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2018/4/17 19:30

往年の“Aurexサウンド”は健在か? カセットテープの音源までハイレゾ化するCDラジカセ「TY-AK1」を聴く

世界的にアナログレコードの売上が伸長するなど、ここへきてアナログメディアへの関心が急速に高まっている。なかでもカセットテープは扱いやすさからいまもなお根強い人気を保ち続けているメディアだ。そんな折、東芝エルイートレーディングより、かつて東芝がオーディオ専用ブランドとして使っていた「Aurex(オーレックス)」を冠する新製品を発売された。それが世界初の“ハイレゾ対応CDラジカセ”「TY-AK1」である。

 

Aurexブランドを冠した製品としては2016年に“ハイレゾ対応CDラジオ”「TY-AH1000」が発売済みだったが、この時すでに本体にSDカードスロットとUSBポートを搭載。ここを経由してSD/USBメモリー内のハイレゾ音源を再生できていた。スピーカーもハイレゾ再生に対応するべく高域40kHzをカバー。ハイレゾのロゴマークも取得し、手軽にハイレゾを楽しめるシステムをとして話題を呼んだ。本機はこれをベースにカセットデッキを追加し、出力系アンプに変更を加えたモデルとなる。

↑TY-AH1000

 

TY-AH1000と同様、“ハイレゾ対応”をアピールするだけに本機は搭載スピーカーにもこだわっている。スピーカーユニットは左右共に6.4cmのコーン型フルレンジと2cmシルクドームツイーターを組み合わせた2ウェイ。このユニットは本機のために新規で開発されたもので、これを左右独立型のスピーカーボックスに収め、20W+20Wの高出力アンプで駆動する。これによってラジカセながらダイナミックなサウンドを可能としたのだ。

 

本機ならではのポイントとなっているのは「さまざまな音源をハイレゾ音質に」するアップコンバート新機能の搭載だ。この機能を使うとCD音源なら88.2kHz/24bit相当、カセットテープとラジオ音源の場合は96kHz/24bit相当にアップコンバートして再生することができる。これにより、CDをはじめ、カセットテープ再生やFMラジオとアナログソースまでも“ハイレゾ”的に再生して楽しむことが可能となるわけだ。

↑「UP CONVERT」ボタンを押すだけで簡単にアップサンプリングできる

 

最近のオーディオ機器では見かけなくなったレベルメーターを搭載。ハイレゾ再生中はインジケーターが点灯する

 

再生可能なカセットテープの種類は、ノーマル、クローム、メタルの全てに対応。本体正面左下に「ノーマル/ハイ」を切り替えるポジションスイッチを装備している。ドルビーノイズリダクション(NR)機能は非搭載で、この機能で録音されたノーマルテープを再生する際はハイポジ設定にして使うことを推奨されている。

 

なお、カセットテープの機能は再生だけでなく、カセット音源をSDメモリーカード/USBメモリーにMP3で録音することも可能。反対にCDをはじめSDメモリーカード/USBメモリーの音源をカセットに録音してアナログ化することもできる。ただし、ハイポジションでの録音には対応していない。

↑本体右下にはSDカードスロットとUSBポートを搭載。ハイレゾ音源はこのメディアを通して再生する

 

操作は本体上部のスイッチのほか、リモコンも付属する。最近のCDラジカセは高齢の人が使うことを想定してボタン類が大きくシンプルにデザインされているが、本機はよりオーディオ的な設計になっているため、やや細かくデザインされている。

↑本体上部の操作スイッチは一般的なラジカセと同じようなスイッチが並ぶ。カセット系は機械式ではなく電気式で動作することがわかる

 

↑付属のリモコン。ほとんどが遠隔操作できるが、スイッチのサイズが均一なので少々わかりにくい

 

アップコンバートで高域がクリアに

試聴はまずハイレゾ音源から始めた。カテゴリは女性のジャズボーカル。想像以上に高域が伸びていて、ピアノのタッチが小気味よく響いてくる。ボーカルの息遣いも見事なまでに伝わり、ボリュームを上げていっても音がだれることなく迫力を増していく。ベースの音が弱含みなのがやや物足りないが、全体のサウンドとして捉えればとてもラジカセの音とは思えない。

 

続いてカセットの音をノーマルポジションで聴いてみた。ソースは1970年代から1980年代にかけて流行した、日本のポピュラー音楽のジャンル“ニューミュージック”だ。ドルビーNRをかけて録音したソースだったため、とりあえずハイポジションに切り替えて再生してみる。早々に懐かしいサウンドがよみがえってきた。滑らかで温かみあってBGMとして聴くには十分なクォリティだ。

 

ただ、ハイレゾを聴いた後だけに高域があまりに物足りない。そこでハイポジションをノーマルポジションに戻してみた。レベルが低いところでは「シャー」というヒスノイズが気になるものの、演奏中の再生ではノイズは埋もれてしまってほとんど気にならない。むしろ高域がスッキリして聴きやすくなった。個人的にはドルビーNRを使ったソースでのノーマルポジションで聴いた方が良いように思えた。

 

そして注目のアップコンバート機能を使ってみる。最初に試したのはCD。高域のクリアさが明らかに増し、やや強調感もあるものの、明瞭感は飛躍的に伸びた。次にカセット。ソースがドルビーNRがかかっていることもあり、高域がシャリシャリしてちょっと聞きにくい。ここでハイポジションに切り替えてみると高域がグッとマイルドになった。明瞭感もあり、これならイケルなと思った次第。とはいえ、カセット再生では必ずしもアップコンは使う必要はないとも思う。マイルドなサウンドもカセットならではの味なのだから。

 

個人的にカセット再生で気に入ったのは、カセットを“正立式”で挿入する機構を採用していたことだ。これは磁気データを読み出すヘッドが下側に置くタイプのことを指すもので、コンポデッキはこのタイプを採用することが多かった。本機が透過式でないため、ローディング後のカセットの動作状況が視認できないのが残念だが、カセットを挿入する時にカセットを逆さにしないのはオーディオ好きとしてはちょっとうれしい。

↑カセットテープは逆さにせずに挿入できる“正立式”を採用。透過式にしてカセットの回転が見えるとよかった

 

カセットテープは全盛時代を経験した熟年層にとっては懐かしさ故の楽しみ方となるだろうが、音楽をネット上で楽しむことが多い若年層にとっては、音楽ソースそのものを手にできることに新鮮さを感じているという。カセットテープそのものはいまでもコンビニでも手に入る根強い需要を保ち続けている。本機を通してカセットの新たな音楽の楽しみ方を味わってみてはいかがだろうか。