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2018/10/31 20:15

ロゼの次はオレンジだ! “第4の色”オレンジワインの楽しみ方

東京・築地にある、7坪ほどの小さな立ち飲みワインショップ&バー「酒美土場」。営業時間は10時から15時と、先日まで開いていた築地市場の開場時間にならったとはいえ、夜営業のない一風変わったワインバーです。場所柄、外国人客も多く集まるこの店に、世界各国のワイン好きも満足する理由は、個性的なワインの品揃えにあります。

 

注目すべきは、「オレンジワイン」の陳列コーナー。店主の岩井穂純さんがセレクトするワインが人気を呼び、今では“オレンジワインがあれこれ飲める店”として、知る人ぞ知る存在となりました。「場所柄、日本のワインは多く扱っていますが、やっぱり最近は、オレンジワインを求めていらっしゃる方が多いですね。うちでは、日によって3〜5種類のオレンジワインがグラスで楽しめます」(岩井さん、以下同)

↑店内のオレンジワインコーナーには、フランス、スペイン、クロアチア、そして日本など、世界中のオレンジワインが揃う

 

「オレンジワイン」ってなに?

お馴染みの白ワイン、赤ワイン、ロゼワインに加えて“第4の色”とも言われるオレンジワイン。新しい色かと思いきや、そのルーツは、考古学上ワイン発祥の地として知られるジョージアワインにあるといいます。ショージアワインは「クヴェヴリ」という、地中に埋められた大きな甕の中で、ブドウの果汁を皮と種と一緒に醸す伝統製法で、赤ワインだけでなく白ワインも造られます。

 

近代的な白ワインの製法とは、収穫後のブドウから皮と種が取り除かれ、果汁だけが発酵されるというもの。これによって、私たちがよく知るあの透明感ある白ワインに仕上がります。一方オレンジワインは、白ブドウまたはグリ(灰色)ブドウを、黒ブドウで赤ワインを造るのと同様、果汁を皮と種とともに一定期間浸漬させながら発酵するため、複雑な旨味と独特の色合いが抽出されるのです。このような製法で造られたワインは今、世界各国で「オレンジワイン」、または「アンバー(琥珀)ワイン」と呼ばれています。

↑グラスに注ぐと、オレンジ色とも琥珀色ともとれる、およそワインらしくない色合い

 

造り手の意図を汲みながら味わう

「もちろん、オレンジワインをまったくご存知ないお客様も、たくさんお店にはいらっしゃいます。そんな時はまず、『オレンジワインといっても、柑橘類から造られたワインじゃないんですよ?』なんて会話からスタートしますね(笑)。オレンジワインにも他のワイン同様、ブドウ品種の種類、醸し期間の違いなどによってさまざまな味わいがあって、初めての方にはまず飲みやすい、例えばこんなオレンジワインから飲んでいただきます」

 

そう言って、岩井さんがまず私たちのグラスに注いでくれたのは、山形県置賜産のデラウェアを数日間醸し発酵させた、日本のオレンジワイン。味わいは、まさに生のデラウェアをそのままかじっているようなニュアンス。

↑清澄白河フジマル醸造所「デラウェア ペリキュレール by Sato」(日本/山形県置賜産デラウェア100%)

 

「デラウェアって、子供の頃よく食べましたよね? 僕たち日本人が慣れ親しんだあのデラウェアの魅力を、あますところなく表現したようなワインです。生食用は種無し処理をされますが、その作業も、高齢化と人手不足の農家さんには大きな負担。でもワイン用のデラウェアは種有りのまま。ならばせっかくだから、その種も皮も“ワインの要素”として取り入れてデラウェア本来の味わいを表現しましょうという、造り手さん自身の想いが伝わるようなワインです」

 

造り手は、なぜ通常の白ワインではなく、オレンジワインを造るのか? 新しいムーブメントなだけに、そこには明確な意図があるはず。

 

