ビジネス
2019/1/26 20:30

考え抜いた「コンセプト」が成功の鍵! 税理士が教える「飲食店経営」の難しさ(後編)

あまたある飲食店。夢や野心を持った多くの人たちがこの業界に集まり、成功を目指していますが、現実はそう甘くなく、多くの人たちが開業してはすぐに廃業しています。存続するためにはどうすればよいのでしょうか? 後編ではそのための具体的な方法やアイデアをご紹介します。

↑税理士法人レディング 公認会計士・税理士、木下勇人さん

 

成功するための必須条件

――飲食業界で独立して成功するための必須条件を教えてください。

 

木下勇人さん(以下:木下) まず、開業されるのなら最初に「コンセプト(ストーリー)作り」が不可欠です。前述したとおり、ただ「ラーメンが大好きだから、ラーメン屋を始めました」では失敗してしまいます。お店を開くにあたっては、主観的な気持ちだけではダメで、客観的に考えて描く「コンセプト(ストーリー)」がないといけません。

 

コンセプト作りでは、まず業種を決めます。牛丼なのか、焼肉なのか、ラーメンなのか、カフェなのか。次に業態として客層や価格帯を決めます。ランチではどれくらいの客単価を想定するか? ディナーならどれくらいの客単価を想定するか?

 

さらに、客をどれくらいの時間で回転させていくか? 例えばお酒を出せば利益率は高くなりますが、その分回転は遅くなります。

 

また、単価との関係で回転率が遅くなる点についても考えなくてはなりません。高い客単価を狙うなら当然回転率は遅くなりますが、低単価の店であれば回転率が早い。しかし、多くの客を呼び込むことができる反面、薄利になります。

 

このような重要な問題について冷静に考えながら、コンセプト(ストーリー)や方向性を定めて、これに見合う地域で始めてみるといいと思います。

 

儲かる食材はどれ?

――利益率の高い食材は何ですか?

 

木下 私は実家が精肉店なので分かるのですが、まず鶏は厳しいでしょうね。原価が高い割に、高く売ることができないんです。つまり利幅を盛ることが難しいんですね。あと、野菜も利幅が少ない。魚はまだ利幅を盛れますけど、仕入れやさばくのが大変なので、やっぱり難しいでしょう。

 

そう考えると、牛肉が一番利幅を盛りやすいし、焼肉屋さんって単価が高いし、セットでビールも売れるので、当たれば結構儲かります。

 

でも、その代わり焼肉屋さんって1店舗を作るのに2000万円くらいはかかります。無煙ロースターなどの設備を入れると、アッという間にそれくらいかかるんですね。だから、牛肉にも回収コストが乗っているというわけです。

 

ただ、後ろ盾のない個人がそれだけの金額を最初に投資するのは難しいですよね。そこで私はこの中間にある豚肉がよいのではないかと考えています。

――豚肉を扱う飲食店でおススメはありますか?

 

木下 とんかつ屋さんですね。私の実家が精肉店ということもあって、実は一時私も兄と一緒に真面目に考えたことがあります。

 

とんかつの作り方って、もちろん下準備や妙はあるにしても、揚げることが主な作業ですよね。つまり、作業量が少なく、比較的小さな店舗でも作れて、回転率もよい。アルコールとも合う料理なので、夜も営業すればお酒も売れるでしょう。それでいて価格を1000円以上に設定することもできます

 

――とんかつ屋さんを開店する場合、立地はどうでしょうか?

 

木下 もし私がとんかつ屋を始めるとしたら、撤退リスクも考えて、郊外の小さいテナントにします。郊外はある程度定着したら、競合店が少ない分、お客さんも口コミで広まっていく可能性があります。逆に都会は家賃が高いうえ、競合店も多いので、何か特別な理由がない限りは、合理的な選択肢ではないんですね。

 

――近年では「いきなり! ステーキ」が急成長しましたね。

 

木下 このお店は、コンセプトが大当りした一例だと思います。立食かつ小さなテーブルで食べるので回転が早い。設備投資はかかるでしょうけど、ステーキはただ焼くだけ。それでいて利幅は大きい。だから、急成長したのだと思います。

 

ただし、ステーキチェーンを個人で始めるのは難しいんですね。いきなり! ステーキのような成長を目指すためには、まず資本がいります。そのうえ、牛肉を安定して安く調達するルートもいります。個人であれと同じことをしても、当たったら大資本に真似されて食いつぶされます。この業界の典型的なパターンですね。

 

500万円を失う覚悟はあるか?

――飲食業はあらゆるビジネスの要素が集約されていますね。

 

木下 その通りです。一見すると簡単なように見えて、実はすごく難しくて大変なのが飲食業なのです。

 

個人で始める場合、まず開業資金の面で苦労し、開業してからも苦労し、場合によっては閉店。仮に当たったとしても、大資本に食いつぶされる可能性が高い。しかも、お客さんが飽きないうちに、次の一手を考えておかないといけない。そういう意味で非常に厳しい世界だと思います。

 

――補助金みたいなものはあるんですか?

 

木下 中小企業庁には様々な種類の創業補助金があります。きちんと申請すれば200万円くらいの補助金がおりると思います。でも、200万円なんてアッという間に消えてなくなります。やはり最低でも自己資金は500万円くらいはないとダメでしょう。それだけでなく、500万円でさえもすぐに消える可能性があることも覚悟している人でないと、飲食業界ではやっていけないと思います。

 

まとめ

厳しい飲食業で生き残っていくためには、コンセプト、緻密な計画、そして覚悟が欠かせないことがわかりました。飲食業界に挑戦してみたいと考えている方は、これらについてよく考えてみてください。

木下勇人 | Hayato Kinoshita

相続・事業承継に専門特化した公認会計士・税理士。自らも不動産投資や起業をしている。税理士向け・一般向けセミナーを全国各地で年100回以上講演しており、ダントツでわかりやすいと評判。http://www.leding.or.jp