家電
2016/12/22 17:05

9年連続業界トップと離職率1%台を両立! 「ザ・ホワイト企業」の社長が語った「強く正しい会社」を作る方法

最近は、なにかと「ブラック企業」が話題になっていますが、そんな風潮のなか「ホワイトすぎる!」とウワサの「ダイニチ工業」をご存じでしょうか? 名前を知らなくても、家電量販店やホームセンターなどで一度は同社の製品を見たことがあるはず。なぜなら、ダイニチ工業は、メーカー別家庭用石油ファンヒーターの販売台数シェアは9年連続で日本一。そのうえ、加湿器も3年連続でメーカー別販売数量・金額シェア1位という驚きの業績をもつ会社だからです。ではいったいなぜ、同社はそこまで日本一を継続できるのか? そして、「ホワイト企業」と呼ばれる会社のトップとはいったいどんな人物なのか……疑問の数々を晴らすため、ダイニチ工業の代表取締役社長、吉井久夫氏を直撃しました!

 

品質を重視するなら国内生産は外せない

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――それにしても、石油ファンヒーターが9年連続で日本一というのは、もの凄い記録ですね。

 

吉井久夫氏(以下、敬称略) 当社は決して規模が大きな会社ではありません。そんなメーカーが、石油ファンヒーターのシェアを50%以上取っているというのは、たしかに凄いと思われるのかもしれませんね。とはいえ、いきなり夢のないことを言いますが、シェアトップの理由のひとつは、石油ファンヒーターを作るメーカーさんが減った点も大きい。石油ファンヒーターというジャンル自体が以前と比べると縮小していますから。

 

――そうは言っても、業績は安定していますよね。

 

吉井 石油ファンヒーターは寒冷地での強さや、即暖性などのメリットがありますから、需要が縮小してもなくなることはないと感じています。そのなかで、当社は製品の品質や安全性にこだわり、真面目にモノづくりをしている。それが評価されているのだと思います。

 

もちろん、他社さんも製品作りに手を抜いているわけではないでしょう。ただ、我々は「国内生産」にこだわって作っています。近年、設計は国内で行うものの、生産はコストの安い海外行うメーカーさんも多い。ですが、私は品質を重視するなら「国内生産は外せない」と考えています。たとえば、海外でも「見た目は完璧」な製品は作れるんですよ。でも、フタを開けた裏の塗装が甘かったり、バリが残っていたりする。この違いにこだわるのは日本ならではのセンスだと思っています。もうひとつ、安さばかりを追って海外生産に頼ると、未来の技術者が育たず、「モノづくりの空洞化」が起きてしまう。長い目で見ると、コストがかかっても国内生産にはいろいろな必然性があるんです。

 

フルタイムで働くなら正社員にするのが当たり前

――石油ファンヒーターは特に安全性が重要なので、品質は重要ですよね。

 

吉井 はい。その点、当社の石油ファンヒーターは、まだリコールを出したことがないんですよ。家庭内で燃料を扱う製品なので、数多くのチェック工程があるのはもちろんなのですが、「ネジを一本見逃したかもしれない」などの申告をすると表彰されるシステムもあるんです。

 

――え、ミスをしたのに表彰されるということですか?

 

吉井 「ミスをしたら怒られる」と思うと、申告しにくいじゃないですか?  ですから、ミスを申告したらむしろ表彰する。人ですからミスはゼロにはできないので、ミスを見つけて次につなげれば良いんです。一番よくないのはミスを隠したり、誤魔化したりすることですね。 「知りながら悪を成すな」というのは社員にはいつも言っています。

 

――ダイニチ工業というと、「ホワイト企業」としても有名です。雇用調整の犠牲になる派遣社員などはなるべく採用せず、工場で働くスタッフもほとんどが正社員と聞いています。

 

吉井 周りからはよくそんな言われ方をしますが、自分ではそういう意識はないですね。一年中フルタイムで働くなら、正社員にするのが当たり前というものでしょう。

↑ダイニチの工場のスタッフはすべてが正社員
↑ダイニチの生産ラインのスタッフはすべてが正社員。出荷のピークとなる12月でも正社員比率は98%とのこと

 

――一年中とおっしゃいましたが、暖房器具の生産工場というと、需要のある冬の前だけ稼働するイメージがあります。ダイニチ工業では一年中仕事があるのですか?

 

吉井 一年を通して生産すると、在庫リスクを抱えなくてはなりませんから、暖房器具は秋冬にまとめて生産するメーカーがほとんど。ただし、この方法だと「工場が稼働しない月」が発生してしまいます。そうなると、工場も季節ごとに従業員を増減させる必要があるので、スタッフを正社員として雇えなくなってしまう。また、同時に当社の製品のパーツを作る協力工場も稼働できなくなるため、協力工場の収益も安定せず、安心して働いてもらえません。そこで、当社では一年を通じて生産を行うことで、これらの問題を解決しました。それだけではなく、春や夏は出荷が見込めるスタンダードな製品を作り、秋冬は需要動向をチェックしつつ生産することで、過剰在庫を防ぐ工夫もしています。

↑ダイニチの倉庫。ピーク時には
↑在庫が積み上がったダイニチの倉庫。ピーク時の8月には在庫が90万台に達します

 

――従業員や協力工場の立場からすると魅力的な話ですが、会社にとってメリットはあるのですか?

