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2023/4/17 18:00

ニッカのレガシーとチャレンジが調和。グレーンウイスキーが躍動する即完売必至の第3弾

2023年は日本のウイスキー生誕100周年で非常に盛り上がっていますが、翌2024年も実はアニバーサリーイヤーです。その理由は“日本のウイスキーの父”と呼ばれ、朝の連続テレビ小説『マッサン』の主人公のモデルともなった竹鶴政孝氏が創業した「ニッカウヰスキー」が90周年を迎えるから。

 

同社はそれに先駆けて2021年より毎年特別なウイスキーを限定発売してきましたが、先日2023年版をお披露目しました。この限定モデルの魅力を、開発者へのインタビューやテイスティングを通じてレポートします。

↑3月28日に発売された「ニッカ ザ・グレーン」。1万3200円(税込)で、限定2万本(その内1万本は海外)です

 

グレーンウイスキーとは?

今回の「ニッカ ザ・グレーン」は、90周年に向けた企画「NIKKA DISCOVERYシリーズ」の第3弾。GetNavi webでは第1弾2弾も紹介しているので、合わせて一読ください。

 

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↑第1弾は原材料の違い、第2弾は酵母や醗酵の違いが生み出す個性に着目したシングルモルト(単一の蒸溜所で生まれるモルト)ウイスキーでした(アサヒビールの資料より)

 

そして今回の第3弾も、きわめて個性的。これまでは北海道・余市、仙台・宮城峡それぞれのシングルモルトでしたが、今回はグレーンウイスキーの1本勝負であり、しかも初採用の原酒を使うなど実にチャレンジングです。

 

詳細に迫る前に、まずはグレーンウイスキーについてざっくり解説しましょう。モルトウイスキーが大麦麦芽(モルト)を使いポットスチル(単式蒸溜機)で造るのに対し、グレーンウイスキーはコーン、ライ麦、小麦などの穀類(グレーン)を主原料とし、連続式蒸溜機で蒸溜。ちなみに、モルトを使って連続蒸溜した原酒もグレーンウイスキーに分類され、その代表作が「ニッカ カフェモルト」です。

↑「ニッカウヰスキー」の名作グレーンといえば、世界でも稀少な「カフェ式連続式蒸溜機」を使った「ニッカ カフェグレーン」(左)と「ニッカ カフェモルト」(右)

 

ウイスキーの味わいは、蒸溜する回数によって決まります。単発蒸溜されたモルトウイスキーは、原材料の風味が残りやすく重厚な味わいに、一方繰り返し蒸溜するグレーンウイスキーは、クリアでライトな酒質に仕上がるのが一般的。この両方を調和させたブレンデッドウイスキーでは、個性と飲みやすさのバランスをとるためにグレーンウイスキーが欠かせない存在となっているのです。

 

ただし、「グレーンがライト」というのはあくまで一般論。蒸溜機や製法、熟成度合いなどによって味わい深く仕上がっているグレーンウイスキーも多くあります。例えば、前述「カフェ式連続式蒸溜機」は原材料の風味が残りやすい原酒を造れる名器とされています。

 

ちなみに、コーンを主原料とする米国のバーボンウイスキーもグレーンウイスキーに分類されますが、バーボンは「コーンが51%以上含まれ新樽を使う」という決まりがあるため、甘くどっしり個性的な味わいになるのだと筆者は考えています。

 

「ニッカ ザ・グレーン」は7種のグレーン原酒をブレンド

「ニッカ ザ・グレーン」には、国際品評会の授賞歴もある「ニッカ カフェグレーン」と「ニッカ カフェモルト」に使われている宮城峡蒸溜所のグレーンを含む、計7種の原酒がブレンドされています。開発の中心メンバーである、ニッカウヰスキーの綿貫政志さんに話を聞きました。

↑主席ブレンダーの綿貫政志さん。「NIKKA DISCOVERYシリーズ」では第1弾からプロジェクトに参加し、個性あふれるウイスキーを生み出してきました

 

綿貫さんが今回グレーンウイスキーにフォーカスした最大の理由は、「カフェ式連続式蒸溜機」が2023年に節目を迎えるからだと言います。

 

