ライフスタイル
2017/2/8 18:22

「トイレって陶器なんですね」主婦の声が転機に! 革命的おそうじトイレ「アラウーノ」はいかにして誕生したか?

2006年、トイレといえば陶器というイメージが強かった日本において、パナソニックが販売した有機ガラス製の「アラウーノ」は「全自動おそうじ機能」と併せて、大きな驚きをもって受け入れられました。今回は、開発者のインタビューを交え、パナソニックの「アラウーノ」への取り組みと、アラウーノ10周年を記念して販売された新型アラウーノのカラバリ展開を取り上げます。

 

全自動おそうじ機能を搭載したトイレが10色展開!

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パナソニック

全自動おそうじトイレ

新型アラウーノ

標準タイプ(本体)32万4000円+カラー指定1万800円

全自動おそうじ機能を搭載するトイレ。発売10周年を記念して新型アラウーノのカラバリ展開を開始しました。Japaneseテイストの3色、Stylishテイストの4色、Casualテイストの3色と、テーマ性のあるカラバリを用意し、自分好みにトイレ空間をコーディネートできます。

 

2社との技術差を埋めるべく新素材にチャレンジ

国内トイレ市場は、TOTOとLIXILがシェア1、2位を占めています。両社に共通するのは元々陶器メーカーである点で(LIXILの前身はINAX)、それゆえ日本人には「便器=陶器」というイメージが浸透しています。

 

いま、この2社を猛追しているのがパナソニックです。2006年に発売した「アラウーノ」が人気を博し、タンクレストイレ市場ではシェア約40%まで成長。トイレ全体のシェアでも“二強”の牙城を脅かす存在となりました。アラウーノの特徴は、何と言っても「素材が陶器ではない」という点です。

 

「元々は、パナソニックでも陶器のトイレを製造していました。しかし、2社との技術差は大きく、どうしても製品クオリティで超えられませんでした。何か新しい製品で打破しなければならないということで、新素材を用いたアラウーノの開発に踏み切ったのです」(パナソニック エコソリューションズ社・坂本 剛さん)

 

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↑パナソニック エコソリューションズ社でトイレ商品企画課の課長を務める坂本 剛さん。アラウーノ開発の企画が立ち上がった2004年から事業に携わっています

 

陶器のトイレには、実は2つのデメリットがあります。ひとつは、表面に水アカがこびりつきやすく、落とすにはアルカリ洗剤や研磨ブラシを使わなければならないなど、メンテナンスにおいてユーザーに負担を強いる点。もうひとつは、生産に職人による熟練の技術を要するため、クオリティを維持するのが難しい点です。これらを解消する新素材として、パナソニックが採用したのが有機ガラスでした。

 

「有機ガラス系素材は水を弾くため、表面に汚れが固着しにくいのがメリット。ヒビが入ったりキズが付いたりすることも少ないです。そして、陶器との一番の違いは、金型を使っての製造が可能であること。“焼き物”である陶器に比べてはるかに成型の自由度が高く、コンマ数ミリ単位の高精度な調整も可能です。パナソニックがこれまで家電事業で培ってきた技術を、いかんなく発揮することができる素材でした」(坂本さん)

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↑独自のスパイラル水流や、つなぎ目やスキマを排除した構造など、汚れにくく掃除しやすい工夫が凝らされています。いずれも新素材だからこそ実現可能となりました

 

一般の主婦の声から最も重要なものを再認識する

アラウーノのプロジェクトがスタートしたのは、2004年のこと。第1弾モデルの発売は06年なので、開発には約2年をかけたことになります。その開発期間から見てもわかる通り、勝手のわからない「新素材」ならではの苦労も多くあったと、坂本さんは振り返ります。

 

「それまで陶器のトイレしか作っていませんでしたので、陶器に少なからずこだわりを持っていたスタッフもおりました。そんななか、一般の主婦をモニターとして集めてマーケティングを行った際に『へー、トイレって陶器なんですね』という声を聞いて、いい意味で力が抜けたといいますか(笑)。素材うんぬんはさておいて、清潔さを保てる構造が最も重要であることを再認識しました。初期の試作モデルはとても使い物にならないようなクオリティでしたが、およそ2年の研究・開発を経て、ようやく発売することができました」(坂本さん)

 

現在の技術は「擬似便」で積み重ねたテストの賜物

トイレの洗浄テストには、汚れを可視化するための「疑似便」が用いられます。実際の便に近い素材を組み合わせて、硬いもの、軟らかいもの、液状のものなど、多くの種類の疑似便を用意するといいます。

 

「専任のスタッフが、それこそ日夜研究を重ねて疑似便を作ってくれました。汚れが付きにくい有機ガラス素材の採用も、少量の水でキレイに流し切る『新スパイラル水流』の開発も、14年に導入した『トリプル汚れガード』(後述)も、疑似便で数えきれないほど積み重ねたテストによる賜物です」(坂本さん)

 

そして、初代アラウーノの誕生から10年を迎えた2016年、新型アラウーノに10種類のカラバリが登場しました(記事冒頭写真)。

 

「トイレの進化は、便器の構造のみならずトイレ空間全体に及んでいくべきであると当社は考えています。トイレは“究極のプライベート空間”でありながら、これまではデザインとしてのこだわりが希薄でした。当社が本製品で提案している『トイレ空間を自分らしくコーディネートする』という考え方が、これから定着していけばいいと思います」(坂本さん)

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↑愛知県にある幸田工場内、アラウーノ生産ラインの様子。機械化が進むなか、繊細な作業を要する最終工程では人が組み立てます

 

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↑アラウーノの設置例。10色をラインナップするトップカバーのカラーに合わせて、トイレ空間を自由にコーディネートできます

 

汚れないトイレ、アラウーノの技術「トリプル汚れガード」をチェック!

新素材の採用などで「全自動おそうじ」を実現するアラウーノは、「おしっこで汚さないトイレ」を提案。以下の3つの機構により、「ハネ」「タレ」「モレ」をしっかりガードします。

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その1

モレガード

着座した際にも、便座と便器との間に小便が入りにくい構造を実現。便座の内側にせり出したフチに当たって、便器内に落ちる仕組みです。

 

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その2

ハネガード

便座を上げると自動で水位が下がり、水面に泡のクッションを創出。立ったまま小便をしてもしぶきが上がらず、飛びハネ汚れを抑えます。

 

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その3

タレガード

便器のフチ回りに高さ約3㎜の壁を形成。フチに当たった小便が、便器の外側にタレるのを食い止めます。陶器では実現が困難な設計。

 

ライター岡安 学が語る アラウーノはココも注目!

少量の水でしっかり流せる「ターントラップ方式」を採用

ここでは、新型アラウーノを製造する愛知県幸田工場に取材に赴いたライター、岡安学さんがスゴイと思った技術「ターントラップ方式」を紹介します。

「アラウーノは、排水用のゴム管を上下させる独自の『ターントラップ方式』を採用。通常、便器は便器内に水をためておくために、トラップ(配水管などのU字型の部分)が上方向を向いています。この山を超えるために勢いのある水が必要になってくるわけなのですが、ターントラップ方式は、流す時だけトラップをターンさせて下方向に向けます(下写真)。そのため、水圧が低い地域でも少ない水量でも流し切ることができ、節水に役立ちます」(岡安)

↑トイレを使っていない時はパイプが上を向いており便器に水をためています
↑トイレを使っていない時はパイプが上を向いており便器に水をためています

 

↑水を流すとパイプが下に向くので、大量の水がなくても自然と流れていきます
↑水を流すとパイプが下に向くので、大量の水がなくても自然と流れていきます