家電
2017/3/21 19:54

コーヒー家電はなぜここまで多様化したのか? 6つのトレンドから読み解くコーヒー新時代

「サードウェーブコーヒー」という言葉をご存じだろうか。1960年代までの、大量生産・大量消費時代が「ファーストウェーブ(第1の波)」、1960年代にシアトル系コーヒーチェーンを中心に広がった、深煎りで高品質な豆を使ったコーヒーの時代が「セカンドウェーブ(第2の波)」。

 

1990年代からは、フェアトレード(発展途上国で生産される作物や製品を適正な価格で取引すること)やコーヒー豆のトレーサビリティー(食品の安全を確保するために、生産、加工、流通などの過程を明確にすること)、豆そのものの素材や淹れ方などにこだわる「サードウェーブ(第3の波)」の時代と言われている。

 

コーヒーはサードウェーブからフォースウェーブの時代に!?

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↑「The Roast(ザ・ロースト)」のスマートコーヒー焙煎機 AE-NR01

 

そんななか、パナソニックが新たにコーヒー新事業をスタートし、「フォースウェーブ(第4の波)の時代」を打ち出した。同社が販売する焙煎機と、コーヒー輸入商社が提供する生豆、焙煎士が提供する焙煎プログラムによって、「自宅で焙煎する」というものだ。自宅焙煎が「フォースウェーブ」になるかどうかは未知数だが、新たな時代が幕を開けそうな予感はある。

 

そのほかにも、高級トースター「BALMUDA The Toaster(バルミューダ ザ・トースター)」で話題をさらった家電ベンチャーのバルミューダが、コーヒーのハンドドリップに着目して発売した「BALMUDA The Pot(バルミューダ ザ・ポット)」も注目を集めている。それ以外にも、いわゆるドリップタイプのコーヒーメーカーとは違う“コーヒー家電”が数多く登場してきている。以下では、それらが生み出す新たな潮流を紹介していこう。

 

その1

パナソニックが生豆を定期頒布するコーヒー事業を開始

まずはパナソニックの新しいコーヒーサービス「The Roast(ザ・ロースト)」から紹介しよう。こちらは4月上旬にスタートするサービスで、スマホと連携して自動的に生豆を焙煎する「スマートコーヒー焙煎機」と、毎月1回、1年間かけて生豆を届ける定期頒布プログラムを組み合わせたもの。生豆はコーヒー輸入商社の石光商事が提供。それらの豆に合わせた焙煎プロファイルは2013年に焙煎世界大会チャンピオンになった「豆香洞(とうかどう)コーヒー」(福岡)の後藤直紀氏が提供する。

↑パナソニックが4月上旬にスタートする新しいコーヒーサービス「ザ・ロースト」は、スマホと連携して自動的に生豆を焙煎する「スマートコーヒー焙煎機」と、毎月生豆が届く定期頒布プログラムがセットになったものだ

↑パナソニックが4月上旬にスタートする新しいコーヒーサービス「ザ・ロースト」は、スマホと連携して自動的に生豆を焙煎する「スマートコーヒー焙煎機」と、毎月生豆が届く定期頒布プログラムがセットになったものだ
↑パナソニックが4月上旬にスタートする新しいコーヒーサービス「The Roast(ザ・ロースト)」は、スマホと連携して自動的に生豆を焙煎する「スマートコーヒー焙煎機」(写真上)と、毎月生豆(写真下)が届く定期頒布プログラムがセットになったものだ

 

豆香洞コーヒーの後藤氏によると、コーヒーの味をよくする上で最も重要なのが焙煎で、ドリップを工夫してもほとんど味に影響はないという。焙煎した直後から劣化(酸化)が加速するため、必要なときに必要な分量だけ焙煎し、焙煎したての豆でコーヒーを入れられるのが大きな強みだ。焙煎機の本体価格は10万円(税抜)、定期頒布プログラムは月額3800円(税抜)からと、決して安くはない。しかしコーヒーの味にこだわる人、毎日のようにコンビニコーヒーなどを利用している人なら、悪くない選択肢なのかもしれない。

 

その2

ハンドドリップにこだわる人向けの電気ケトルも登場

大ヒット商品となった「BALMUDA The Toaster(バルミューダ ザ・トースター)」に続くキッチン家電第2弾ということもあって、「BALMUDA The Pot(バルミューダ ザ・ポット)」をご存じの方も多いかもしれない。しかし、コーヒーのハンドドリップに着目した電気ケトルは、実はほかにも多数登場している。

↑バルミューダの「バルミューダ ザ・ポット」(2016年10月発売、実売価格1万1000円)
↑バルミューダの「BALMUDA The Pot(バルミューダ ザ・ポット)」(2016年10月発売、実売価格税抜1万1000円)

 

そのひとつが、コーヒードリッパーやペーパーフィルター、コーヒーミルなど多数のコーヒー関連用品を製造・販売するハリオの「V60温度調整付きパワーケトル・ヴォーノ EVKT-80HSV」(2016年7月発売、実売価格2万1600円)だ。一般的な電気ケトルは100℃で沸騰すると自動的に切れるというものだが、これは60~96℃の範囲で1℃単位で温度を設定でき、加熱後は15分間の保温が可能となっている。コーヒーや紅茶、緑茶、中国茶などで、最適な湯温は異なるといわれているし、人によって好みもあるだろう。そういったニーズに応えてくれる製品だ。

↑ハリオの「V60温度調整付きパワーケトル・ヴォーノ EVKT-80HSV」(2016年7月発売、実売価格2万円)
↑ハリオの「V60温度調整付きパワーケトル・ヴォーノ EVKT-80HSV」