「『カフェ式連続式蒸溜機』の導入は、『本場スコットランドに負けないブレンデッドウイスキーを造りたい』という創業者(竹鶴政孝氏)の夢であり、1963年に当時の西宮工場で実現されました。その後1999年に宮城峡蒸溜所へ移設していまに至るのですが、2023年で導入から60周年を迎えるんですね。当社のレガシーを活用することはDISCOVERYシリーズにもうってつけだと思い、特別なグレーンウイスキーの開発を決めました」(綿貫さん)

 

基軸となる原酒は宮城峡蒸溜所のカフェグレーン。加えて同蒸溜所のカフェモルトと、西宮工場時代のカフェグレーンにカフェモルト、さらに今今回初採用となる九州産の3種のグレーンの、計7種の原種が「ニッカ ザ・グレーン」を構成しています。

↑ベースのグレーンをイメージとして一部テイスティング。右側の4、5、6は実際のブレンドに用いられている九州産の原酒です

 

「西宮工場は現在飲食店向けのチューハイを造っていますが、ここは大都市ですから当時から貯蔵庫を確保できるほどの広さがなく、グレーンの熟成は栃木工場で行っていました。今回使用した原酒は1988年ものであり、35年熟成ですね。非常に希少ですが、熟成感を与えるために使っています」(綿貫さん)

 

そして気になるのは、九州産のグレーン原酒。生産地のひとつは福岡・門司(もじ)工場、もうひとつは鹿児島・姶良(あいら)のさつま司蒸溜蔵となり、ここでは普段、焼酎の原酒が蒸溜されています。

↑どちらにも、本格焼酎(乙類、または単式蒸溜焼酎)用のステンレス製単式蒸溜機が設置されています(一般的に、連続式蒸溜機で造ると甲類焼酎(連続式蒸溜焼酎)となる。ウイスキーの単式蒸溜機は銅製が多い)(アサヒビールの資料より)

 

「門司では発芽させていない大麦を主体としたグレーン原酒が1種。さつま司では同じく大麦主体のグレーンと、コーン・ライ麦原酒の計2種を蒸溜して『ニッカ ザ・グレーン』にブレンドしました。焼酎の単式蒸溜機でウイスキー原酒を造ることは、きわめて実験的でニッカにとってもチャレンジングなことでした」(綿貫さん)

↑「ニッカ ザ・グレーン」に用いられた3種の九州産グレーン原酒が、写真のミニボトル3本

 

なお、本格麦焼酎と大麦グレーンウイスキーは似ているようで違いも様々。例えば、大麦を麹で醗酵させ初溜のみで造るのが前者。麦芽の酵素で醗酵させ、複数回蒸溜でアルコール度数を高めるのが後者です。

 

「使った大麦に関しては、門司とさつま司は同一です。ただ、蒸溜機はまったく同じものではありませんし、設備の違いで製法も異なります。例えば門司では初溜が減圧蒸溜(※)で、再溜(2回目の蒸溜のこと)が常圧蒸溜。さつま司はどちらも常圧蒸溜で、蒸溜機のサイズもさつま司のほうが小型です」(綿貫さん)

 

※機内の圧力を下げて低温沸騰させる「減圧蒸溜」は、基本的には焼酎で用いられる手法で、雑味がクリアですっきりとした酒質になりやすい。一方、常圧蒸溜は伝統製法で、濃厚でどっしりした風味になりやすい。

 

 

甘香ばしく爽やか……多彩なグレーンが次々と主張する

いよいよテイスティング。まずは完成品の「ニッカ ザ・グレーン」から。伸びやかな甘みとロースト感のある香ばしさが立っていて、香りには焼きりんごのような甘い爽やかさも。

↑余韻にはシナモン的なスパイス感や、ビターなニュアンスも。味のグラデーションのなかで、多彩な要素が顔を出します

 

「華やかでコク豊かなカフェグレーンとカフェモルトの甘さに始まり、麦の香ばしさやコーンの甘み、ライ麦由来の爽やかさを感じた後にすっきりと終わる。次々に主張する香りや味わいがどの原酒由来なのか、想像しながらグラスを傾けていただきたいですね」(綿貫さん)

 

特に個性的なのは、まろやかに響くスイートな香ばしさ。これは九州の焼酎蔵から生み出されるグレーンによるものでしょうか?

