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2017/5/2 19:58

この夏一番の注目展覧会「深海2017」――総合監修の藤倉克則博士が語るみどころとは?

世紀の大スクープと話題を呼んだ生きたダイオウイカの映像と、全長約5メートルの標本展示。あの強烈なインパクトと感動を残した、2013年夏の国立科学博物館(東京・上野)特別展「深海」から4 年。今夏、再び深海の神秘に迫る特別展「深海2017~最深研究でせまる“生命”と“地球”~」が開催されます。それに先立ち、4月下旬にプレス発表会が行われました。

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一体なんのために光るのか? 深海に棲む発光生物の不思議

今回のみどころとして紹介されたのが、深海生物全体の約9割を占めるという、発光能力を持つ生物の映像。透明な頭の中に大きな緑色の眼を持つデメニギスは、“ザ・深海魚”の名にふさわしいユニークでグロテスクなビジュアル。ほかにも数多くの生物の貴重な映像と生物標本を、本展では生物発光シアターで見ることができるそう。何の目的でどのように光るのか? 4K超高感度カメラがとらえた映像により、急速に研究が深まりつつある「発光の謎」についても、本展では迫っています。

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また、深海に生息する、想像を超える巨大生物の映像や標本展示も、もうひとつのみどころ。4年前とは異なる個体のダイオウイカ、全長約3mのオンデンザメなど、迫力たっぷりの標本が登場予定。前回を上回るインパクトで、この夏の話題をさらう展覧会となりそうです。

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「深海を調査・研究しなければ、地球生命誕生の謎には迫れない」(藤倉克則先生)

この日、総合監修者として、同館動物研究部長の倉持利明氏とともに登壇したのが、海洋研究開発機構 海洋生物多様性研究分野長の藤倉克則博士。発表会や個別のインタビューでも、藤倉先生がくり返し強調したのが、本展のコンセプトでした。

 

「子どもたちにも喜んでもらえるようなビジュアルもふんだんに用意しています。しかし、『深海生物、わースゲー! 不思議~!』だけで終わるのではなく、より深くサイエンティックに掘り下げた内容となっている点に注目してほしいんです。生命は、深海の熱水噴出口から誕生しました。つまり、深海を研究しないと、地球生命誕生の謎には迫れない。最先端の研究によって解明されつつある深海の謎。それが一番伝えたい本展のメインテーマです」

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↑プレス発表会後の個別取材にて、笑顔で質問に応えてくださった藤倉先生

 

被災国だからできた調査で見えてきた地震のメカニズム

さらに、東北地方太平洋沖地震後に行った「しんかい6500」による海底調査をはじめ、最新研究から見えてきた、巨大地震発生のメカニズムにもフォーカスしています。

 

「3・11直後から調査は始まっていましたが、2013年の展覧会では、被災地の傷跡もまだ生々しい状況で、取り上げるのを見送った経緯があります。今回は、満を持しての展示。世界中どこでも起こりうる巨大地震に備えるため、減災に向けた取り組みが、すでに深海で進んでいます。震災後に世界中からいただいた復興支援に応えるのが、科学者の使命。被災国である日本だから行えた研究成果も、ぜひ見ていただきたい」

 

本展では、「しんかい6500」の1/2模型のほか、地球深部探査船「ちきゅう」の船舶模型なども展示予定。

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深海に眠る鉱物資源と地球環境の保全という、今後世界規模で議論されるべきテーマも扱う「深海2017」。“深海”にふさわしく、広く深く掘り下げたコンテンツに期待が高まります。

 

本展の監修者として多忙な日々を送る藤倉先生ですが、「一番楽しいのは、海洋生物に触れているとき」というから筋金入り。とくにお気に入りは、ホネクイハナムシというゴカイの仲間なのだとか。

 

「深海に沈んだクジラの骨に寄生し、栄養を吸い取る生物で、ちゅうちゅう吸ってる姿がかわいいんですよ。でも、それはメスだけで、オスはメスよりうんと小さい顕微鏡サイズ。受精のためだけに、メスの体にオスがいっぱいくっついている。同じ男として、ビミョーな切なさが共感できるでしょ(笑)」

 

取材・文=田所佐月

 

<展覧会情報>
特別展「深海2017~最深研究でせまる“生命”と“地球”~」
7月11日(火)~10月1日(日)
国立科学博物館(東京・上野)で開催

60万人の来場者を記録した2013年特別展「深海」から4年。本展では、「生物発光」や「巨大生物」、「深海と巨大災害」、「深海と資源」といったテーマに焦点を当て、最新映像やCGとともに紹介。NHK制作の関連番組「ディープ・オーシャン」の第2、3集も、7月16日、8月27日に放送予定。

主催:国立科学博物館、海洋研究開発機構、NHK、NHKプロモーション、読売新聞社 後援:文部科学省、公益社団法人日本動物園水族館協会 入場料:一般・大学生1600円(1400円)、小中高生600円(500円) ※( )内は前売および20名以上の団体料金 http://shinkai2017.jp/

 

<藤倉克則先生プロフィール>

ふじくらかつのり・1964年生まれ、栃木県出身。国立研究開発法人 海洋研究開発機構(JAMSTEC)上席研究員。海洋生物多様性研究分野長。研究テーマは、海洋生物の多様性と分布に関するデータベース構築など。