 

その3

全自動タイプでは無印のスタイリッシュモデルが大人気に

コーヒーを豆から挽いて抽出してくれる全自動コーヒーメーカーにも、注目のモデルが登場した。良品計画(無印良品)の「豆から挽けるコーヒーメーカー MJ-CM1」(2017年2月発売、直販価格3万2000円)だ。豆を均一に挽けることを追求し、「フラットカッターミル」と呼ばれるコーヒーミルを内蔵したもの。スリムでスタイリッシュなデザインも相まって、原稿執筆時には販売を中止するほどの人気ぶりだった。

↑良品計画(無印良品)の「豆から挽けるコーヒーメーカー MJ-CM1」(2017年2月発売、直販価格3万2000円/税込み)
↑良品計画(無印良品)の「豆から挽けるコーヒーメーカー MJ-CM1」

 

その4

1杯抽出タイプではスマホ連携モデルが人気

手軽さという点では、ネスプレッソシリーズのようなカプセルを利用する「1杯抽出タイプ」も人気が高い。このタイプにも新たな潮流が生まれている。

 

ひとつはネスプレッソの「ネスプレッソ プロディジオ C70」(2016年4月発売、実売価格1万8130円)だ。スマホと接続することで、カプセルの残数管理やコーヒーの抽出予約ができるというもの。水タンクが空になったり、湯垢洗浄が必要なときなどにお知らせしてくれる機能なども搭載している。

↑ネスプレッソの「ネスプレッソ プロディジオ C70」(2016年4月発売、実勢価格1万6780円)
↑ネスプレッソの「ネスプレッソ プロディジオ C70」

 

その5

フラペチーノが作れるコーヒーメーカーも登場

スターバックスなどのコーヒーチェーンでは、コーヒーなどを凍らせてスムージーのようにする「フラペチーノ」が人気だ。同様のドリンクが家庭でも作れるというコーヒーメーカーも増えている。例えばドウシシャから発売された「SOLUNA Quattro Choice(ソルーナ クワトロチョイス) QCR-85A」(2016年10月発売、実売価格1万2390円)がその1つだ。

↑ドウシシャの「SOLUNA クワトロチョイス」(2016年10月発売、実勢価格1万3920円)
↑ドウシシャの「SOLUNA Quattro Choice  QCR-85A」

 

こちらはドリップタイプのコーヒーメーカーとミキサーを一体化させたもの。自宅でちょっとオシャレなフラペチーノを楽しみたい人にピッタリの製品だ。

 

その6

アイスコーヒーのニーズに対応した専用アイテムも

もう1つ変わり種のコーヒーメーカーを紹介しよう。サーモスが2016年3月に発売した「アイスコーヒーメーカー ECI-660」(実売価格5700円)は、アイスコーヒー専用のコーヒーメーカーだ。同社の調査によると、週に1回以上コーヒーを飲む人の約88.3%は自宅でコーヒーを楽しんでおり、そのうちの約45.7%がアイスコーヒーを飲んでいることがわかったという。そこで、アイスコーヒー専用のコーヒーメーカー開発に至ったとのことだ。

↑サーモスの「アイスコーヒーメーカー ECI-660」(実勢価格5780円)
↑サーモスの「アイスコーヒーメーカー ECI-660」

 

長めの時間でじっくりと抽出し、氷に直接ドリップして急冷することで、透明感のあるコーヒーに仕上がる。サーバーは二重構造になっているため、冷たさを長くキープできるのも大きな特徴だ。

 

「街コーヒー」の充実でユーザーの楽しみ方が広がった

ここ数年で、コーヒーメーカーのバリエーションが大幅に増えてきたように思える。先述したように、ドリップコーヒーメーカーをはじめ、フラッペメーカー、アイスコーヒー専用コーヒーメーカーなど、その種類は極めて幅広い。こうした流れは、どこでも本格コーヒーが楽しめる環境が広がったことと無縁ではないだろう。街に出れば、昔ながらの喫茶店から、エスプレッソやフラペチーノなどを楽しめるシアトル系コーヒーチェーン、コンビニコーヒーまである。また、世界を見渡しても、日本ほど缶コーヒーのバリエーションが豊かな国はない。

 

外で幅広い楽しみ方に触れた消費者は、やがて「自宅でも同レベルのコーヒーを」と思うようになる。こうした流れを受け、消費者の様々なニーズに応えるアイテムが登場したというわけだ。近年のユーザー心理の変化を示す、良い例が筆者だ。実は、筆者はコーヒーを飲み始めて10年に満たない。最初はエスプレッソマシンで手軽に楽しみ始めたが、やがてカプセルタイプの1杯抽出型、ハンドドリップ、水出しコーヒーなど、さまざまなスタイルでコーヒーを楽しむようになっていった。いまでも、気分によってカプセルタイプのアイスコーヒーを飲んだり、挽き立ての豆を使ってドリップしたりと、状況によって違うコーヒーを楽しんでいる。同様に、一般ユーザーも、コーヒーのおいしさや楽しさに目覚め、より幅広い楽しみ方を学んでいったのだろう。

 

ともあれ、先述のような幅広いアイテムが登場したことで、様々なスタイルでコーヒーを楽しめるようになったのは喜ばしいことだ。こだわりの電気ケトルでハンドドリップにこだわるもよし、全自動の手軽さを追求するもよし。みなさんも、ぜひ普段とは違った楽しみ方を追求してみてほしい。

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