皮と種の抗酸化作用によって、通常の白ワインよりも亜硫酸(酸化防止剤)の添加を抑えられると考える造り手、新興産地ゆえにその土地の気候風土(テロワール)の表現よりブドウそのものの質を追求した結果、ブドウからは何も取り除かずそのすべてをワインに表現したいと考える造り手、はたまた、今話題だから自分にも造れるかどうかチャレンジしてみたい、という造り手。崇高な哲学から興味の探求まで、意図はさまざまでも何かしらはあるはず、と岩井さんは言います。

 

スローフード、自然派志向、原点回帰など、ワインの世界のみならず、私たち消費者の心を動かしやすいキーワードが市場に溢れています。そのなかで、単にそれらのワードを受け取るだけでなくその意図を探る意識を持つことで、私たちの食生活はより豊かなものになるかも知れません。

↑ワインショップ&バー「酒美土場」オーナー岩井穂純さん。オレンジワインに精通し、各メディアからの取材や講師依頼も多数

 

岩井さんがおすすめするオレンジワイン


ジェニ・デ・フルール「ノール 2017」
(フランス・ラングドック/クレレット100%/醸し期間10日)

 


ドメーヌ・スローズ「ペトロレット 2016」
(フランス・プロヴァンス/ユニブラン50%クレレット50%/醸し期間約2カ月)

 


ピクェントゥム「マルヴァジア 2016」
(クロアチア/マルヴァジア100%/醸し期間4日~7日)

 


清澄白河フジマル醸造所「デラウェア ペリキュレール by Sato」
(日本/山形県置賜産デラウェア100%)

 

では、オレンジワインをもっと身近に楽しむために、どんな料理と合わせたらいいか、考えてみましょう。

白ワインには魚、赤ワインには肉、ではオレンジワインには?

では、オレンジワインをもっと身近に楽しむために、どんな料理と合わせたらいいか、考えてみましょう。多種多様な料理法やペアリングの概念があるなかで、「白ワインには魚、赤ワインには肉」とさえ、もうロジカルには定義できない昨今、オレンジワインには一体何を合わせたらいいか、岩井さんに尋ねました。

 

「すごく難しく感じてしまいますよね(笑)。でも、劇的に合わないものって、実はそんなにありません。考え方としては、例えばキノコ類や魚をスモークしたものなど、『合わせるとしたら白ワイン系だけどいわゆる白ワインのフルーティーさを抑えてお料理に合わせたいな』と思う時、ぜひオレンジワインを選んでみてください」

 

加えて、私たち日本人にとっての身近な食べ物から、具体的に挙げてくれました。

 

「例えば発酵食品、味噌などはその代表で、オレンジワインにはとってもよく合います。それと漬物。ジョージアワインといぶりがっこのペアリングはいいですね! あと単純ですけど、パン。ワインとパンって当たり前の組み合わせのように思われていますが、なかでもオレンジワインとの相性は抜群なんです。自然酵母や全粒粉など、噛むほどに旨味を感じるパン、歯ごたえのある雑穀パンなど。さらに茶葉などオレンジワインの中にも感じ取ることができる味わいの要素をパンに練り込めば、ぐっとオレンジワインとの距離が縮まります」

 

さらに、“岩井流”ペアリングとしては……「雲丹! これは意外といけます(笑)。うちのワインバー酒美土場は、食べ物の持ち込みがOKなんです。築地場外市場という場所柄、海の幸の持ち込みも多いのですが、なかでもオススメは雲丹です。あのトロッとした食感と、後味に残る複雑な感じがぴったりなオレンジワインもあります」

 

以上から推察するに、海外からの来店客も多いとはいえ、オレンジワインに関しては特に日本人の方が受け入れられやすいのでは?

