乗り物
2017/6/17 14:00

0810運転開始! 試運転を続けるSL大樹と東武沿線の見所を先取りレポート

2017年8月10日に下今市駅と鬼怒川温泉駅の間を走る東武鉄道のSL「大樹(たいじゅ)」。5月中旬以降は東武鬼怒川線で連日のように試運転が行われており、走る姿を見て感激の親子連れも少なくない。そこで筆者は、SL大樹の現状に密着。高まる沿線の熱気を先取りレポートしよう。

 

運行開始に向けて念入りな準備が進む

SL大樹とは、東武鉄道鬼怒川線では50年ぶりに走る蒸気機関車。復活に向けて東武では「SL復活運転プロジェクト」として準備を進めてきた。

 

蒸気機関車はJR北海道のC11形207号蒸気機関車を借り受け、客車はJR四国、車掌車(補助的な機器を積みこむために利用)はJR貨物とJR西日本から、補機(補助機関車)用のディーゼル機関車はJR東日本からと、運転に必要な車両はJR各社から譲り受けたものだ。

↑JR北海道で走っていたころのC11形207号機。前照灯が2個つく姿が特徴だった。鉄道ファンからは“カニ目”のC11と愛されてきた
↑JR北海道で走っていたころのC11形207号機。前照灯が2個つく姿が特徴だった。鉄道ファンからは“カニ目”のC11と愛されてきた

 

なお、蒸気機関車の運転には発着駅に方向転換を行う転車台が必要。その転車台は、JR西日本の長門市駅(山口県)と三次駅(広島県)に残されていた転車台を譲り受け、それぞれ下今市駅と鬼怒川温泉駅に設置した。

 

さらに、電車とは大きく異なる蒸気機関車の運転技術や整備技術を学ぶため、東武鉄道はSLの運行経験がある大井川鐵道や秩父鉄道となどに社員を派遣。時間をかけて慎重に復活運転の準備を進めてきた。

 

すでに沿線には鉄道ファンの姿も

SL大樹が初めて公開されたのは2016年12月。東武鉄道の車両基地であり総合メンテナンスセンターがある埼玉県の南栗橋車両管区で、報道陣に初公開されたのち、同車両管区内の試験線で繰り返し走行テストが行われてきた。そして、今年5月からは実際にSL列車が走る鬼怒川線に舞台を移し、試運転が開始されている。

 

筆者は6月のはじめ、試運転が行われている東武鬼怒川線を訪れた。試運転の列車は営業中の列車と違い、「何日の何時に動いているのか」という情報が出されていない。にもかかかわらず、沿線の撮影ポイントにはすでに鉄道ファンの姿が目立つ(なお、当日は8月10日以降の時刻とまったく同じ3往復の試運転列車が運転された)。

↑乗務員は大井川鐵道などのSL運行を行う会社に数か月にわたり派遣され、運転技術を学んだ
↑乗務員は大井川鐵道などのSL運行を行う会社に数か月にわたり派遣され、運転技術を学んだ

 

東武鬼怒川線で連日3往復の試運転列車が走行

8月10日以降のSL大樹のダイヤは下記のとおり。土曜・休日を中心に同時刻に運行される予定だ。なお、試運転列車は同時間で走るとは限らず、運転日も公開されていないので要注意。

 

●鬼怒川温泉行き(下り)

SL「大樹」1号 下今市発9時2分 → 鬼怒川温泉着9時38分
SL「大樹」3号 下今市発13時00分 → 鬼怒川温泉着13時36分
SL「大樹」5号 下今市発16時32分 → 鬼怒川温泉着17時08分

●下今市行き(上り)

SL「大樹」2号 鬼怒川温泉発11時8分 → 下今市着11時41分
SL「大樹」4号 鬼怒川温泉発14時35分 → 下今市着15時09分
SL「大樹」6号 鬼怒川温泉発18時09分 → 下今市着18時15分

 

SL「大樹」が走る鬼怒川線沿線の様子をざっと見ておこう。鬼怒川線の起点は下今市駅。同駅の構内には転車台とSL機関庫が設置され、運転開始時から転車台での作業が見学できるように跨線橋造りの作業が急ピッチで進められている。

↑下り試運転列車は鬼怒川橋梁を越え、新高徳駅前の急カーブにさしかかる
↑下り試運転列車は鬼怒川橋梁を越え、新高徳駅前の急カーブにさしかかる

 

12.4kmの区間を約35分かけてゆっくりと走行!

