ビジネス
2019/1/25 19:30

廃業率がワースト! 「飲食店経営」の実態を税理士が教える(前編)

大手の飲食チェーン店が増え続ける今日。その一方、オープンして数か月で閉店してしまう飲食店もよく見かけます。お客の1人として「なぜすぐに閉店してしまったのだろう?」と気になることがありますが、調べてみると、飲食業界での独立とリスクには想像以上に厳しい現実があるようです。

そこで筆者は、飲食店経営にも詳しい税理士の木下勇人先生にお話を聞きました。税理士はこの業界をどのように見ているのでしょうか? この記事では、前編と後編に分けて、飲食店経営の実態について迫ります。まずは、飲食業が廃業率1位である理由について解説していただきました。

↑税理士法人レディング 公認会計士・税理士、木下勇人さん

 

参入しやすく、失敗もしやすい

――町なかには大資本の飲食チェーン店がたくさんありますが、独立して個人経営店を開く方も多いようですね。どのような背景があるのでしょうか?

 

木下勇人さん(以下:木下) まず、大前提として飲食業は参入障壁が低く、その道の経験が乏しくとも、開店しやすい点が挙げられます。しかし同時に、あらゆる業種のなかで廃業率が最も高いというデータもあります。日本政策金融公庫がまとめた業種別廃業状況によると、飲食店・宿泊業の廃業率が最も高い18.9%。「入りやすいが、失敗もしやすい業種」と言ってよいでしょう。

 

飲食業は利益率が低いことも特徴です。10%あればいいほうでしょう。つまり薄利なんです。

 

――なぜ利益率がそこまで低いのでしょうか?

 

木下 飲食業を始める場合、最低限下記のような経費がかかります。

 

①テナントの保証金

②設備資金

③人件費

④食材原価

 

これらに加えて、開業の際、マーケティング業者に出店する場所の地域性などを調べてもらったり、宣伝をしたりする場合もあるので、開業資金は結構かかります。

 

さらに、開店当初は集客も不安定ですから、その間の運転資金も用意しておかないといけません。また、事業がうまく行かなかった場合、閉店するときは「原状回復で撤退」することが基本ですから、せっかく投資した設備も壊さないといけません。つまり元通りにするにしてもお金がかかるわけです。

 

よくテナントで見かける「居抜き」は、次のテナントが同業者で設備をそのまま使いたいなどのニーズもありますから、その場合には原状回復せずに済んだなどの事情があります。そのために次のテナントを自分で見つけるなどの努力をすることで原状回復費用を削減できる可能性はありますが、通常はなかなか「居抜き」の状態で撤退できないことが多いように感じます。そのため、飲食店には開店から閉店まで、ずっとお金がかかるというリスクがあるんですね。

 

このような費用をすべて算出して考えると、利益率は10%くらいあればいいほう。しかし実際には利益を出す、または事業として成り立たせることなく廃業していくケースが多いんです。

 

――開業資金はどれくらい必要でしょうか?

 

木下 最低でも500万円くらいは必要だと思います。

続く「町中華」と続かない新規ラーメン店

――昔ながらの町の中華料理屋さんはどうやって成り立っているのでしょうか?

 

木下 町の中華料理屋さんが続いている一番の理由は、人件費が安く済むからでしょうね。その多くは家族経営かつ地域密着型であるため、ランニングコストが見込みやすいんです。だから、町中華は成り立っているのだと思います。

 

いまの時代に飲食店を始めようと思ったとき、まず壁になるのが人件費です。近年、アルバイトの賃金が高くなっているうえ、せっかく人を雇ったとしても定着率は不安定。アルバイトは何かあるとすぐに辞めてしまいます。「スタッフが辞めないように、接客をマニュアル化して、待遇もよくする」という考え方もありますが、ただでさえ初期投資のリスクがかさんでいるところに、このような負担はかけられません。特に開店当初は、来るか来ないかわからないお客さんのために、スタッフを常に抱え、給料を支払うということは、かなり難しいと思います。

 

――「ラーメンが大好きだから、ラーメン屋を始めた」というケースもありますが……

 

木下 残念ですが、「好き」だけではお店を続けられないのが現実です。ラーメンにも流行り廃りがあります。あるラーメンが大当りしても、長くは続きません。飽きられるのが早いからです。数年後にはそのジャンルのラーメンが廃れてしまうことだってあります。

 

また、自分で開発したラーメンが当たると、必ず大資本が同じジャンルのラーメンを展開します。そうなると、トップにのし上がることはまず難しいんです

 

フランチャイズは比較的ローリスクだが……

――定年退職後や老後に飲食店を夫婦で始める方もいらっしゃいますね。

 

木下 あくまでも「趣味」としてやる分ならいいと思います。つまり、「赤字され出さなければいいんだ」という考えです。しかし、その飲食店で利益を追求するとなると、あまりオススメできません。

 

定年退職後にどうしても飲食業界での独立・開業をしたいと考えるなら、まだリスクが低いフランチャイズがよいと思います。フランチャイズとは、本部が加盟店に特定の地域において、その看板を使って商売することを許し、加盟店(オーナー店)がその対価としてロイヤルティを支払うシステムのこと。よくラーメン屋さんのチェーン店なども「オーナー募集。開業資金さえ出してくれれば、場所も提供し、メニュー、食材も全部提供します」と言って募集していますよね。

 

まず、すでに知名度のある飲食チェーンだと、集客がしやすいというメリットがあります。ブランドが持つ信用力に加えて、商品ラインナップもすでに定着しているものだったり、他店舗で人気があるものだったり。経営者は商品開発について頭を悩まさなくていいわけです。

 

ただし、フランチャイズは加盟店がロイヤリティを本部に支払うシステムですから、実際の利幅がかなり少なくなります。スタッフ確保と人件費の問題も、個人での開業同様に大変です。

 

さらに、本部の判断はシビアです。フランチャイズの場合、営業は本部がすべて管理していますが、売り上げが落ち込んだとき、オーナーが「もう少し粘りたい」と思っても、本部の判断で撤退・閉店を言い渡されることがあります。本部は自分たちの看板に傷がつくのはイヤですし、オーナー店から看板料や指導料の回収も薄い場合、すぐに打ち切ることがあるんですね。

 

――フランチャイズの場合、開業資金はいくら必要でしょうか?

 

木下 やっぱり500万円くらいでしょうね。200万円くらいは最初に本部がロイヤリティとして持っていきます。

 

個人経営店とフランチャイズは開業時、同じくらいの資金が必要になるわけですが、後者は膨大なデータや商品開発、認知度などがありますから、そういった点で前者よりもリスクが低く、「老後にやる」という意味でもよいのではないかと思います。

 

まとめ

存続することが難しい飲食業界。個人経営店はコストが高く、利益を生み出しにくい構造になっていることがわかりました。独立開業を計画するときは、情熱を燃やすだけではなく、様々なリスクについて冷静に考えることが大切でしょう。後編では、飲食業界で生き残っていくための具体的な方法やアイデアをご紹介します。

木下勇人 | Hayato Kinoshita

相続・事業承継に専門特化した公認会計士・税理士。自らも不動産投資や起業をしている。税理士向け・一般向けセミナーを全国各地で年100回以上講演しており、ダントツでわかりやすいと評判。http://www.leding.or.jp