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音楽
2017/5/10 20:00

尾崎紀世彦「風のグラフィティー」で思い出す“こども”でい続ける大人たちのパーティー

ギャランティーク和恵の歌謡案内「TOKYO夜ふかし気分」第14夜

みなさんこんばんは、ギャランティーク和恵です。ゴールデンウィークもあっという間に終わりましたね。長いお休みを満喫出来ましたでしょうか? ワタシのお店「夜間飛行」としましては、お休みどころかむしろかき入れ時ですので、朝までバンバン働きまっせ、という感じでしたが、連休というものはお店としてはありがたい反面、ワタシのプライベート面ではちょっと困りものなんです。

 

ワタシたちのような水商売の人間にとっては、みなさんが働いている平日の昼下がりに、人ごみの少ない街中でお買い物ができたり酒場で呑んだりできるのが唯一の楽しみでもあり特権だったりするのですが、そんなワタシたちの大事な休日を連休という魔物は容赦なく奪ってしまうのです。

 

特にゴールデンウィークは巨大な浮かれた魔物なので、いつも呑みに行っているモツ焼き屋にも敢えて足を運ばず、街の喧騒からできるだけ離れて、静かに魔物が過ぎてゆくのをウチの中で見守っております。長期休暇って大事だとは思うんですが、みんな足並みを揃えて休まなくてもいいと思いません? わざわざ混み合った街中や観光地でゆっくりお休みなんて出来ませんよねぇ。好きなタイミングでそれぞれが長期休暇を取れるような世の中になればいいのに。それだったらみなさんも好きな時に、空いた酒場で昼下がりから酒が呑めるのよ。こんな幸せはないんだから。

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↑ギャランティーク和恵さん(撮影:下村しのぶ)

 

ゴールデンウィーク、特に5月5日のこどもの日がやってくると、いつも思い出すことがあります。それは、ワタシが歌手活動を始めたころから毎年5月5日に六本木のジャズレストラン「サテンドール」で開催していた「STAGE 505(ゴーマルゴ)」というライブイベントのことです。

 

そのイベントは2003年から始まり、2012年までに10回も連続で開催してきました。きっかけは、大学時代に一緒にバンド活動をしていた友人からの、「大学を卒業して社会人になっても、年に1度は音楽で集まろうよ!」という提案からでした。ちょうどワタシも、大学時代に活動していたバンド「真夜中のギャラン」から、ソロ歌手「ギャランティーク和恵」として活動を始めたころで、まだ学生バンドの延長という感じもあり、そのイベントに集うお客さんのほとんども大学時代の友人たちで、年に一度の同窓会のようなイベントでもありました。

 

いまとなっては本当に恐縮で“若気の至り”だと痛感しておりますが、老舗のジャズレストランにもかかわらず、そのサテンドールの店長さんのご好意で、その日は飲み放題のライブイベントにして頂いておりました。大学卒業して間もないワタシたちは(あ、ワタシは卒業しておりませんが)、お酒の呑み方もいってしまえばガキのような呑み方で、ソファー席で立って踊って叫んでは酔いつぶれ、トイレでリバースなんかも起こる始末。出演者もベロベロになり、トリで出演だったワタシのバンドメンバーの1人が、トイレで酔いつぶれて籠もったまま出てこなかったのに、ワタシもメンバーもベロベロでそれに気づかずにステージで歌っていたりと、いまにして思うとハチャメチャなイベントでした。

 

それこそ「こどもの日」に託(かこつ)けて、「大人になってもずっと子供みたいにバカ騒ぎしようぜ!」と、それ以降「STAGE 505」は毎年決まって「こどもの日」に開催することになりました。サテンドールの店長さんも、こどもの日だからこの日くらいは……と温かい目で見ていてくれてたのかもしれません。

 

それからワタシたちは、5月5日のそのイベントを迎えるたびに1年ずつ年を重ねていき、昨日のようにすぐ近くにあった学生時代はだんだんと遠くに離れてゆきます。それぞれ環境は変わり、毎日仕事に追われる日々を送ったり、結婚して子供が生まれたり……。ずっと子供でいられると思っていたはずのワタシたちも、バカ騒ぎをしていたあの頃を忘れてしまったかのように、気がつくと本当の大人になっていたのでした。

 

月日が経つにつれて、ワタシも歌手として徐々にプロの世界へ足を踏み入れていくようになると、アマチュアもセミプロも混在していたこのイベントでどう関わっていけばいいのかわからなくなり、ただただ楽しくバカ騒ぎするはずだったのに、毎年こどもの日がやって来るたびにワタシは「大人の事情」で頭を悩ませるようになってしまったのです。そして、最初にこのイベントを始めようと声をかけてくれた友人と話し合った結果、10年を節目に「ゴーマルゴ」は最後にしようと決めたのでした。

 

【今夜の歌謡曲】

提供:日本コロムビア
提供:日本コロムビア

14.「風のグラフィティー」/尾崎紀世彦(アルバム『風のグラフィティー』に収録)
(作詞/山川啓介 作曲/大野雄二)

 

今夜ご紹介したい曲は、尾崎紀世彦さんの「風のグラフィティー」という歌です。若さを燃やした日々がだんだんと遠くなっていき、自分たちがいつしか大人になっていることに気づく時の淋しさ、そしてその思い出があった街に足を運ぶと、あの頃の記憶や夢や情熱がいまでも風のように呼び覚まされるという内容になっています。

