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2017/6/11 19:00

日本は「お酒天国」って知ってた? 実は厳しい海外のお酒事情

日本はお酒天国である。住んでいると、なかなかそのありがたみが理解できないものだが、店さえ開いていれば365日24時間、アルコールを入手可能、飲酒OKである。残念ながら、その自由度は世界の常識ではない。海外を旅行中、「あら、お酒が買えない」と困惑した経験を持つ方も少なくないだろう。これには、それぞれのお国の事情があり、アルコールを制限する規制が設けられている場合が多い。

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アルコールを禁止する宗教の存在も大きい。日本でも厳しい宗派になると、仏教徒もお酒はNG。僧侶は飲酒を禁じられているケースもある。もっとも一般の教徒で飲酒を禁じられている方はそう多くはないし、神道は飲酒を禁じておらず、どうも日本人は酒席を「無礼講」と呼び、酒に「飲まれる」ケースも多い。

 

■イスラム教もキリスト教もお酒には厳しい

イスラム教では一般のオーソドックスな教徒も飲酒NGな場合が多い。インド洋に浮かぶ島国・モルディブは、観光立国。環礁に浮かぶ島ひとつひとつ、それぞれがハイクオリティなリゾート・ホテルになっているケースが多く日本人にも人気だ。しかし、そこはイスラム教国。滞在中、ラマダーン(断食月)に当たり、ホテルのBARに立ち寄ると従業員が見当たらない。声をかけるとバーテンダーがひとりカウンターに出て来た。「呑める?」と訊ねると、「リゾート・ホテルだ。もちろん」と回答。

 

カクテルを傾けながら、不思議に思い「お祈りに行かなくても問題ないの」とさらに訊ねる。「私はスリランカ人。モルディブ人は、今はお祈りの時間です。彼らはお酒を作るのもNG。モルディブで働くバーテンダーは、ほとんどスリランカから来ています」と解説された。なるほど。「お互い仏教徒で良かったですね」とウインクするので、「まったくだ。一杯一緒に呑もう」と彼にビールをご馳走し、乾杯したのは言うまでもない。

 

イスラム教の聖地メッカを抱くサウジアラビアでは、アルコールの購入さえご法度である。死にたくなければ、決して密輸や飲酒などを試みないよう。11世紀のペルシャの詩集『ルバイヤート』には、飲酒に関する記述も見えるというから、イスラム教徒でも愛飲家は古来、存在するのだろうが…。

 

キリスト教も思いのほか厳しい。日本人は忘れがちだが、私が長年住んでいたアメリカはキリスト教国だ。宗派は様々に分かれているが、アジア系、アラブ系、ユダヤ系以外はキリスト教徒であるとしても大げさではないだろう。よって飲酒に対する視線は厳しいし、安息日である日曜には、各種の規定がある。

 

例えば、ニューヨーク州では日曜日の午前中、店でのアルコールの販売を禁じている。ニューヨークで暮らしていながら、私は長らくこの規則を知らず、ある日曜、友人宅のBBQパーティに呼ばれ、「ちょっとビールでも買っていけば」と午前中にデリに立ち寄った。冷蔵庫からビールの6パックを取り出しレジに置くと、店員に「なんだよ、日曜の午前にアルコールは売れないよ」とトンマ扱いされた。「え、知らなかった! 友達のウチでBBQなんだよ、手ぶらで行くわけいかないから、特別に売ってくれよ」と喰い下がっても「そんなの前日に買っておかないお前が悪いんだろ」と無碍もない。ビールもさっさと片付けられてしまった。この時は、友人宅の最寄駅まで移動。歩き回ってスーパーを見つけ12時になるのを待ってから、ビールを購入。1時間ほど遅刻しBBQに顔を出した。ここで初めて「安息日の規制」を知った。

 

クオモ・ニューヨーク州知事は先日、ニューヨーク市以外の飲食店においては午前8時から、市内では午前10時からアルコールの提供ができるよう規制を緩和しようとしている、と報道がなされたが、議会内には反対の意見も根強い。

 

