グルメ
2018/10/17 21:00

【街中華の名店】自家製麺のラーメン470円!創業90年を超える大崎「平和軒」は次世代に残すべき宝のような店

品川駅と並び、山手線における城南エリアの要所といえる大崎駅。周辺には様々な大企業がオフィスを構え近代化の様相を呈しているが、その一方で昭和の面影を色濃く残す街中華が存在する。「平和軒」だ。

 

 

妥協が一切ないお手本のようなラーメン

店の場所は東急池上線の「大崎広小路駅」寄りで、立正大学からすぐ。入口前の道路脇から延びる階段、この先にうっすらと見える「中華料理 平和軒」の看板が目印だ。車が通れない細い通路沿いで、迷う人もいるという。だが、たどり着けばそこには絶品で格安の料理が待っている。

 

メニューは麺類と、チャーハンや丼系のワンプレートもの、そして中華定食という構成。種類は豊富で迷うほどあるが、そんなときはシンプルな「ラーメン」がイチオシだ。なんといっても税込で470円という破格な設定に驚かされる。もちろん出来合いのスープなどは使わず、しかも麺は自家製。

↑「ラーメン」470円。チャーシュー、ねぎ、めんま、なるとという、お手本のようなルックスだ! 丼に青字で書かれた店名のロゴも、いぶし銀の風格を漂わせている

 

この安さで、チャーシューは食べごたえある厚さの肩ロース肉がしっかり2枚。スープは豚の背ガラと鶏ガラを中心に、長ねぎの青い部分や玉ねぎといった香味野菜を加えてじっくり煮込む。聞けば、朝8時ごろからオープンまでの仕込みで1日ぶんを丁寧にとっているとか。

↑ゆるやかにウェーブのかかった中細タイプ。同店の麺料理すべてに使われている

 

自家製麺は、独特のテクスチャーが特徴。高温多湿な夏と低温で乾燥する冬とでは水分の配合量を変えるが、一般的なものよりも加水率は高め。さらに2~3日低温熟成させることで、プツっとツルっとした豊かな弾力と適度なコシを生み出している。

↑素材のうまみがバランスよく抽出されたスープは深みがあり、染み渡るようなやさしさ。麺とひとつになることで、至福のおいしさが口いっぱいに広がる

 

なお、麺類には+360円で半チャーハンを付けられる。これは同店の米飯類で人気の、「五目チャーハン」(660円)のハーフサイズだ。最小限の具と味付けで炒められたチャーハンは、主張しすぎないラーメンと抜群のコンビネーションを誇る。

↑ハーフといえども量は多め。具で特筆すべきは、長ねぎではなく玉ねぎであることだが、これにより甘みを演出しているとか。また、紅しょうがも絶妙なアクセントに

 

このチャーハンの具は、チャーシュー、玉ねぎ、なるとからなる、引き算の美学的な逸品。味付けは塩をベースに、色と香り付けでしょうゆを少々加える。なお、玉子が入るタイプには「玉子チャーハン」(660円)があり、こちらはそのぶんチャーシューが入らない。

 

 

オリジナルのちゃんぽんや具材の豪華なうま煮丼も絶品

麺類ではほかに、店名を冠した「平和チャンポン」や具が豪華な「チャーシューワンタンメン」(ともに710円)も人気だ。前者は一般的な長崎ちゃんぽんとは違い、クリーミーな豚骨スープではなく魚介の具も入らない。ただ、野菜をたっぷり使うことでその甘みがスープに溶け出し、多彩な食感とともに奥深い味わいを生み出している。

↑「平和チャンポン」710円。スープは塩ベース。同店には似たようなメニューに「タンメン」(550円)もあるが、こちらは具がここまで豪華ではない

 

丼ものでガッツリ楽しむなら、「五目ウマニ丼」を。こちらも近しいメニューに「中華丼」(660円)があるが、それ以上に豚肉、たけのこ、なると、きくらげなどがたっぷり入り、その数はなんと9種類。ご飯が隠れるほどのボリュームもさることながら、具のカットも大きくて食べごたえ満点だ。

↑「五目ウマニ丼」910円。とろみのついたあんはラーメンなどに使うスープと塩で調味してあり、素材本来の自然なおいしさが存分に楽しめる

 

 

平和の灯は城南から神奈川や埼玉へも広がっていた

「平和軒」は、三代目となる店主・小林博明さんの実家。1965年に改装し、店舗兼住居にしたのだとか。以前はもっと料理のバリエーションが豊かで、夜の営業や出前もやっていたが、いまはひとりで切り盛りしている。そのため形態やメニュー数を縮小せざるを得なくなり、珠玉の逸品が残る形となった。

↑かつて「五反田新開地」と呼ばれていたエリアにあった路面店を引き払い、ドッキングさせていまに至る

 

さらに、知れば知るほど奥深い「平和軒」のルーツ。初代や二代目から聞いた話で、事実がどうかわからない部分もあると小林さんは言うが、歴史を語ってくれた。どこかの南京町で中華料理のレシピを学んだ、初代にあたる祖父。やがて昭和2年(1927年)に目黒駅周辺で「平和軒」を創業する。店名の由来は、初代の名前に使われていた「平」の文字と、新しい元号である昭和の「和」を合わせたものだとか。

↑以前は小林さんの母親が麺を打ち、二代目である夫のサポートをしていたとか。その両親から受け継いだ製麺や中華料理の技術が、しっかりと息づいている

 

しかしその名称とはうらはらに、時代は少しずつ戦時体制へ突入。その後終戦を迎えるも、店や自宅は跡形もなく再開できる状況ではなかったという。そこで五反田駅前で屋台を引きながら営業をはじめ、1950年ごろに「五反田新開地」の一角に「平和軒」を新装オープンしたのだ。なお、初代には弟がいて、彼は西五反田で同じ屋号の「平和軒」を開業。いまも現存する。

↑奥は座敷で、入口付近はテーブル席という間取り。その間に置かれたウォータージャグには麦茶が作られ、小林さんのやさしさを感じる。常連には社会人のほかに立正大学生も多く、毎日のように訪れる青年も

 

しかも「平和軒」はほかに祐天寺と川崎にもあり、これらは小林さんのいとこ。小林さんが料理の基礎を学んだのも、かつて祐天寺店の隣にあった洋食店「レストラン平和軒」だ。また「平和軒」は西小山にもあり、こちらは西五反田店の流れを組む親戚。さらに浦和にある「平和軒」は、大崎店の元従業員が独立して開業した店舗だという。

↑小林博明店主。1951年生まれで、かつての五反田や大崎の歴史にも詳しい

 

2019年にはひとつの時代が終わり、新たな元号へと変わる。90年以上前に誕生した一軒の街中華は、昭和から平成という激動の時代を乗り越え多くの分家を生み、それ以上に無数のファンと“口福”を生み出してきた。笑顔や幸せの先にあるのはまさに平和。ピースフルな味わいを、ぜひ平成最後のいまこそ体験してほしい。

 

 

撮影/我妻慶一

 

【SHOP DATA】

平和軒

住所:東京都品川区大崎3-1-16
アクセス:JR「大崎駅」北口徒歩7分、東急池上線「大崎広小路駅」徒歩4分

営業時間:11:00~15:00

定休日:日曜、祝日