 

ワタシも六本木の街を歩くと、毎年5月5日に六本木のサテンドールに集まって、音楽とお酒で若さを燃やしていたあの10年間を思い出します。歌を歌い始めた頃の情熱や純粋さを大事に大事に運んでくれた「STAGE 505」というイベント。「こどものような大人でい続けよう」という当初の意気込みこそが、まだ本当の意味で「こども」だったのかもしれませんが、それでもワタシは、そんな気持ちをどれだけ長く持ち続けられるか自分自身を試していたところがありました。だから、このイベントを打ち切ることに決めた瞬間、10年前のワタシ自身に負けた気持ちになったものです。

 

当時、まだ建設中だったミッドタウンの近くにあった頃のサテンドールは場所を変えてリニューアルされ、いまでも営業されてるみたいです。久々にお店に足を運んでみようかな……。もう、あの“甘いパーティー”が開かれることはないけれど、毎年「こどもの日」がやってくるたび、音楽を始めた時の新鮮な気持ちを、新緑をすり抜けて届く気持ちの良い風と共にいまも運んできてくれるのです。

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(撮影:下村しのぶ)

 

<和恵のチェックポイント>

1980年にリリースされた尾崎紀世彦さんの知る人ぞ知る名盤、LP「風のグラフィティー」の表題曲。大野雄二プロデュースによるライトメロウな大人の上質なサウンドに、尾崎紀世彦のやさしく肩の力を抜いたような歌唱が素晴らしい。このアルバムに先駆けて発表された、79年リリースのシングル「My Better Life」も素晴らしいので、ぜひご一聴頂きたいと思います。

 

尾崎紀世彦さんといえばもちろん、71年にレコード大賞を獲得した「また逢う日まで」が有名です。日本人離れしたフィーリングと伸びやかな声の張りが、尾崎紀世彦さんのイメージではありますが、このアルバムでは当時のアーバンな気分や年齢を重ねた渋みもあってか、少し抑えめに歌っています。しかしそこが、尾崎さんの持つダンディな声質と相まって、都会的で大人な男性を見事に表現されているのです。カンツォーネやオールディーズを声高らかに歌い上げるキーヨ(尾崎さんの愛称)も大好きですが、この少し肩の力を抜いた歌い方もまた魅力的です。

 

作曲・編曲はもちろん大野雄二センセー。みなさんご存知のところだと、「ルパン三世」や「犬神家の一族」など、アニメ・映画・ドラマなどの劇中歌などを多く手がけられているイメージですが、歌謡曲にもたくさんの名曲を生み出されている、歌謡史には欠かせない方です。ジャズの世界で活躍されている大野雄二さんならではの複雑なコード使いや展開などは、この曲ではそこまで目立たず非常にシンプルで、おだやかな風がゆったりと流れるようなメロディとアレンジが故に、懐かしく甘い思い出を呼び起こさせてくれます。

 

作詞は山川啓介センセー。青い三角定規「太陽がくれた季節」や岩崎宏美「聖母たちのララバイ」などの大ヒット作を手がけている方です。大野雄二さんとのコンビでは、由紀さおりさんの「故郷」(1972)という曲もあり、ワタシも大好きでよく歌わせてもらってます。この「風のグラフィティー」の歌詞もしかり、ワタシは相変わらず「青春」やら「故郷」やらを振り返る系の歌詞に弱いんだなぁ……とつくづく思うのであります。振り返ってばかりじゃダメなんですけどね……。

 

【INFORMATION】

1980年に制作されたアルバム「風のグラフィティー」の全10曲に加え、その後に発売されたシングルや、「宇宙刑事シャリバン」「ルパン三世」の挿入歌、コンピレーション収録のちあきなおみ「喝采」のカバーなど計6曲をボーナス・トラックとして収録した復刻CD「風のグラフィティー[+6] 」が発売中です。ギャランティーク和恵さんがコラム中で紹介した「風のグラフィティー」や「My Better Life」のほか、尾崎さんが自身の曲のなかでも最も気に入っていたという「季節風」など、多数の名曲を収録しています。ぜひ、チェックしてみて下さい。

尾崎紀世彦「風のグラフィティー[+6] 」
税込価格:2520円
発売元:日本コロムビア
発売中

 

ギャランティーク和恵さんが昭和歌謡の名曲をカバーする企画「ANTHOLOGY」の第5集「ANTHOLOGY #5」が、2017年5月31日(水)に配信&CDでリリースされます。それに合わせて、ライブも連動して開催。詳しくはANTHOLOGY特設ページをご覧ください。

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「ANTHOLOGY #5」

2017年5月31日(水)発売
配信:600円(税込)日本コロムビアより
CD:1000円(税込)モアモアラヴより
iTunes store、amazon、他インターネットショップにて

 

<曲目>
01. ステージ・ドア(作詞:橋本 淳 作曲:大野雄二)
02. ホット・スポット(One night at Othello)(作詞:ちあき哲也 作曲:矢島 賢)
03. 孤独な旅人(作詞:呉田軽穂 作曲:佐藤 健)

 

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LIVE「anthology vol.5」

日時:2017年5月26日(金)
会場:南青山MANDALA(外苑前)
時間:開場19:00 開演:20:00
料金:4500円(1d付)