グルメ
ラーメン
2019/12/9 17:30

【ラ飲みの名店】「超穴場」以外の言葉があろうか? ミシュラン星付きの「息子」が手掛ける「母」の店・本鵠沼「麺バルHACHIKIN」

ラーメン店でお酒を楽しむ、通称「ラ飲み」。本稿は、お酒をより深く楽しむための情報サイト「酒噺」(さかばなし)とコラボし、この「ラ飲み」にスポットを当てた企画である。

 

案内人は、GetNavi本誌でラーメン連載を持つミュージシャン、サニーデイ・サービスの田中 貴さん。本稿では「ラ飲み」でオススメの店を行脚しつつ、「ラ飲み」の楽しみ方や珠玉のラーメンを紹介していただく。今回は、全6回となる短期連載の第3弾をお届け。

 

第1回の記事はコチラ→【ラ飲みの名店】「コスパの概念」が吹っ飛ぶ店を知っているか? つまみ、手打ち麺ともに衝撃的な「金町製麺」

第2回の記事はコチラ→【ラ飲みの名店】つまみは、ほぼ裏メニュー!? 〆の一杯は「ある意味、もっとも贅沢」と絶賛される曙橋「角久」

 

【プロフィール】

田中 貴

サニーデイ・サービスのベーシスト。日本全国を食べ歩くラーメン好きとしても知られ、テレビや雑誌などで、そのマニアぶりを発揮することも多い。9月4日にサニーデイ・サービス、丸山晴茂在籍時の国内ラスト・ワンマン公演を収めたDVD「Birth of a Kiss」をリリース。ライブは12月21、22日に曽我部恵一の「それからlove -東京編-」にゲスト出演。12月25日にはスネオヘアーの「クリスマスの集い 2019」をサポート。そして2020年1月15日には「お~い えんけん!ちゃんとやってるよ!2020」をサニーデイ・サービスで主催する。

 

ミシュラン1つ星ラーメン店「蔦」がプロデュースするラ飲みの穴場

今回、田中さんと向かったのは神奈川県の藤沢。小田急江ノ島線の「本鵠沼(ほんくげぬま)駅」だ。新宿駅から電車に揺られること1時間強。鵠沼海岸や江の島にも近いこの街に、ラ飲みの穴場の店があるという。

 

「これから紹介する『麺バルHACHIKIN』は、あの蔦(つた)の大西祐貴店主がプロデュースしてるんです。それもあって、ラーメン好きにはよく知られたお店ですね。ラーメンはもちろん絶品。さらに“麺バル”を謳っているように酒やつまみも充実していて、飲み屋としても最高なんです」(田中さん)

↑2018年5月にオープンした「麺バルHACHIKIN」は、水色の外壁やヤシの木が目印。湘南らしさを感じさせるたたずまいだ

 

「蔦」というのは、世界で初めてミシュランガイドで星付きのラーメン店となった「Japanese Soba Noodles 蔦」のこと。大西祐貴店主は、田中さんにとって最も親交の深いラーメン職人のひとりである。なぜ、その超名店がプロデュースを?

 

「ここHACHIKINは、大西祐貴店主の母親・大西由美子さんが店主なんです。メニュー開発や味作りはもちろん祐貴店主が。それだけではなく、蔦で打った麺も毎日送られてきます。大行列店である蔦の味を、並ばず食べられる超穴場なんです」(田中さん)

 

期待を胸に、店に到着。駅からは徒歩約1分と至便ながら広々とした空間となっており、奥には座敷もあって使い勝手のよさは抜群だ。確かに、この店が自分が住む街にあったら幸せだろう。

↑センスの良さを感じさせる、落ち着いた雰囲気の空間。オレンジのエプロンを着ているのが女将の大西由美子さんだ

 

イタリアン出身の料理長が作るバラエティに富んだつまみが揃う

まず田中さんが注文したのは定番のつまみ「よさこいセット」という3種盛り。「よさこい」といえば高知県の民謡や祭りで知られるが、同店のメニュー名に採用されている理由は、女将さんが高知出身だから。また店名の「はちきん」とは、土佐弁で「活発な女性」「男勝りな女性」のこと。メニューには高知産の食材を使った料理や酒もあり、それも同店の特徴となっている。

↑「よさこいセット」。3種の内容は料理長のお任せとなる。料理のみは620円、ドリンク付きは1020円 ※お酒の画像はイメージ。店舗でも取り扱いなし(以下同)

 

この日の「よさこいセット」は鶏ササミのフリット、ハチビキという魚の刺身、ブルーチーズとレーズンバターのブルスケッタ(上写真)。冷・温に和・洋という組み合わせが秀逸で、これだけでも料理のクオリティの高さがよくわかる。

 