 

吉井 まず、一気に製品を作る必要がないので、最小限の設備と人員で作業ができます。また、スタッフは通年働くことで熟練するので、製品の品質も安定させることができます。また、ほとんどのメーカーは「在庫をあまり持たないこと」を目指していますが、うちは一年中生産するので「いつでも在庫がある」状態。でも、このおかげで量販店などの急な要望にも応えられます。そのうえ、熟練した生産スタッフのもと、注文を受けてから4時間で製品を生産できる「ハイドーゾ生産方式」というシステムも確立しています。量販店などのバイヤーさんにとって、品切れは責任問題ですが、他社メーカーの在庫が切れても、「ダイニチさんならなんとかしてくれる」と思ってもらえるのが大きいですね。

 

仕事を減らさなければ「残業を減らせ」と言っても意味がない

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――最近は過剰な残業が社会問題になっていますが、この点についてはどう対処していますか?

 

吉井 当社は1年中稼働しているので、一般的な季節製品の生産現場と比べると、もともと残業は少ないんです。とはいえ、冬の繁忙期は追加生産が発生してしまうこともあって、そういった場合は協力会社とともに、どうしても残業が発生しますね。ただし、そのぶん夏などの閑散期は長い休みが取れるようにしています。

 

また、会社が「残業を減らせ」「早く帰れ」というのはたやすいですが、仕事自体を減らさなくては仕事を家に持ち帰るだけで意味がない。ですから、仕事を徹底的に見直して、仕事を減らす取り組みもしています。たとえば、それほど忙しくない部署の人員を忙しい部署に配置する、開発する商品を絞りこむ、ムダな資料作りを止める、などですね。

 

もうひとつ、「特定の人のみで動かす仕事」を極力減らすようにしています。たとえば、当社は日本全国に営業所を持っていて、従来は各営業所で一人が受注の仕事をすることが多かったんです。しかし、それだと一人にかかる負担が重くなり、病気や急用があっても休みをとりづらい。そこで、今は営業所の受注業務を本社の営業コールセンターで一括して請け負うシステムに変えました。複数で仕事ができるようになったので仕事の分担ができますし、だれかが病気になっても誰かが代わりに作業が行えます。一人が負う負担を減らすのは重要ですね。

 

会社の価値は「周囲の人々を豊かにすること」

――平均的な企業の離職率が約1割のなか、貴社は1%前後という離職率の低さも目立ちます。

 

吉井 社員ひとりひとりの生活が充実していたら、辞める必要なんてないでしょう? また、女性社員が出産しても、戻ってきやすい仕組みがあるのも特徴ですね。たとえば、生産ラインは8:30~17:30までの稼働が基本。そこで、9:00~16:00までしか稼働しない業務用石油ストーブのラインを作り、育児中の短時間勤務に利用しやすい環境を作っています。また、長期の育児休暇がとりやすいシステムも整備しており、その甲斐あって、昨年の女性社員の育休取得率は100%に達しました。

――ちなみに、一年に一度の大運動会があると聞いています。こちらも社員の意識に影響を与えているのでしょうか?

吉井 本社や工場スタッフをはじめ、全国の営業所員や協力工場の皆さんが参加する大運動会のことですね。参加人数は約1000人にもなります。もともとは社員の体力測定のために始まったイベントだったのですが、今は社員や関係会社の交流の場となっていて、社内外の一体感を高めるのに大いに役立っています。

 

運動会には応援合戦などもあるので、毎年若手社員がさまざまな趣向を凝らした企画を考えてくれます。毎年、運動会の内容は自由に企画してもらっていますが、ひとつだけこだわっているのは「100m走だけは全員参加」ということ。同じ競技に参加することで、社員や協力工場との連帯感が生まれるし、共通の話題も作れますよね。それに、たとえ足が遅くても「まだゴールまで走れるんだ」という達成感を味わってほしいんです。

 

もうひとつ、運動会を開催する理由は、「誰もが輝ける場所」を作るため。会社のなかには、仕事でスポットライトが当たりづらい人というのはいるんですよ。でも、そういった人でも、運動会の種目や応援合戦では輝けることもある……私は、会社にはそんな場所が必要だと思うんです。

 

――これらの仕組みは、社長がすべてトップダウンで指示したものですか?

 

吉井 最終的な判断を下すのは私ですが、私が「やろう」と言い始めたわけではありません。現場からの声に対処していったら自然にこうなっただけです。

 

――とはいえ、働きやすさより会社の利益を優先させることもできたはず。それをしない理由は何ですか?

 

吉井 私は別に、会社を大きくしたいわけではないんです。当社の社員は500人前後ですが、協力工場や関連会社を合わせると、何千人という人が関係しています。こうした周りの人々を豊かにすることこそが、会社の価値だと考えています。自分だけ貯めこんでも意味がないし、面白くない。やっぱり、みんなで一緒に豊かになっていきたいじゃないですか!

 

……今回、取材をしていて強く感じたのは、社長の「フェアでありたい」という意思です。フルタイムで働いているなら正社員であるべき、協力会社も安定した収益があるべき……「正当な労働には、正当な対価で返したい」という思いが伝わってきました。特に心に残ったのは、社長の「私は会社を大きくしたいわけではない。周りの人々を豊かにしたいんです」という言葉。人間を消耗品として扱う会社が跋扈する昨今、その言葉はシンプルながら極めて新鮮で、十分に衝撃的でした。そして、人を大切にし、常にフェアであろうとする会社が、ユーザーの声をコツコツ集めて作ったという製品が、悪かろうはずがないですよね。今回のインタビューで、ダイニチの製品がなぜ多くの支持を集めているのか、その理由がよくわかった気がします。

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ダイニチ工業 http://www.dainichi-net.co.jp/

 

撮影/中村介架