デジタル
アプリ
2018/6/14 7:00

【西田宗千佳連載】似て非なる「3DoF」と「6DoF」、VRらしいアプリの開拓はこれから

「週刊GetNavi」Vol.67-4

現状、スタンドアローンVR機器のビジネスにおいて、「Oculus Go」は、ライバルに一歩先んじているのは間違いない。理由は、「低価格」を実現し、そのうえで「この価格で実現できる新しい体験をすばやく提供する」ことに知恵を絞った作りになっているからだ。「ごろ寝VRシアター」で映像を見たり、VR空間で友人とチャットをしたり、ちょっとしたゲームを楽しんだりするのであれば、Oculus Goは十二分な性能を備えている。

↑Oculus Go

 

だが、低価格を実現し、映像体験に軸を絞ったがゆえに、Oculus Goは、スマホVRからあまり大きくジャンプしなかった。それに対し、レノボとGoogleがタッグを組んで開発した「Mirage Solo」は、スマートフォン用のVR技術を使いつつも、より本格的なVR体験を目指した技術が搭載されている。

↑「Mirage Solo」

 

違いは「ポジショントラッキング」にある。

 

Oculus GoもMirage Soloも、そして、ほとんどのスマホ用VRも、自分を中心に「向いた方向の映像が見える」点に変わりはない。頭を中心に360度、どちらを向いても位置は把握できる。これを「3 Degree of Freedam(3DoF)」と呼ぶ。これだけでも、かなりリアルなことは間違いない。

 

だが、3DoFでは「頭やからだの位置」は把握していない。部屋の中を自由に歩き回るには、頭の位置を正確に把握すること、すなわち「ポジショントラッキング」が必要になる。3DoFにポジショントラッキングを追加した状態を「6 Degree of Freedom(6DoF)」と呼ぶ。PC用のハイエンドVRやPlayStation VRは、この6DoFに対応している。そして、Mirage Goも、6DoFに対応する「WorldSence」という技術が使われている。

 

といっても、Mirage Soloの場合、HMDをつけていると外の様子は見えない。だから部屋を歩き回ると、現実問題として危険だ。そのため、自分を中心に半径75cmの距離しか移動できないようになっている。

 

「そんな狭いんじゃ意味がない」

 

そう思われそうだ。確かに、映像を見るだけなら、こんなに移動範囲の狭い6DoFはあまり意味がない。

 

しかし、冷静に考えてみてほしい。座ったまま「手前にあるものをのぞき込む」動作をする時、頭はどう動くだろうか? 頭が前に動くはずだ。椅子に座って上半身しか動かないような場合であっても、人間の自然な動きとしては、「頭の位置に沿った視界」が再現されるほうが望ましい。すなわち、より自然でリアルな体験を実現するなら、6DoFは「あるほうが望ましい」のである。

 

いまはまだ、Mirage Solo向けのアプリが少ない。しかし、今後6DoF対応のアプリが増えていくのであれば、「自然なVR体験」としては、Oculus GoよりもMirage Soloのほうが有利になる。PC用のハイエンドVRの代わりに使うなら、Mirage Soloのほうが機能差が少なく、アプリ開発は容易である。そのため、個人向けとしてはOculus Goが有利だが、企業で専用アプリケーションを作ったり、アトラクション用に大量導入したりするならば、Mirage Soloのほうが向いているのでは……という分析もある。

 

現在VR用HMDを開発している企業の間では、6DoF対応のものを作るのが主流だ。それがVRとしてはより望ましいからである。今年後半から来年にかけて出てくる機器では、Mirage Solo以外にも「スタンドアローン型で6DoF」のものが増えてくる。2年もすれば、6DoF搭載型が主流になっているだろう。

 

だが、Oculusもそれは十分わかっている。それでもOculus Goが3DoFであるのは、「完璧ではないが、それでも体験に足る製品を、とにかく低価格で出して広げること」が重要だ、と判断したからであり、そこに向けて商品を磨いたからである。

 

Mirage Soloはここからの成長によって、大きく化ける可能性がある。その過程を楽しむのもまた魅力だと思う。一方で、価格はOculus Goより高い。両者を分けたのは、「いまを採る」か「明日を採るか」なのだ。

 

●次回Vol.68-1は「ゲットナビ」8月号(6月23日発売)に掲載予定です。

 

週刊GetNavi、バックナンバーはこちら