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2018/6/29 21:30

完全無農薬栽培のブドウが醸す味は? 元金融マンが挑む非常識なワイン作り

「たぶん僕のワイン、日本でいちばん最高品質のものができちゃうだろうなと思っています」

柔和で穏やかそうな雰囲気からは少しギャップのある、さりげなくも挑戦的な言葉を最後にもらいました。そんな決意のこもった言葉にますます期待を高めながら、畑の真ん中で、福島さんの造ったワインをいただきました。委託醸造で作られた、2016年産と2017年産の小公子です。

↑武蔵ワイナリーのワイン「小川 小公子」。2016年と2017年ヴィンテージは委託醸造によるもので、それぞれ2848本、1314本と生産量は極少量だ

 

グラスに注がれた小公子は、グラスの底や向こう側がまったく透けないほどの濃厚な色調。うす濁りで深いガーネット色です。でも味わいは、重たさが微塵もなく、余韻に軽やかささえ感じられるのは、高い酸のおかげでしょうか。ゴボウやにんじんなど、土の下の野菜のニュアンスもあり深遠な旨味。濃厚さがありつつ、和食などにも合わせやすい味わいでした。

 

↑小川の町で栽培された小公子のワイン。武蔵ワイナリーのフラッグシップは「小川 小公子」と名付けられている

 

↑ガラス栓は、極力何も添加しないワイン造りにとって劣化につながる危険性が少なく、より機能的

 

その味わいに感動する取材クルーを見て、とてもうれしそうな表情の福島さん。まるで我が子の発表会を見守る親御さんのようでした。「日本でいちばん最高品質なものができちゃう」の真意はきっと、「僕の子育ては日本でいちばん」ではなく、「僕の子どもたちは日本でいちばん」と、この地で育つブドウ本来の力をなんの疑いもなく信じているからこそ、いたって自然体で口を突いて出た言葉なのかもしれません。

 

↑「小川 小公子」を手にうれしそうな福島さん

 

ワイナリーの数だけ、信念がある

有機栽培、無農薬栽培、自然派ワイン、ヴァン・ナチュール。日本ワインに限らず、これらの言葉が注目され氾濫する世界のワイン市場。化学的なものを使用せずに済むなら、添加せずに済むなら、それに越したことはない? きっと誰もがそう思うでしょう。ですが産業である以上、別の立場に信念を持ちながらワイン製造に取り組むメーカーがいることも、否定はできません。私たち消費者が知るべきなのは、それぞれのワイナリーの信念と、そこに共感できるかどうか。それもまたワインの楽しみ方のひとつではないでしょうか。

 

現在、福島さんのワインはほとんど自社のネットショップでしか販売を行っておらず、ボトルを手に取ることも難しい希少なワインですが、そのボトルの裏ラベルに記載されている“武蔵ワイナリーの信念”を、最後にご紹介しましょう。

 

『数十年先も数百年先も必要とされる存在になることを目指して、そして”発酵“という微生物の無限の可能性を信じて、武蔵ワイナリーは邁進します』

 

武蔵ワイナリー http://musashiwinery.com/

 

取材・文=山田マミ 撮影=我妻慶一

 

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