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2019/11/5 19:05

「わかりづらい」から日本酒の名前を「時刻」にしたよ! 「とにかく振り切った」全6種をきき酒師が飲みに行く

以前、クラウドファンディング「Makuake」の日本酒プロジェクトを取材した際、特に印象的な銘柄がありました。それが「HINEMOS」。なぜなら、デザインも味の個性も際立っていたからです。

↑ルックスからして異彩を放つ「HINEMOS」。2019年10月現在、6種のラインナップがそろっています。左から「REIJI」「HACHIJI」「JUJI」「SHICHIJI」「NIJI」「KUJI」

 

そして今回、「HINEMOS」全種の飲み比べができる体験会が開催されるとの情報が。体験会に参加して実際に「HINEMOS」を試してみると、従来の日本酒とはイメージがまったく違う……。どれも個性的な味わいながら、完成度も極めて高いことがわかりました。以下で、その驚きをレポートしていきましょう!

 

日本酒を世界でもメジャーにしたいという想いから生まれた

試飲会の冒頭では、「HINEMOS」を手掛けるRiceWine社の酒井優太代表が立ち上げの経緯やコンセプトなどを説明しました。酒井さんはIT業界出身という異色の経歴の持ち主。イギリスの企業に出向し、東南アジアでインターネット教育をしていた際に子どもを授かり、日本というアイデンティティを強く意識するようになったといいます。

↑株式会社RiceWineの酒井優太代表。「HINEMOS」とは日本語で「全ての時間=終日」という意味をもち、「終日」をふりがなで「ひねもす」とも呼ぶそうです

 

こうした海外での事業経験から、より「日本のために」という想いが強くなった酒井さんは伝統産業の分野で起業を決意。さらに奥さんの実家の近くが酒蔵の集結する地域だったことから日本酒に縁を感じ、2018年8月に同社を設立。「箱根山」の銘柄で知られる井上酒造で同年10月から酒造りを始め、今年「HINEMOS」が誕生したのです。

↑プロダクトのコンセプトは“日本酒を分かりやすく”。「HINEMOS」の全銘柄を飲めば、日本酒の種類のほとんどを飲めるようになっています

 

わかりづらかった日本酒を「飲むシーン」で提案する

メインコンセプトは“日本酒をもっとシンプルに”。また“全ての人に日本酒を”“日本酒を新しくする”をミッションとヴィジョンに掲げ、「山田錦」「純米大吟醸」「生酛造り」といった原料や製法ではなく、”時間帯でオススメの日本酒を飲む”という明快で新しいスタイルを提案しています。

 

そうした理由には、酒井さんが初めて日本酒業界に足を踏み入れたときの試飲会で、たくさんの銘柄のなかから「何を基準にして選べばいいのか分からない」という体験があったから。「日本人でも難しいのに、海外に出ていった際はもっと説明が難しいのではないかと思った」と酒井さん。

 

時間帯で飲むこと、それはつまり飲むシーンの提案でもあります。たとえば19時ごろの乾杯では、ビールやスパークリングワインを飲むように、発泡タイプの日本酒を。22時ごろは、食後のデザートタイムで貴腐ワインを飲むように、濃厚で甘味のある日本酒を、といった形です。

↑時間とともに、時計を想起させるデザインも印象的。これらはラベル、キャップ、キャップシール、パッケージといったすべてに共通して設計されています

 

酒井さんは味についても言及。当初は日本酒を知らなかったからこそ、「もっと明確に違いを出せないか?」と思ったそうです。

 

「いろいろな会に参加し、普通酒から純米大吟醸までたくさん飲ませていただきました。ただ、僕の素人の舌では違いがいまいちわからなかったんです。後日、全国新酒鑑評会の審査資料を読んだ際、その基準が味の似通う原因のひとつではないかと思いました。もちろん評価基準は非常に大切です。ただ、基準ですから甘すぎたり辛すぎたり、香りや酸味が強すぎるお酒は高い評価を得づらくなりますよね。その結果として、評価基準に沿ったきれいなお酒が多く造られるようになったのでは、と仮説を立てると同時に、『HINEMOS』はもっと多様性のある方向に振り切ろうと考えました」(酒井さん)

 

「ですから、今回すごく甘いお酒、辛いお酒も出てきます。ぜひ楽しんでいただけたら」と酒井さん。というわけで、いよいよ料理とのペアリングがスタートです!

 

味の個性が強調され、狙い通りのわかりやすさがある

料理は、2人の一流シェフが考案。2人のシェフとは、四谷三丁目「東京割烹 てるなり」の村田明彦さんと、麻布十番「ラパルタメント ディ ナオキ」の横江直紀さんです。今回、期間限定で両店が「HINEMOS」とのペアリングフェアを開催する関係で、その一部を披露してくれました。

↑和帽子をかぶっているのが村田明彦シェフ(写真左奥)、黒いコックコートを着ているのが横江直紀シェフ(写真右手前)。両名とも超人気店を手掛けるスゴ腕です

 

「SHICHIJI」は柑橘を思わせる爽やかさ、「HACHIJI」はまろやかさが印象的

会では多彩な料理との相性を重視するため時間軸に沿った順番ではなかったのですが、本稿では現行製品の早い時間から順にご紹介。まずは午後7時に向けた「SHICHIJI」から。こちらは「ラパルタメント ディ ナオキ」の「白レバーのコンフィ ーモストコットの香り 一口タルト仕立て」とともに味わいました。以降、ペアリングに関してGetNavi webの編集者で利き酒師でもある小林史於がコメントします。ご参考までに。

↑GetNavi webの小林史於。興奮すると意味不明なことを口走ることも。なお、今回の一番のお気に入りは「JUJI」だそうです

 