その後もいくつかのつまみをオーダー。旬の素材を使ったものや、“麺バル”ならではのメニューが我々を楽しませてくれた。バラエティに富んだ珠玉のメニューを以下で紹介していこう。

↑「チューリップの唐揚げ 2本」320円。鶏の手羽元を開いた唐揚げを、醤油、みりん、酒、ニンニクなどで甘めに味付け。ゴマが香ばしいアクセントに

 

↑「さんまの燻製 秋ナス添え」500円。ナスの煮浸しに、ほんのり甘じょっぱく味付けしたサンマの燻製をオン。脂がのったサンマと柔らかいナスのメリハリがたまらない

 

↑「自家製ベーコンのグリル サラダ仕立て」880円。ドレッシングは肉と野菜を引き立てるため、白ワインビネガーとオリーブオイルでシンプルに。ベーコンはサクラのチップでスモーク

 

↑「チャーシューとナスのトマトソースPIZZA」920円。ラーメンで使う肩ロースのチャーシューを、生ハムに見立てて仕上げた同店ならではのピッツァ。モチッとした生地とジューシーな具材が調和する

 

ラーメンはラーメン職人の店長・猿渡真吾さん、つまみはイタリアン出身の料理長・早川 徹さんが担当。それぞれの作り手が自分の得意分野に集中して調理していて、ラーメン、つまみとも高いレベルを保っているのが魅力だ。

 

「ラーメンは言わずもがな。しかも、つまみもこれだけウマいってのが本当にスゴい! このレベルを両立している店は、東京にもありません。しかも東京ほど家賃が高くないから価格も良心的だし。近所の人がうらやましいな~」(田中さん)

 

いよいよ麺へ! まずはつまみにもなる汁なし麺から堪能

ひと通り酒の肴をつまんでいると、本連載に便乗して飲みに来るのが恒例となったGetNaviプロデューサー・松井謙介が合流。座敷に席を移し、いよいよラーメンとのご対面だ。ちなみに「麺バルHACHIKIN」は麺類も豊富で、その数7種類(+限定麺がある日も)。悩みながらも、まずはつまみにもなる汁なし麺「鶏油(ちーゆ)Soba」から注文した。

↑「鶏油(ちーゆ)Soba」920円。かつて、蔦のほか2018年と2019年の3~5月にJALの国際線で提供されていた幻の逸品の系譜を継ぐ一杯だ。肉は低温調理した鶏モモチャーシューがのる

 

こちらは「Japanese Soba Noodles 蔦」の代表的なラーメン「醤油Soba」などに使われている細麺を使用。この風味や食感を最大限に楽しんでもらうため、鶏油とタレでシンプルに仕上げている。添えられているのはトリュフオイルが香るスープで、そのまま味わうだけではなく、つけ麺にしたり、丼に入れてラーメン風にしたりと多彩な楽しみ方ができる。

 

「蔦といえば多様な食材を使う斬新な味わいのスープが注目されていますが、麺のおいしさもズバ抜けているんです。このメニューは、その麺を味わうのにうってつけ。しなやかなのどごしを堪能してください。また、スープが付いているのもいいですよね。いろいろな食べ方をすることで、麺とタレとスープを自分の好きなバランスで味わえます」(田中さん)

↑田中さんがこれを味わうのは、祐貴店主の試作に付き合ったとき以来。ということで、改めて女将さんの由美子さんがオススメの食べ方を解説

 

続いて頂いた「レッチリ」は、祐貴店主がハンバーガーをイメージして生み出した意欲作。醤油ダレに辛味ダレを合わせ、キャベツでフレッシュなアクセントを、トマトで酸味をプラスしている。

↑「レッチリ」920円。こちらも、かつて「Japanese Soba Noodles 蔦」に存在した幻のメニューである。ファン垂涎の傑作が味わえるのも「麺バルHACHIKIN」の魅力だ

 

↑「レッチリ」専用の「特製ごはん」100円。炙ったチーズがのっており、残ったスープと混ぜてリゾット風に食べるのがオススメ

 

「レッチリは、祐貴店主の修業時代に、お遊び的に試作したのをよく食べさせてもらってましたが、それとはまったく別物なくらい進化してますね。こういう、ちょっとジャンクなものまで作ってしまう面白さも祐貴店主の魅力のひとつ。一気にズバズバすすって食べると最高にウマい! しかも、多彩な食材で味に奥行きを持たせてるのが一口ごとに感じられて、やっぱりタダモノじゃないなとビビります(笑)」(田中さん)

 

同店の顔「塩Soba」と、田中さんが「気になっていた」と語る「味噌Soba」が登場

次は「麺バルHACHIKIN」の“顔”である「塩Soba」。ベースとなる素材は、女将さんの地元・高知の大川村から仕入れるブランド鶏「はちきん地鶏」。ごくわずかに香味野菜で味を調えているが、ほぼ100%鶏によるスープだ。

