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2016/3/30 17:21

「ムリだよね」と言われ続けた平面ヒーターをどうやって実現したのか? 【パナソニック 3つ星ビストロ NE-BS1300 開発秘話】

スチームオーブンレンジの「3つ星 ビストロ」は、累計販売200万台を突破した人気シリーズ。2016年3月14日には、その新作となるNE-BS1300が発表されました。本機の最大の特徴は、平面形状の「大火力極め焼きヒーター」を搭載した点です。実はこのヒーターの開発には、大変な苦難が伴っていました。今回は、表には出てこない開発秘話にスポットを当てていきましょう。

 

「使ってもらえればわかってもらえる」そんな思いから平面ヒーターの開発がスタート

NE-BS1300は、パナソニックの人気シリーズ「3つ星ビストロ」の新作。庫内の天井部分に搭載する平面形状の「大火力極め焼きヒーター」の搭載が大きなポイントです。この技術の開発はどのように進んでいったのか、まずはビストロ全般の商品企画に携わった井上広美さんにお話をうかがいました。

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↑商品の説明をするパナソニック商品企画部の井上広美さん。管理栄養士の資格を持ち、具を切って入れるだけで完成する「かんたん煮物」を発案した実績を持っています

 

「従来の光ヒーターでは強い火力が得られ、ユーザーの方から大変好評でした。しかし、購入検討時に、ヒーターがむき出しの見ためから、『掃除がしにくそう』と敬遠されることもあったんです。実際は天井の汚れを焼き切る機能もあって、汚れが落ちにくいことはなかったのですが。使ってもらえれば、良さをわかってもらえるのに……。そんな悔しい思いもあって、平面ヒーターの開発が始まりました」(井上さん)

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↑先代モデルの天井部。電熱線が露出しています

 

「ただ、熱源と食品の間に1枚の板を挟めば、火力が落ちることは目に見えていました。火力を落とさず、しかも消費電力を増やさずに平面にするにはどうするか……。実際、開発は『原理的にムリ』と言われていて、担当した技術部の辻本(真佐治)は辛そうでした。『最近、眠れないんだよ』とつぶやいていて。『辻本さん、諦める?』と何度も聞きましたが、辻本はあきらめなかったんです」(井上さん)

 

開発者の前に立ちはだかった「火力」と「変形」という2つの課題

では次に、井上さんの話に登場した苦難の当事者、辻本真佐治さんに話を聞いてみましょう。

 

「炊飯器の担当に『高火力の平面ヒーターの開発をする』と話したら、すぐに『そりゃムリだよね』と言われました。同期や審査部門にも『一体どうやって平面ヒーターにするの?』とずいぶん聞かれましたが、『こっちが聞きたいよ!』という気持ちでしたよ。特に困難だった点は主に2つ。ひとつはヒーターの仕様を決めることでした。ビストロは、30ℓの大型タイプでも、トースト1枚3分台で焼ける高火力が売りでしたので、まずはトースト1枚がきちんと焼ける火力を確保しました。ただ、それ以上に加熱の範囲を広げるのが難しかったんです。色々と工夫をした末、『今回はどうだ?』とサンマを焼いてみたところ、頭としっぽが完全に生で。かたずを飲んで見守っていた全員がひとことも発しなかった……なんてこともありました」(辻本さん)

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↑平面ヒーターの解説をする辻本真佐治さん。1983年の入社以来、レンジの開発に携わっています

 

「苦心の末に思いついたのが、ヒーターを内側と外側で分離し、それぞれを制御すること。具体的には、はじめはヒーターの外側を630W、内側を650Wで考えていたのですが、内側を900Wにしようと。ただし、900Wのままでずっと加熱してはブレーカーが落ちてしまいますから、内側のヒーター温度を可変とし、300~900Wの間で細かく制御できるようにしました。つまり、スペックを上げた上で、制御の面で工夫したわけですね。加えて、必要に応じて下からの電波で加熱の援護をするようにしました。こうして“火力不足”という課題を克服することができたんです」(辻本さん)

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↑天井部に内蔵する発熱部。辻本さんが指すのは外側のヒーター

「もうひとつ、頭を痛めていたのが、熱源と天井部の板に空間ができてしまうこと。物質は温められると膨張しますので、ヒーターを熱して10分もすると天井の板が膨張し、ボコっと変形してしまう。変形すると熱源と板の間に空気層ができ、熱がうまく伝わらないんです。板を熱源に密着させるにはどうすればいいか? 夜、眠るときもこれが頭から離れず、『頼む、(板が熱源に)密着してくれ!』と、夢の中で願ったこともありました」(辻本さん)

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↑天井の変形で熱が伝わりにくいことを示すスライド

 

では、熱で天井の板が変形するという致命的な課題はどうやって克服したのでしょうか? 天井の板には枠があり、その内側を指差して辻本さんは説明してくれました。

 

「枠の内側の長辺と短辺に、それぞれアール(曲線)がついているのがわかるでしょうか? こうすることで、膨張の方向を一方向へと誘導したんです。つまり、熱するほど板が内側へ、内側へと延びるいくわけで、加熱するほどに密着度が高まってくるわけです。もうひとつの工夫は、表面に施したハニカム構造(ハチの巣に見られる六角形の構造)。ハニカムは前後、上下への力に強く、多方向への熱変形を抑制してくれます」(辻本さん)

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↑六角形の補強材を入れた天井部。中央が深く、端に向かうほど浅くなっていく曲線にも注目です

 

こうして辻本さんは、「火力の弱さ」と「天井の板の変形」という課題を克服。「大火力極め焼きヒーター」は、新たなビストロの目玉として世に出ることとなりました。レンジの新機種の開発では、マイナーチェンジの場合だと、関わる設計者は1~3人程度といいます。しかし、本機の開発では、合計7人もの設計者が参加。このことからも、今回の開発がどれほど困難で、大掛かりなものであったかが想像ができるでしょう。

 

「ヒーターを平面にした」

 

文章にするとたった1行ですが、そこには技術者の魂と、「使ってもらいたい」という同社の強い思いが込められているのです。

↑従来機(左)と新機種のNE-BS1300(右)。NE-BS1300のすっきりした庫内は、地道な開発の賜物です
↑従来機(左)と新機種のNE-BS1300(右)。NE-BS1300のすっきりした庫内は、地道な開発の賜物です

 

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パナソニック

スチームオーブンレンジ

3つ星ビストロ NE-BS1300

実売予想価格18万1440円(6月1日発売)

1台で「焼く、煮る、蒸す、揚げる」が可能。肉や魚をこんがり焼き上げる平面形状の「大火力極め焼きヒーター」を搭載しています。手軽な素材で簡単にできる「3素材×3ステップ」調理コースも新搭載。

 

 

【SPEC】

サイズ/質量:約W494×H390×D435mm (外形寸法)、約W394×H235×D309mm(庫内寸法)/約20kg

庫内容量:約30ℓ

 

【URL】

パナソニック http://panasonic.jp/

NE-BS1300 http://panasonic.jp/range/ne_bs1300/