 

「そうですね、明確なキャラクターを生み出しているのは九州産。特に、さつま司のコーン・ライ麦原酒は名バイプレーヤーだと思います。やっぱり酒質がバーボンに近く、甘いバニラ香をもっているんですね。それでいて爽やかなニュアンスもあって、コクや膨らみといった味わいにおいて、素晴らしい働きをしてくれました」(綿貫さん)

↑さつま司のコーン・ライ麦原酒を単独で試飲。明るいムードメーカーといったところでしょうか。無理やり侍ジャパンで例えるなら、ラーズ・ヌートバー選手のよう

 

九州産原酒は今後どうなる? 2024年の記念商品は?

今回使われた九州産グレーン原酒は初の採用であり、しかも存在自体を明かすのも初めてとのこと。そもそもいつから造りはじめたのでしょうか。背景や狙いを聞くと、実は「NIKKA DISCOVERYシリーズ」用ではなかったそうです。

 

「九州でグレーン原酒を造りはじめたのは2017年で、最初に門司工場で試験製造を開始しました。今回のブレンドにも2017年のファーストバッチを使っています。『NIKKA DISCOVERYシリーズ』の企画前ですね。造りはじめた理由は、私たちの探求心ももちろんありますが、それ以上にお客様への新しい価値提供に繋がるという期待が大きいです。原酒の多様性とともに、ブレンデッドウイスキーの幅を広げたい。それが目的です」(綿貫さん)

 

とはいえ、実験的な要素も大きかったと綿貫さんは言います。今回採用に至ったのは、想像以上に良質なグレーン原酒になったから。そのため、蒸溜し3年熟成させたあとのテイスティングで納得するまでは、マーケティング側にも原酒の存在を話していなかったそうです。

↑一番若いのが、さつま司で2019年に蒸溜されたコーン・ライ麦原酒(右端)。色が最も濃い理由は、バーボンを踏襲し、アメリカンホワイトオークのバレルサイズの新樽で貯蔵しているため

 

「『ニッカ ザ・グレーン』の発想は『カフェ式連続式蒸溜機』の節目というところから始まりましたが、グレーンがテーマなら九州産の原酒も使えるな、と。そして、今後はこれを機に九州産グレーンの生産量も増やし、ゆくゆくは挑戦的で新しいウイスキーの開発もしていきたいと思っています」(綿貫さん)

 

ジャパニーズウイスキーは、“日本のウイスキーの父”竹鶴政孝氏が、スコットランドへのウイスキー留学の知見をもとにして生まれたという経緯があり、つまりスコッチウイスキーのDNAをもっています。竹鶴氏が設立したニッカウヰスキーはその直系であり、アメリカンタイプのウイスキー原酒づくりは勉強になったと綿貫さん。

 

「モルトウイスキーには伝統的な美学がありますが、原料はモルトのみ。一方でグレーンウイスキーは様々な原料由来の香味を得られるので、そういう点は面白いと思います。ブレンダーの腕の見せ所でもありますし、ぜひ今後もご期待ください」(綿貫さん)

↑「このチャレンジをどんどん生かしていきたいです」と綿貫さん。今回採用された3原酒以外にも、様々な個性を持つグレーン原酒造りの挑戦に積極的に取り組んでいると教えてくれました

 

今後となると期待してしまうのが、90周年を迎える2024年。そしてさらなる先には2034年のニッカウヰスキー100周年があります。今回は90周年に向けて2021年から「NIKKA DISCOVERYシリーズ」を発売してきましたが、90周年はもちろん、100周年のときはより盛大なプロジェクトを企画するのでは?

 

「実はまだ決まっていません。とはいえ2024年には『NIKKA DISCOVERYシリーズ』とは別ですが、お客様にお喜びいただけるような90周年商品を造りたいです。その次はまだ先の話ですが100周年ですよね。いまのところまったく見当もつきませんが、さらに記念すべきアニバーサリーに向けてニッカの技術を磨いていきたいと思います」(綿貫さん)

↑パッケージは、ニッカエンブレム由来の市松模様を4段でデザイン。落ち着いた彩りのグラデーションを施すことで、4つの工場と蒸溜所で造られた多様な原酒を調和させていることを表現

 

「ニッカ ザ・グレーン」は今回も国内1万本限定と、激レア。限定ウイスキーなどに関心の高いウイスキーファンに向けて、飲食店を中心とした業務用での展開を予定しているとのことなので、味わうならモルトバーに行くのが正解といえるでしょう。