本・書籍
2017/9/23 15:30

ドイツ人はバウムクーヘンを食べないってホント?

ドイツ菓子の代名詞といえばバウムクーヘン。ドイツ語でバウムは「木」、クーヘンは「ケーキ」だ。

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日本では“年輪”を表したこの菓子が縁起がよいとされ、結婚式の引き出物としてもすっかり定着している。また、バウムクーヘンは日本全国どこでも買えるし、袋菓子となってスーパーでも売られているから、食べたことがないという日本人はほとんどいないだろう。

 

が、しかし、本場ドイツではバウムクーヘンを食べたことがないという人のほうが多いらしいのだ。

 

限られた職人だけが作る特別な高級菓子

わが家には娘の交換留学相手でこれまで2人のドイツ少女がやってきたが、どちらも「バウムクーヘンは食べたことがない」と言っていた。

 

ひとりはハーメル在住の少女で見たことも聞いたこともないと言い、また、もうひとりのベルリン在住の少女はテレビで観たことがあるけれど実際に味わったことはないと言っていた。

 

そう、ドイツではバウムクーヘンは限られた店でしかお目にかかれない特別なお菓子なのだ。バウムクーヘンが生まれたのは1800年初頭で、発祥の地は諸説があるようだがドイツ北部のザクセン・アンハルト州の小さな村ザルツヴェーデルで焼かれたという記録が残っているようだ。

 

バウムクーヘンの製法はドイツ国立菓子協会によって厳格に定められているそうで、ベーキングパウダーは使わない、油脂はバターのみ、専用オーブンで手間暇をかけて焼くなど数々の基準があり、それらを満たしたものだけが「バウムクーヘン」と呼ばれるのだという。

 

当然、バウムクーヘンを焼く職人は限られ、店頭に置く店も少ない。ドイツではバウムクーヘンはお祝いやクリスマスなど特別な日に贈る最高級のお菓子という位置づけなので、身近で買えるものではなく、味わったことがない人が大勢いるのだ。

 

日本のバウムクーヘンはユーハイムが生んだ

日本にはじめてバウムクーヘンが登場したのは、1919年3月4日に広島で開かれたドイツ品展示即売会でのこと。日本初となったこのバウムクーヘンを焼いたのはドイツ人の菓子職人カール・ユーハイムだ。日本人の嗜好をよく知っていた彼はバターを控えるなど、日本人向きの味に仕上げた。これが大当たりし、バウムクーヘンは好調に売れていったそうだ。

 

その後、他の洋菓子店もバウムクーヘンを作って売り出すようになり、日本におけるポピュラーなドイツ菓子として広く知られるようになり、親しまれてきた。が、フワフワでしっとりした食感のバウムクーヘンは日本独自のもので、濃厚でずっしりとしたドイツのバウムクーヘンとはずいぶん違うようだ。もし、ドイツへ行く機会があったら是非、食べ比べてみたいと思う。

 

ドイツのお菓子をもっと知りたい

『ドイツ菓子・ウィーン菓子 基本の技法と伝統のスタイル』(辻製菓専門学校・監修 長森昭雄、大庭浩男・著/学研プラス・刊)は、バウムクーヘンだけでなく、ドイツとオーストリア生まれのお菓子とその歴史、作り方を詳しく教えてくれる一冊だ。洋菓子店のショーケースでよく見かける欧州菓子の製法が写真プロセス付きで紹介されているのでとてもわかりやすい。また自分で作ってみたいた人にはレシピ本として、もちろん活用できる。

 

代表的なドイツ菓子といえば、はちみつと香辛料をたっぷり使ったレーブクーへンや、マジパンを使った菓子が中世から東西交易の中継地として栄えてきた歴史を物語り、バウムクーヘンやシュヴァルツヴェルダー・キッシュトルテといった菓子が、豊な森林を抱える土地柄をしのばせます。

(『ドイツ菓子・ウィーン菓子 基本の技法と伝統のスタイル』から引用)

 

ドイツ菓子は華やかな色合いには欠けるものの重厚感があり、それは気候と風土が関係しているようだ。りんご、くるみ、へーゼルナッツ、けしの実を使ったお菓子類はとてもドイツ的。あるいはチーズを使ったお菓子も豊富でそれも特徴のひとつになっている。

 

例えば、私たち日本人も大好きなベイクドチーズケーキは、ドイツの製菓店には必ずといっていいほどあるそうだ。

 

本書では、クヴァルクというドイツのフレッシュチーズを使ったサワーチェリー入りのベイクドチーズケーキ、同じくクヴァルクを使ったドレスデン風チーズケーキのレシピが紹介されている。

 

その他にも、ブレーツェル、スパイスケーキ、スパイスクッキー、バターケーキ、ロールケーキなど、味わってみたいドイツ菓子がいっぱい!

 

ウィーン伝統のトルテ

現在のウィーンはヨーロッパ中部にある小国オーストリアの首都です。しかし歴史をたどれば、第一次世界大戦までおよそ650年間にわたり、ヨーロッパ全体の歴史を左右する規模と力を誇ったオーストリア帝国の中心都市でした。そしてその支配者であったハプスブルグ家の宮廷文化に育まれたのがウィーン菓子です。

(『ドイツ菓子・ウィーン菓子 基本の技法と伝統のスタイル』から引用)

 

ウィーン菓子でまっ先に思い浮かぶのがザッハトルテだろう。1814年、オーストリア外相メッテルニヒの命によりお抱え料理人だったフランツ・ザッハが考案したチョコレートケーキだ。本書では、チョコレート風味のバター生地にアプリコットジャムで風味を添え、表面をザッハグラズール(糖衣)で覆った伝統製法を解説している。

 

さらに、この他にもウィーンの伝統のトルテのレシピの数々が紹介されていて、食べたいものばかりで目移りしてしまう。

 

りんごのシュトゥルーデル

私が大好きなウィーン菓子は、りんごのシュトゥルーデルだ。数年前に友人にすすめられ味わったら、そのおいしさにすっかり病みつきになってしまったのだ。

 

シュトゥルーデルは渦巻きという意味で、生地を紙のように薄くのばしてフィリングを巻き込んだお菓子。古くから作られているウィーン菓子を代表するメールシュパイゼで、起源はトルコ、ボヘミアともいわれている。

(『ドイツ菓子・ウィーン菓子 基本の技法と伝統のスタイル』から引用)

 

この本にも、もちろん、りんごのシュトゥルーデルのレシピ、そしてバリエーションとしてイチゴやフレッシュチーズを使ったものも紹介されている。

 

スイーツのことを考えるとワクワクしてくる。さぁ、今日は何を食べようか? バウムクーヘンにしようか、それともトルテかシュトゥルーデルか……?

 

(文:沼口祐子)

 

【文献紹介】

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ドイツ菓子・ウィーン菓子 基本の技法と伝統のスタイル
著者:辻製菓専門学校(監修)、長森昭雄(著)、大庭浩男(著)
出版社:学研プラス

西欧製菓の大きな源流のひとつ、ドイツ・ウィーン菓子をはじめ、フランス菓子など、他国の菓子作りを学ぶ。菓子名、生地・クリーム名、材料名のドイツ語表記も掲載しており、大学や調理師学校のサブ・テキストに最適の1冊。辻製菓専門学著・監修。

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