後年、ジョージア州アトランタに引っ越した際もこの洗礼を受ける。いや、あれはCNNの面接にアトランタを訪れた日だ。面接が終わり、社が手配してくれたホテルへと戻った。「やれやれ、これでひと安心。ビールでも呑むか」と向かいのコンビニに入ると、ビールの入ったガラス張りの冷蔵庫(日本でもコンビニでみかけるタイプだ)の取っ手にモップのスティックの部分(つまりこっちも取っ手だ)が、横串されており、冷蔵庫が開かないようになっていた。これを目撃した瞬間、すべてを察知した。「そうだ、日曜日だ」。念のため、レジへ行き、「今日は日曜だからビールは買えないんだよね」と訊ねると、「そうだ、ここジョージア州では終日、買えないと決められている。安息日だから」との回答だった。

 

ジョージアを含むアメリカ南部の州は、アメリカでも敬虔なクリスチャンが多く、日曜日のアルコールの販売は禁じられて場合が多い。興味深いのは、日曜日でもレストランやバーでは、アルコールの提供が許されている点。アトランタでも、この後ホテルの隣のパブに入り、普通にビールをオーダーし、ホッとひと息ついたものだ。

 

これはどうも西洋と東洋の比較文化論にまで発展しそうな推察だが、ひとりで買ってひとりで飲むのは「アル中」。公共の場で周囲の者にも気をつかいながら呑むのは、正統派で「正気」とくくられているようだ。日本のように、酒を呑んでべろべろになって倒れたりしても、誰も同情してくれない。そもそも酩酊するまで飲むのは、「悪」とさえ見られている。「酒を呑んでいるからしょうがない」という無礼講は、まったく通用しない。

 

■民族移動や土着文化など歴史的背景も

先日、訪れたニューカレドニアはいかがか。「天国にいちばん近い島」でも、ことお酒については厳格だ。お酒はそう簡単に手に入らない。アルコールの販売時間がひどく限られているからだ。ビールなどのアルコール類を全日入手できる日は、月曜、火曜、木曜のみ。水曜および金曜から日曜への週末は正午から21時まで販売禁止と少々複雑な規制がしかれている。また、ビールを冷やして販売するのもNG。購入後即座にビールを呑む……という行為を防ぐためだとか。

 

ガイド氏によると、アルコールの耐性に弱い地元の方々と、フランス文化の相容れない価値観から生まれた規制とされる。キリスト教国では、アルコールを禁じてはいないが、「酔っぱらってはいけない」という暗黙のルールがある。フランスなどは、呑んでもキリっとしていなければならないし、あまりクダをまいたりするようだと、人々から疎まれる。いわば「アル中」にくくられてしまう。

 

太古の昔、人類が世界中へと広がる際、ヨーロッパ方面からアルタイ山脈を越え人類が移住するあたりで、アルコール分解酵素を司る遺伝子異常、いわばミューテイションが起こったという説がある。この結果、アルタイ山脈よりも東に土着した民族はアルコール耐性が弱いという。一方、アルタイ山脈よりも西に残った民族は、アルコール分解酵素が強い。よって、ニューカレドニアのように前者(土着民族)と後者(大航海時代以降の欧州からの移住者)が同居する土地では、こうした規制が設定される土壌が生まれた…と推察できる。

 

アメリカ本土の民族文化などを知る方は、「ネイティブ・アメリカン=アル中」という偏見、レッテルがいまだにあるのを、ご存じだろう。彼らもまた日本人と同様、アルタイ山脈を越え、東に移動した土着の民族である。

 

店さえ開いていれば、いつなんどきでもアルコールを入手できる日本はお酒天国である。逆にお酒好きが海外に足を運ぶ際は、上記のような宗教的な違い、厳しい規制も踏まえ、くれぐれも各国のお酒事情にご留意を。

 

【著者プロフィール】

たまさぶろ

週刊誌、音楽雑誌編集者などを経て渡米。ニューヨーク大学などにてジャーナリズム、創作を学ぶ。CNN本社にてChief Director of Sportsを務める。帰国後、毎日新聞とマイクロソフトの協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」をプロデュースし、日本で初めて既存メディアとウェブメディアの融合を成功させる。元MSNスポーツ・プロデューサー。著書『麗しきバーテンダーたち』がベストセラーに。米同時多発テロ事件以前のニューヨークを題材としたエッセイ『My Lost New York』が好評。