 

「そうですね、基本的にどの国の方も喜んで飲んでくださいますが、個人的には日本人の味覚の許容範囲は広いと思います。家庭料理の中でもいろいろな食材を使いますし、いろいろなタイプの味わいに慣れていますよね。また、日本食は全体的に落ち着いた味わいが多いですよね。辛味や酸味など特定の味わいが突出していることがなく、さまざまな要素がバランス良く含まれていて中庸です。オレンジワインも、白ブドウからフルーティーな果汁という特定の要素だけを取り出して造る白ワインとは違って、皮や種、ときには梗(茎)の部分も一緒にワインの要素として取り入れるので、苦味、酸味、渋味など、本来ワインとしては敬遠されがちな要素も加わって複雑に構成されています。そういうオレンジワインの持つ味わいのトーンと、私たち日本人が慣れ親しんだ食文化のトーンは似ているように個人的には感じています」

↑岩井さんがオレンジワインの魅力とともに提唱する独自の試飲方法“感覚テイスティング”。「無駄な情報を遮断したときに本来の味わいがわかる」というもので、部屋の照明や冷蔵庫など電化製品の電源さえも最低限に落とした静寂のなかで行う。液体に多くの要素を含むオレンジワインも、また違った味わいの発見につながるという

 

最後に、オレンジワインが人を惹きつけるポイントをまとめましょう。また、おすすめの銘柄ももう少し、ご紹介します。

愛される理由は、感性に響く意図、色合い、味わいのトーン

岩井さんが説くオレンジワインは、単に目新しい第4の色としての人気に留まらない魅力に溢れています。“美味しいもの”が飽和状態の現代の食生活で、“美味しい”だけではもはや、新しいムーブメントが起きる理由としては不十分。いつの時代も人の感性を動かすのはやはり、人の感性です。オレンジワインが造り手の意図に想いを馳せる楽しさに溢れていることは、愛される理由のひとつではないでしょうか。

 

また茶褐色の色合いは、私たち日本人が慣れ親しんだ“美味しいもの”を連想させます。白くて美味しいもの、赤くて美味しいものより、茶褐色で美味しいものの方がはるかに多くの食材や料理が頭に浮かぶことでしょう。そしてそれらの食材と幅広く合わせることができるオレンジワインの多様性も、もうひとつの魅力です。

 

さらに。私たち日本人は山菜や薬味、海藻、発酵食品といった、本来美味しさの代表格とされる味覚“甘味”“塩味”だけではない、“苦味”“酸味”“旨味”を自然に食卓に取り入れています。白ワイン、赤ワイン、ロゼワインにはこれまで感じられなかった味わいの要素を多く含むオレンジワインですが、私たち日本人にとっては、どこか懐かしさすら感じる味わいなのかもしれません。

 

最後に、「酒美土場」では現在扱いがありませんが、注目の銘柄を2点、ご紹介しましょう。

 


カーブドッチワイナリー「いっかく 2017」(日本・新潟)

日本でもオレンジワイン造りを試みるワイナリーは増えています。これは同ワイナリーの1992年の創業以来初醸造となるオレンジワイン。『5種のブドウ品種によるブレンド。2017年は本当に厳しい年で、収穫時に成熟していないブドウも多く出ました。通常そのまま破棄してしまう事が多いのですが、あまりにも多いので“もったいない精神”が捨てることを許さず、醸造することにしました』。

 


ドメーヌ・ミラン「ルナ・エ・ガヤ 2016」(フランス・プロヴァンス)

ワイン大国フランスでも世代交代により、新しい試みの一環としてオレンジワインに挑戦するワイナリーも。それがオレンジワインと呼ばれる以前の1990年代にすでに偉大な父が造っていたワインを、若干29歳の息子が復活させた初ヴィンテージ。現代らしく洗練された次世代の味わいです。

 

【店舗情報】

酒美土場(シュビドゥバ)

住所:東京都中央区築地4-14-18 妙泉寺ビル1F
電話:03-3541-1295
営業時間:10:00~15:00(金曜は19:00~バー営業も)
定休日:日曜、祝日

 

↑オーストリアワイン大使としても活躍する岩井さん。オレンジワインに限らず、オーストリアのナチュラルワインの品揃えも豊富

 

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