↑「SHICHIJI」は精米歩合70%でアルコール分が5度の純米スパークリング。ボトルは2400円/500ml(以下すべて500ml・価格は税抜)です

 

「心地よいスパークリングの刺激と、グレープフルーツなど柑橘を思わせる爽やかさが印象的。レバーのねっとり感やエグみを洗い流して、最後にコクとタルトの香ばしさを残す…この、おいしいところだけを引き出す絶妙なあんばいがいいですね」(小林)

 

次は午後8時に提案する「HACHIJI」と、「東京割烹 てるなり」の「〆鯖 キムチカクテキあられ 大葉酢のソース」。「HACHIJI」の味にマッコリのイメージを重ねたシェフが、韓国料理をイメージしてキムチを用いたそうです。

↑「HACHIJI」は精米歩合70%でアルコール分が7度の白濁酒。ボトルは2800円です

 

「甘酒を思わせるふくよかなうまみ、そして微妙な苦味がいいですね。ヨーグルトのようなニュアンスもあって、キムチや〆鯖の酸味と引き合うんだなぁ。口の中で溶け合って、これはもう、『まろやか三銃士』だ!」(小林)

 

洗練の純米大吟醸「KUJI」と濃厚な甘口「JUJI」を味わう

午後9時に寄り添う「KUJI」は、「ラパルタメント ディ ナオキ」の「栗とゴルゴンゾーラチーズの焼きリゾット」とともに。こちらは同酒を温めた「追いHINEMOS」でお茶漬け風に味わう提案が斬新です。

↑「KUJI」を焼きリゾットにかけるという斬新な食べ方を提案。「KUJI」は精米歩合40%でアルコール分が15度の純米大吟醸。ボトルは6800円と、プレミアムな一本です

 

「華やかな香りではありますが、よりソフィスティケイテッド(洗練)されていて、食事にもよく合う繊細な味わい。あえて純米大吟醸らしさを抑えた純米大吟醸ですね。コク深く、エキゾチックな味わいの焼きリゾットとよく合います」(小林)

 

午後10時をイメージした「JUJI」に合わせたのは、「東京割烹 てるなり」による「フォアグラ大根 コンソメ飴と蕎麦の実」。同酒が甘味豊かな貴腐ワインを連想させる印象だったということで、濃厚なフォアグラと香ばしく焼き目を付けた大根をベースに料理を構成したそうです。

↑「JUJI」は精米歩合70%でアルコール分が15度の“デザートライスワイン”。ボトルは3200円

 

「ああ、なんと清々しい香味……JUJIを飲んだとたん、頭の中に森のイメージが飛び込んできました。まるで、朝露に濡れた朝の森林のような……。味わいは、はっきりと突き抜けた甘さが印象的です。なめらかで濃厚ではありますが、それでいて余韻は爽やかかつ軽やか。こちらもフォアグラ大根とそばの実の香ばしさとコク、苦味をしっかりを受け止めています。これは至福…」(小林)

 

「REIJI」は濃密な甘みが魅力。「NIJI」はシャープでオトナな味わい

午後11時のお酒は現在試作中とのことで、商品化されていません。ということで、次は午前0時をテーマにした「REIJI」を。「東京割烹 てるなり」の「鮪とアボカド・帆立とアンディーブ 大根と胡瓜巻き 黄味酢掛け」と一緒に味わいました。

↑「REIJI」は精米歩合70%でアルコール分が5度の赤色酒。赤色の色素は、お米由来のアントシアニンというポリフェノールの一種だそうです。ボトルは2400円

 

「梅酒のような、果実酒を思わせる濃密な甘さとフレッシュな酸味が絶妙。アルコール度数も軽めですし、食前酒に飲んでもよさそうな味ですね。優しいお味のお料理の味を壊さず引き立て、それでいて存在感もある。ずっと味わっていたい……そう思わせてくれるような、心地よい組み合わせです」(小林)

 

午前1時のお酒もカミングスーンということで、ラストは午前2時を想定した「NIJI」。「ラパルタメント ディ ナオキ」の「スモークをかけた秋刀魚と紫芋のテリーヌ」。同店の秋季定番のテリーヌを、日本酒向けにチューニングしたそうです。

↑「NIJI」は精米歩合70%でアルコール分が15度の辛口な純米酒。ボトルは2800円

 

「甘みが抑えられていてかなりドライですね!  これなら、どんな料理にも合わせやすいと思います。無濾過という種類を思わせる、みずみずしい香味も感じます。スモーキーなテリーヌと合わせると、よりシャープでオトナな印象に。たしかに、深夜2時に飲むのならこんな味かもしれません」(小林)

 

筆者が全体を通して感じたのは、あえて個性を強調して振り幅も広げることで、狙い通りのわかりやすさがあるということ。同時に、日本酒の味わいや組み合わせにはもっと可能性があり、自由な世界が広がっていることに感銘を受けました。

↑「HINEMOS」は今後、午後6時から午前5時までの全12銘柄で展開を予定しているそう

 

なお、HINEMOSペアリングフェアの第1弾は「東京割烹 てるなり」で10月のうちに幕を閉じましたが、現在第2弾が「ラパルタメント ディ ナオキ」で開催されています。ぜひチェックしてみてください!

 

【SHOP DATA】

ラパルタメント ディ ナオキ

ペアリングフェア期間:2019年11月14日(木)まで ※ディナー限定コースとなります

住所:東京都港区麻布十番3-3-9 COMS AZABUJYUBAN 4階

アクセス:「麻布十番駅」1番出口徒歩3分

営業時間:火~金18:00~22:00(L.O.)、土18:00~21:00(L.O.)、日12:00~13:00(L.O.)、18:00~21:00(L.O.)
定休日:月曜、第2第4日曜