本・書籍
2023/1/4 21:15

疲労のもとはカラダではなく「脳」だった! 真に有効な疲労対策がわかる『すべての疲労は脳が原因』

高校のとき、何かというと、「だるいな〜」と、ぼやく男の子がいました。授業が始まるときや終わったとき、お弁当の時間ですら、彼は「だるいな〜」と言うのです。その声を聞くと、だるさが伝染してきて、私まで「本当、なんかだるいよね」と、相づちを打ちながら、椅子の背にもたれかかりたくなるのでした。

 

疲れとは何か?

だるいとはいったい何なのでしょう。疲れているとはどんな状態を指すのでしょうか? 改めて考えてみると、自分でもよくわかっていないことに気づきます。それが知りたくて『すべての疲労は脳が原因』(梶本修身/集英社・刊)を読みました。著者の梶本修身は、大阪市立大学大学院の疲労医学講座の特任教授をつとめる疲労の専門家です。現在は、「東京疲労・睡眠クリニック」を開設し、疲労に悩む患者さんの治療にあたっています。

 

日本は「疲労大国」と言われています。日本人の約60パーセントの人が何らかの疲れを感じ、悩んでいるそうです。それなのに、疲労の原因や科学的なメカニズムについては、よくわかりません。私も「あぁ、疲れた」と、年がら年中、呟くくせに、どこかどう疲れているのか、よくわかっていないのです。

 

さらに、疲労を回復するために何をしたらよいのかはっきりしません。私の場合は、せいぜいで栄養ドリンクを飲むくらいです。『すべての疲労は脳が原因』のなかに、次のような記述があります。

 

あなたは次のような疲労回復説を耳にしたことはありませんか。

・運動でストレスを発散すると疲れもすっきりとれる
・ニンニク料理、ウナギ、焼き肉、栄養ドリンクで疲れは軽減する
・休日に人気の温泉地でたっぷりお風呂に入って、疲れをとる
・残業の疲れは、楽しくお酒を飲めばリセットできる

(『すべての疲労は脳が原因』より抜粋)

 

4つとも、私が疲労回復に役立つと、今の今まで信じていたことでした。ところが……。

 

これらは科学的な根拠に裏打ちされているものではないといいます。それどころか、疲労を悪化させるリスクのほうが高いというのです。だとすると、疲れを何とかしようと、無理に運動したり、うなぎを奮発したりしていたのは、意味がなかったことになります。確かに、どんなに運動しても、精のつくものを食べても、疲労困憊の状態のままでいた日が多かったような気がしてなりません。

 

過労死するのは人間だけ

『すべての疲労は脳が原因』によって、私がこれまで思っていた疲労についての知識は、どれも間違いだったと知りました。これまでの私は、疲労とは体全体に疲労物質となる乳酸がたまり、体を重くしているのだと理解していました。ところが、疲労が起こるのはおもに自律神経の中枢であり、その疲労を自覚するのは眼窩前頭野と呼ばれる部分だといいます。つまり、疲労とは脳が疲れている状態をいうのだと自覚しなければなりません。

 

それだけでも目からウロコでしたが、もうひとつ、驚いたことがあります。それは「過労死するのは人間だけ」ということです。人間は他の動物にはみられないほど前頭葉が発達しています。それはそれで、人間を人間たらしめる要素となっていますが、あまりにも大きくなりすぎたため、眼窩前頭野が疲労感を消してしまうというのです。つまり、疲れているのに、疲れを感じることなく働き続け、結果的に、死ぬまで働き、過労死につながるというのですから、恐ろしい話です。

 

確かに、過労死する動物はいません。動物はくたびれると休みます。うちの猫にしても、食べるとすぐに寝てしまいます。おそらく疲労のサインを見逃すことがないのでしょう。疲れたら寝て、起きたら、食べ、また寝るを繰り返しています。それなのに、私たちは疲れていても、「もう1軒行こう!」の言葉に抗うことなくついて行き、けっこう楽しく過ごしたりします。残業続きでも、仕事をこなす達成感を快いとさえ感じて、働き続けます。そして、時には重篤な疲れのサインを見逃してしまうのです。

 

インターネットも脳を疲れさせる

さらには、インターネットの普及も、ヒトの脳を疲労させます。

 

デスクでパソコンを使い続けるなどの作業を長時間行っていると、脳のある一定の神経回路に負荷が集中することになります。(中略)脳のひとつの神経回路をくり返し使っているとその部分の神経細胞が「酸化ストレス」により疲弊することがわかっています

(『すべての疲労は脳が原因』より抜粋)

 

なるほど、確かに。原稿がうまく進んでいるときは、長時間、パソコンに向かっていても、脳が活性化しているような気分になり、快感を覚えます。時には、やめたくてもやめられないといった状態になることもあります。ところが度を超すと、いわく言いがたい疲労感を覚え、挙げ句の果てに夜眠れなくなったりします。それもこれも、脳が疲労したからこそ起きることだったのでしょう。

 

『すべての疲労は脳が原因』は、疲労回復についての間違った情報を検証し、最新科学で解き明かされる疲労の原因と実態、そして正しい回復法について、詳しく説明してくれます。もし、あなたが「あぁ、疲れた」とげっそりしていたら、この本を思い出して、適切な対処をしていただけたらと思います。

 

私たち日本人は、疲労していながら疲労について知識のない国民です。ましてや、長引くコロナ禍のもとでの毎日。くたびれて当然です。過労死する前に、今一度、自分の生活を見直し、脳疲労を抑えなくてはなりません。時には猫を見習って、ひたすらゴロゴロする一日を送ってもいいはずです。私たちは幸福になるために生まれてきたのですから。

 

【書籍紹介】

すべての疲労は脳が原因

疲労回復物質の存在が明らかになって以来、疲労に関する科学的調査が進んでいる。その結果、私たちが日常的に使う「体が疲れている」とは、実は「脳の疲労」にほかならないことがわかった。疲労のメカニズムとは何か、最新のエビデンスをもとに解説する。また、真に有効な疲労対策や乳酸、活性酸素、紫外線、睡眠との関係なども明らかにし、疲労解消の実践術を提示する。

著者:梶本修身
発行:集英社

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