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2018/12/25 19:00

“ワンランク上のボケ表現”を可能にする「APDフィルター」って何? 単焦点レンズ「XF 56mm F1.2 R APD」レビュー

富士フイルム XF 56mm F1.2 R APDの実力を3項目で実写チェック

では早速、いろいろな側面からXF 56mm F1.2 R APDの実力やAPDフィルターの効果をチェックしていこう。

 

【F1.2~F2.8までのボケ具合を比較】

丸型ポストの投函口下の文字部分にピントを合わせ、絞り値を変えながら背後の建物や木のボケ描写を比較してみた。なお、設定した値は、白い文字で表記される通常のF値である。

<F1.2>

 

<F2>

 

<F2.8>

見比べてみると、開放F1.2とF2のボケの差は結構大きく、ポストの右側に隣接する白い障子の輪郭や、その右(さらに奥)の洋館の窓枠などに、その違いを実感する。F2.8まで絞ると、それらの部分がより明確に見えるようになる。当然、開放のF1.2のボケが最も柔らかいが、F2やF2.8に絞った際のボケの輪郭部分も“なだらか”で好ましい描写である。ちなみに、F1.4も撮影してみたが、F1.2との差は微小だった。

 

【F1.2とF2.8、シャープさを比較】

続いて、上の開放F1.2のカットとF2.8まで絞ったカットの中央近く(ピントを合わせた部分)を切り出して、両者のシャープさを比較してみた。

<F1.2>

 

<F2.8>

驚いたことに、開放F1.2の描写は、F2.8とあまり変わらないシャープさである。これには、APDフィルターによる“絞り込みの効果”も影響しているのだろう。

 

【一般的な50mmレンズと、背景ボケの質を比較】

温室内のベゴニアの花に接近して狙う。比較用に一眼レフ用の一般的な「50mmF1.8」を選択し、花が同じ大きさになるよう撮影する。そして、狙った花の背後に見える木製の格子棚や別のベゴニアの花の“ボケの質”を比較してみた。

 

<XF 56mm F1.2 R APDの「絞りF2」の背景ボケ>

 

<一般的な50mmの「絞りF2」の背景ボケ>

使用ボディのX-H1と一眼レフは、どちらもAPS-Cサイズのセンサーを採用している。だが、XF 56mm F1.2 R APDと一般的な50mmF1.8は焦点距離が少し異なり実効F値も異なるので、単純にボケの大きさを比較するのは難しいが、両者の“ボケの質”は比較できると思う。

 

XF 56mm F1.2 R APDの「F2」の実効値は「F2.3」程になるので、そのぶんボケ量が少なく見える(焦点距離は長いが)。しかし、APDフィルターの効果もあり、格子や花のボケがとても自然に描写されている。一方、一般的な50mmの方は、ボケ量こそ大きいものの、ボケの輪郭部が干渉(?)し合って、全体的に“ざわついたボケ”に感じられる(このあたりはあくまで好みの問題かもしれないが)。

 

【作例】F1.2の明るさと美しいボケ描写を実感

続いて、XF 56mm F1.2 R APDの美しいボケを生かした作例を3点、紹介しよう。

 

<作例1>

洋館前の植え込みの、青々とした葉に狙いを絞る。逆光で透ける葉の色や葉脈が美しい。背後の洋館までの距離はそう遠くないので、開放F値が暗めのズームレンズでは、十分なボケ描写が得られにくい状況である(F2.8の大口径ズームであっても)。だが、本レンズではF1.2の明るさによって、大きくて美しいボケ描写を得ることができた。

富士フイルム X-H1 XF 56mm F1.2 R APD 絞り優先オート F1.2 1/8000秒 WB:オート ISO400

 

<作例2>

茅葺屋根の古い日本家屋の軒先に、少々くたびれた古風な風鈴が吊り下げられていた。その短冊の部分にピントを合わせ、開放絞りによって背後の茅葺屋根や周囲の木々の緑を大きくぼかす。全体的にボケた部分が多い画面だけに、シャープに描写される短冊の文字が印象に残る。

富士フイルム X-H1 XF 56mm F1.2 R APD 絞り優先オート F1.2 1/1250秒 +0.6補正 WB:オート ISO400

 

<作例3>

流れ落ちる滝の前にある、枝に密集するモミジの葉に注目した。多くの葉の中から「どの葉にピントを合わせるか?」と迷うケースだが、ここでは画面の中央近くに入る大きめの葉にピントを合わせた。絞り値は開放のF1.2。ピントを合わせた部分は極めてシャープで、背後の白い滝の流れ(ボケ)は滑らかで美しい。

富士フイルム X-H1 XF 56mm F1.2 R APD 絞り優先オート F1.2 1/220秒 WB:オート ISO200

 

50mm台の単焦点レンズのなかでも一線を画する魅力的な逸品

同じ焦点距離をカバーするズームレンズと比較した場合、単焦点レンズには“小型軽量設計”とか“明るい開放F値を実現”といったメリットがある。今回の富士フイルム「XF 56mm F1.2 R APD」は、後者のメリットが当てはまるレンズであり、F1.2という抜群の明るさで大きなボケ描写が得られる。

 

……と同時に、開放絞りからシャープでクリアな描写が得られる贅沢な光学設計と「APDフィルター」の搭載によって“ワンランク上のボケ表現”も可能になる。まあ、多くの50mm台の単焦点レンズと比べると、かなり高価な製品になるが、高品位な作りや操作性も含め、かなり魅力的な大口径中望遠レンズと言えるだろう。

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