高らかに奏でられたC11形蒸気機関車の汽笛、それに呼応して、列車後部に連結されたDE10形ディーゼル機関車の警笛が短く鳴らされる。ゆっくり走り出すSLの試運転列車。下今市駅を発車した列車は右に大きくカーブし、東武鬼怒川線に入る。まず列車は、大谷川(だいやがわ)の橋梁を渡る。橋を渡ってすぐ大谷向(だいやむこう)駅を通過。この駅を過ぎると沿線には田畑が広がる。

↑下今市駅の北側には転車台とSL機関庫が設けられ、見学用の跨線橋の工事も進む
↑下今市駅の北側には転車台とSL機関庫が設けられ、見学用の跨線橋の工事も進む

 

次の大桑駅までは田畑を見つつ会津西街道(国道121号)に沿って走る。大桑駅から次の新高徳駅までは急カーブと急な上り・下り坂があり、SL列車はスピードを抑え慎重に走行。途中、板穴川と鬼怒川の2つの河川に架かる橋梁を渡り、橋上から清流と河畔の緑が望める。

 

列車は新高徳駅を過ぎると、鬼怒川に沿って進む。緑が線路を取り囲む区間だ。そして小佐越(こさごえ)駅。途中、ここまで上げた4つの通過駅があるが、鬼怒川線は全線単線なので、これらの駅で普通列車や特急スペーシア・リバティなどと行き違い、列車待ちをしつつ終着駅を目指す。

 

小佐越駅の北側には7月22日に「東武ワールドスクウェア駅」が開設される予定。この駅は名前のとおり、東武ワールドスクウェアが目の前の駅で、SL「大樹」もこの新駅に停車する。この東武ワールドスクウェア駅からは6分ほどで終点の鬼怒川温泉駅到着となる。

 

鬼怒川温泉駅前の転車台には早くも鈴なりの人たちが

降り立った鬼怒川温泉駅。駅前になんとSLの転車台があるではないか。一般的に、転車台があるのは駅の敷地内という場合がほとんどだが、これはなんとも大胆な演出である。東武鉄道としては、蒸気機関車の回転する光景をエンターテイメントとして公開したいのかも知れない。既存の施設を使わず新設したからこそできる試み。これは面白いと感じた。

↑鬼怒川温泉駅の目の前に設置された転車台。鬼怒川温泉の名物になることは間違いないだろう
↑鬼怒川温泉駅の目の前に設置された転車台。鬼怒川温泉の名物になることは間違いないだろう

 

実際に試運転列車の運転時も“駅前転車台”が使われていた。誘導するスタッフの手旗信号でC11が転車台に向けて進んでくる。そして、ゆっくり転車台の上に乗って所定位置に停車。そしてぐるりと転車台が回される。

 

試運転を始まっていることを知らずに訪れ、偶然にその様子を目にした親子連れは、やや興奮気味。蒸気機関車の雄姿をカメラに納めようという人たちで、転車台の周りは鈴なり状態になる。なかなかインパクトある催しと感じた。

↑転車台がぐるっと回る。見守る周囲の人たちは、その動きに興味津々の様子だった
↑転車台がぐるっと回る。見守る周囲の人たちは、その動きに興味津々の様子だった

 

こうした作業中も、SL「大樹」の乗務員は子どもたちに手を振り続ける。沿線でも手をふる子どもたちに、乗務員の人たちが手を振り返す光景が何度も見かけられた。スピードが速い電車では考えられない、楽しい触れ合いこそSL列車の魅力といえるだろう。

↑2017年4月のダイヤ改正時から走り始めた特急「リバティ」。SL運転とともに、鬼怒川温泉の復活に一役買っている
↑2017年4月のダイヤ改正時から走り始めた特急「リバティ」。SL運転とともに、鬼怒川温泉の復活に一役買っている

 

東武鬼怒川線沿線には、鬼怒川温泉や東武ワールドスクウェアといった観光施設も多い。とはいえ、団体旅行客が多く訪れた過去の賑わいは薄れつつある。東武鉄道では新型特急「リバティ」を導入、さらにSL「大樹」を走らせ東武鬼怒川線を利用する乗客の増加を目指す。

 

SL「大樹」の運行、そして鬼怒川温泉駅前に設けた転車台といった新たな試みが、観光の起爆剤となるか注目したい。

↑上り試運転列車。鬼怒川橋梁付近の上り坂では煙を出して坂を上る様子を見られた
↑上り試運転列車。鬼怒川橋梁付近の上り坂では煙を出して坂を上る様子を見られた

 

あと1人の鉄道ファンとして希望に触れておくなら、煙をもくもく出しつつ走るシーンをどこかで演出してもらえたらと思う。やはり鬼怒川沿線には住宅地もあり、一部区間では住宅の軒を接するように電車が走っている。そのあたりで煙を多く出すことは、やはり難しいのだろう、とも感じた。

 

運行開始まであと2か月を切ったSL大樹。いずれにしても8月10日を過ぎたら、あらためてSL「大樹」に乗りに行きたいと思っている。

↑鬼怒川温泉駅を発車した上り試運転列車。14系客車3両をけん引して走る
↑鬼怒川温泉駅を発車した上り試運転列車。14系客車3両をけん引して走る