガレットコミックス YOU

 

木絵は見た目も凡庸、性格も凡庸なトロい子です。ある日、その木絵が事務員をやっている会社に超絶イケメンの光正さんが異動してきたところから話が始まります。しかも光正さんは、大人しくて目立たない木絵にぐいぐいと惹かれるようになっていくんです。……はい、もうこれだけいうと女性向けマンガ定番の展開ですね。超絶目立たない平凡な女が超絶注目の的の男性とくっつく……ねえよリアルにそんな展開。

 

だけどこれがめちゃくちゃ笑えるコメディなんです。木絵は頭の中ではいつでも壮大だけどくだらない空想をしています。光正さんが木絵に惹かれたのは、この彼女の空想が理由なんです。いやー、空想してるだけでイケメンが寄ってくるなら、バンバン空想しますよ、はあはあ!  ってか女はたいへん空想好きな生き物なので、たいていの女は毎日空想してると思います。

 

「通りがかった街角でテレビの撮影をしていたら『君、美人だね、ちょっとうちの番組に出てみない?』なんて声をかけられたらどうしよう」

「趣味で小説を書いてみたら、それを読んだ友達が勝手に新人賞に応募して、受賞してしまって一躍有名な小説家になっちゃったらどうしよう」

 

まあいくらでも思いつきます。木絵の空想はもっと自虐的でメルヘンっぽいですが。

 

そして光正さんたち高台家の人々は、人の心が読めるんです。ここが物語のキモです。大金持ちでイケメン・イケジョの人々を前にして、一般人がどんな薄汚いことを考えているのか、彼らは全部知っています。そのなかで、おかしな空想で心の平安を保っている木絵の頭の中を覗いた光正さんは、木絵に強い関心を持つようになっていきます。

 

女性向け恋愛漫画の多くは、イケメンが主人公の心の闇や悩みを理解して受け入れてくれます。「誰も気付いてないけど、主人公が心の優しい人だと知っている」とか「目立たないけど、女子力高いことに気づいてくれる」とか。だいたい、人の表情や感情を読むのが不得手な男性がそんな芸当できるわけないんですけどね。

 

「それならいっそ、人の心が読める超能力者ってことにしちゃえばいいじゃない!」っていうことで(かどうかは知らないけど)できたのが『高台家の人々』です。淡々としたなかに「くす」っと笑えるセンスの良さが光る秀作です。

 

光正さんや彼の妹・茂子の恋人に言い寄るブリッコ女たちが、彼らの能力によって次々撃退されていくのも爽快です。世の男性たちには、ブリッコ女が心の中でどんなことを考えているのか知っていただきたい!

 

高台家の人々はみな常軌を逸するほど美しいんだけど、彼らが飼ってるめちゃくちゃ怒り顔のデブ猫ヨシマサがたいへんいい味だしてます。

 

ゴールデンウィークが明けたら、会社に突然イケメン・イケジョが異動してきてたらいいですよね。怒った上司のイヤミも、会社での失恋も、木絵みたいにメルヘンな空想で乗り切っちゃえたら幸せそう。この作品は、ファンタジーを装いながら人間がポジティブに生きる道を教えてくれるのです(大げさか)。