↑「塩Soba」920円。細麺で、鶏のスープに高知の完全天日塩「海一粒」によるタレを合わせている。チャーシューは、豚の肩ロースとモモ肉の2種類

 

「鶏100%の清湯(チンタン)ラーメンって、以前と比べてかなり増えましたが、この『塩Soba』は鶏のうまみだけでなく香りやタレの感じも印象的。どこの店とも違う、蔦・大西祐貴の味というのがはっきりと感じ取れますね。一口でその人の味と思わせる料理人って、そうそういません」(田中さん)

 

田中さんが特に気になっていたラーメンのひとつが「味噌Soba」だ。というのも、以前祐貴店主から、「うちの味噌ラーメンは実家の味噌汁に使っている味噌が決め手」と聞いていたから。実家とはつまり大西家であり、実家の味噌汁とはすなわち由美子さんの味噌汁。その母の味を息子が形を変えて表現した“アンサーラーメン”がこの「味噌Soba」なのだ。

↑「味噌Soba」920円。麺は専用の中細を使用。味のベースは3タイプを掛け合わせたトリプルスープと秘伝の味噌ダレだ。赤い具材は酸味を演出するトマトで、途中で混ぜると効果的

 

そのトリプルスープは、「はちきん地鶏」のスープ、魚と香味野菜を炒めて白ワインや香辛料で炊くフュメ・ド・ポワソンの技法を駆使した鮮魚スープ、そしてウルメ節や真昆布などの乾物からなる濃密な魚介スープを合わせたもの。これに大西家の伝統の味噌によるタレをブレンドしている。なお、女将さんによると、この味噌は徳島産の麦味噌で、地元ではごく普通に売っているとか。女将さんも自身の母から味噌汁のレシピを受け継ぎ、自然にこの味噌を使うようになったとのこと。

 

「これこれ、この味噌の感じ!  蔦は一時期、『味噌の陣』という名で曜日限定の営業をしていたんですが、あのテイストがしっかり出てますね。その時にはなかったトマトがアクセントとしてのっていたり、HACHIKINの『味噌Soba』としてブラッシュアップされてますね。あと、かすかに感じる山椒のピリっとした余韻も絶妙」(田中さん)

 

「HACHIKIN」は、多彩な麺のメニューと女将さんの人柄が作る雰囲気が魅力

そして最後に注文したのは醤油ラーメン「醤油Soba」だ。味噌ラーメンと同様のトリプルスープに醤油ダレをブレンド。そこに細麺が泳ぐ。

↑「醤油Soba」920円

 

「タレの奥底に潜んだ、ハマグリや牛肉、海老といった様々な素材のうまみと、トリプルスープの絶妙なアンサンブルが見事です。塩、味噌、醤油に汁なし麺やつけ麺と、麺のメニューがたくさんあるのもHACHIKINの魅力。何人かで訪れて、お酒とおつまみで楽しんだあとに、数種の麺をみんなで食べ比べるのもいいですね」(田中さん)

↑鵠沼の地に駆けつけたGetNaviのプロデューサー・松井謙介と仲良く麺をシェア

 

このほか、基本的に猿渡店長が祐貴さんのレシピを忠実に守るが、猿渡店長オリジナルメニューも提供する。取材時には品切れで、残念ながら今回は紹介できなかった「ごぼポタつけSOBA」(920円)がそれ。猿渡店長が独自に開発し、蔦の祐貴店主も太鼓判を押したメニューだ。これらの限定麺は今後もより進化させていくというが、こうした変化が楽しめるのも「麺バルHACHIKIN」の魅力なのだ。

↑由美子女将との2ショット

 

「つまみもラーメンも圧倒的ですが、お店のあたたかい雰囲気に欠かせないのがやっぱり女将さんの明るさ。この日も地元の常連さんがひっきりなしに訪れていましたが、女将さんの気さくな人柄に惹かれている人も多いでしょう」(田中さん)

 

女将さんは「私はラーメンは作れないんです。でも、息子と優秀なスタッフのおかげで」と謙遜するが、とんでもない。世界一のラーメン職人を食育したのは、まぎれもなくこの母の手料理と広大無辺の愛なのだ。料理も酒も居心地も抜群で、駅からも近い「麺バルHACHIKIN」。ラ飲みの桃源郷として覚えておこう。

 

撮影/中田 悟

 

【SHOP DATA】

麺バルHACHIKIN

住所:神奈川県藤沢市鵠沼桜が岡3-5-7

アクセス:小田急江ノ島線「本鵠沼駅」東口徒歩1分

営業時間:11:30~14:00(L.O.)、18:00〜22:00(L.O.)
定休日:水、毎月第2木

 

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