本・書籍
2016/8/7 16:00

おそろしきもの、その名は腰痛

あれはそう、10年ほど前になる……。よせばいいのに、講演会の仕事を引き受けたことがある。

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話すのは上手ではないけれど、チャレンジは大事だと信じていたからだ。尻込みばかりしていては駄目だとも思っていた。今思うと、私もまだ若く、何でもやってみたかったのだろう。ところが、自分で思うほど若くはないと、すぐに思い知らされることとなった。

 

■恐怖のあの音

講演会当日の朝、洗面所にある鏡にしがみついて、マスカラを塗っていたら、腰が「グ・ゲ」と、鳴った。「腰がそんな音を立てるかなぁ」と、後になって、お医者様に言われたけれど、とにかく、はっきり聞こえたのだ。「グ」そして「ゲ」と。で、そのまま、私は動けなくなった。

 

少しでも動くと、腰がきしむ。その痛さといったら、「私が何をしたっていうの?」と、うめきたくなるほどだった。目尻を引っ張りあげていた左手も、マスカラを握った右手も動かせないまま、私は思った。「ま、まずい。これはヒジョーにまずい」と。メイクはほぼできあがっていたが、服はトレーナーにジャージのままだ。どうやって、会場まで行けばいいのだろう。

 

■ぎっくり腰?

「これはいわゆる一つのぎっくり腰ってやつではないでしょうか?」鏡の中の自分に聞いてはみたが、答えは出ない。奇妙な前屈みの姿勢のまま、動けないのだから。

 

それでも、どうにかして、服を着替え、出かけなければ・・・。考えた末、私は体を反らすことに決めた。前屈みになったとき、「グ・ゲ」となったのだから、反対の姿勢をすれば、治ると思ったのだ。

 

■どうにかしのいだものの・・・

考え方としては間違っていなかったようだ。私は動けるようになったからだ。しかし、痛いのは痛い。体をまっすぐにしていないと、痛みが走る。仕方がないので、右目のマスカラはあきらめ、棚にそろそろと手を伸ばして鎮痛剤をひっつかむや、とりあえず口に放り込み、はいずるように外に出た。

 

そして、数時間後・・・。私はとにかく講演を終えた。直立不動のまま、時間いっぱいしゃべり続けたのだ。ただし、最後のお辞儀はしなかった。というか、できなかった。仕方がないので「今日はありがとうございました」と言い、手を振って、おしまいのしるしとした。

 

■「お座りになって」と言われても

主催者の係の方は親切で「三浦さん、ご苦労さまでした。さ、お座りになって。のどが渇いたでしょう? お茶をあがってください。さ、さ、座ってください」と、おっしゃったが、それは無理な注文だった。座るのが一番、痛かったのだ。

 

それでも、お茶は飲みたかったので、立ったままいただいた。翌日、病院に行き、レントゲンを撮ると、「腰椎すべり症だねぇ。痛かったろうね」と言われた。初めて聞く病名だったが、あの「グ・ゲ」という音は、骨がすべった音だったのだろうか。

 

■腰に爆弾を抱えた身

その後も、時々、腰が痛くて、たまらない日がある。ただし、幸い、動けなくなったりはせず、「あっ、痛っ!」と言いながら、どうにかしのいできた。
ペインクリニックにも定期的に通っている。

 

ただし、「あなたは腰に爆弾を抱えているんですよ」と言われたのが忘れられず、以来、マスカラを塗るときはいつもあの音におびえる。
腰痛についての本を見つけると、チェックしないではいられない。

 

■脊柱管狭窄症って何でしょう?

『脊柱管狭窄症は自分で治せる!』(酒井慎太郎・著/学研プラス・刊)は、数ある腰痛に関する本の中で、画期的な1冊だ。「さかいクリニックグループ」の代表として、これまで100万人を超える患者さんに接してきた著者が、その豊富な経験をおしみなく綴ったものだからだ。とくに、脊柱管狭窄症に焦点をしぼっている点が独特だ。

 

脊柱管狭窄症とは脊柱管という背骨(腰椎)の内側の管が狭くなり、その中を通っている神経(脊髄)が圧迫されて痛みを引き起こす病気

『脊柱管狭窄症は自分で治せる!』(酒井慎太郎・著/学研プラス・刊)より抜粋

 

多くの人が悩んでいる病気である。

 

■自分はどのタイプ?

この脊柱管狭窄症を治し、痛みに苦しまないために、著者はまず自分の痛みがどのタイプに属するかをチェックすることが大事だと説く。セルフチェックのシートがついているので、自分で自分の腰痛がいったいどれに属するのか知ることができる。

 

腰痛と一口にいっても、それには当然、いくつかのタイプがあるからだ。いくつかの要因が重なってて発症している場合も多い。

 

■ストレッチは大切

自分の腰痛がどのタイプに属するものかを把握したら、次に、それにあったストレッチを行うことが大切だという。基本となる「仙腸関節ストレッチ」や「体ひねりストレッチ」などが、写真入りで紹介されているので、トライしてみたい。最初はそろりそろりでもストレッチを続けていれば、がちがちに固まった体がほぐれていく。

 

用意するものはテニスボール2個。これをガムテープでしっかり固定して、指定されたツボにあて、体を伸ばせばいい。ないときはタオルでも代用できる。

 

■「悪魔の一撃」に負けるな!

腰痛は私たちから笑顔を奪う。痛い痛いと嘆いて、家の中にひきこもってばかりいると、人生そのものまでが腰痛に支配されてしまう。
それは嫌だ。腰痛の恐怖におびえながらの毎日は、次第に私たちをむしばんでいく。

 

自分の体を知り、理解し、正しいストレッチを習得して、自分の体を愛おしみながら暮らしたい。この本を読んでそう思うようになった。それこそがあの恐ろしい「悪魔の一撃」とも言われる腰痛から自分を守る有効な手段となると信じるからだ。「悪魔の一撃」から我が身を守る、いわば「天使の甲冑」を自らの努力でこの身にまといたいものである。(文・三浦暁子)

 

【参考文献】

20160807-a04

脊柱管狭窄症は自分で直せる!

著者:酒井慎太郎
出版社:学研プラス

高齢者腰痛の最大の原因といわれる「脊柱管狭窄症」。ゴッドハンドと称される著者が、患者自身が自宅でできる体操やストレッチで、痛みを解消する方法を伝授する。また普段の歩き方や姿勢など、日常生活の工夫で腰痛を防ぐ手立ても解説。

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