デジタル
2016/6/11 11:36

「叡王戦」参加を決意した羽生善治名人。人工知能は人間を凌駕するのか

2029年の近未来、人工知能「スカイネット」が暴走し、機械軍を率いて人類へ反乱を起こす――人類は果たして絶滅の危機から脱することができるのか……?

 

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これは、1984年に公開されたSF映画『ターミネーター』における設定です。その後、ターミネーターシリーズは大ヒットとなり、現在までに5本の映画とテレビドラマまで公開されました。人工知能「スカイネット」は自己存続が最大の目的であり、そのため自らを破壊しようとする人類の殲滅を企てるというものです。

 

このようにSF映画の世界では人工知能は人類を凌駕する存在として描かれることが多かったのですが、その未来を暗示させるような出来事がついに現実世界でも起きたのです。

 

人々を驚かせた「Alpha Go」の勝利。しかし、まだ人間の脳には遠く及ばない

2016年1月、英国のベンチャー企業Deep Mind社 の開発した「Alpha Go」が囲碁欧州チャンピオンに勝利し、そして2016年3月には囲碁トッププロであるイ・セドル9段と5回対戦し、なんと4勝を上げたとニュースになりました。コンピューターはまだまだ囲碁の世界では通用しないと言われていたのにも関わらず勝利をしたのです。

 

このニュースが報道されると、スマートフォンが発売されたときのように「テクノロジーの進化ってすごい!」という反応があった反面、多くの人は困惑し、人工知能に支配される映画「ターミネーター」のような暗い世界を想像したことでしょう。

 

しかし、いまの人工知能のテクノロジーは、まだまだ私たちの脳には遠く及びません。今の技術では人工知能は、ひとつのことに特化した学習をすることはできますが、まだ様々なことを関連付けて学習することはできないのです。

 

人工知能との対局を決意した羽生善治名人

たとえば、将棋の羽生善治名人は、将棋だけではなくチェスでも国内トップクラスの実力者です。ひとつの分野で突出した人工知能が、応用的な思考でほかの分野でも優れた性能を同時に発揮することができるでしょうか。今後、テクノロジーが進化した40~50年先にはわれわれの脳を凌駕する人工知能が開発されるかもしれませんが、まだまだ私たちの脳は機械には負けないシステムがあるのです。

 

そして先日、羽生名人は最強のコンピューターと対戦するプロ棋士を決める「叡王戦」への出場を決意しました。朝日新聞のインタビュー記事では「囲碁のAIは汎用性があるが、将棋の場合は未知数だと思う。ただ、状況がガラッと変わるかもしれない。関心を持ってやっていきたい」と語り、勝てる自信はあるかと問われると、「研究も分析もしたことがないので、何も言えない」と答えました。

 

羽生名人が叡王戦を勝ち抜き、コンピューターとの一戦が実現したとき、私たちは人工知能の能力のほどを、改めて感じることとなるはずです。

 

人工知能に対する議論は活発におこなう必要がある

一方で、私たちの生物的な限界と機械の限界には大きく差があるのは事実です。私たちの脳を構成する神経細胞は毎秒200回ほどで活動していますが、コンピューターの頭脳であるCPUは、スマホのCPUでさえ毎秒1,000,000,000(1ギガ)回以上で動いています。また、神経細胞どうしは毎秒100メートルで信号をやり取りしていますが、コンピューターは光速で伝わります。

 

その機械の圧倒的なポテンシャルを考えると、いずれはわれわれの脳を凌駕することは間違いありません。たとえ、人類がどんなに早く走れたとしても、フルマラソン(42.195km)を2時間以内で走ることはできませんが、自動車は時速25km以上で走行することはなんてことはありません。

 

だからといって、われわれはテクノロジーに対して恐れることはありません。「Alpha GO」のような人工知能は、人間の敵ではなく、わたしたち自身が作り上げた「創造物」です。人工知能が発展すれば、瞬時に母国語を翻訳し世界中の人とコミュニケーションをとったり、ベテラン医師でも不可能だった診断をやってのけ治療に貢献したり、私たちの日常生活に関連するたくさんの分野で、人類をより幸せにしてくれることでしょう。

 

しかし、今の段階から人工知能に対する様々な議論をおこなうことをしなければ、私たちが手に入れてしまった莫大なエネルギーシステム「原子力」をコントロールできない世界と同じようなことが起こるかもしれません。

 

【著者プロフィール】

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菅原 道仁

All About「家庭の医学」ガイド。現役脳神経外科医。脳血管障害を中心に、救急医療からリハビリテーション、予防医療までの現場経験を元に、くも膜下出血・脳梗塞・認知症などに代表される脳・神経の病気について、役立つ情報をお届けしています。2015年6月に菅原脳神経外科クリニックを開院。

 

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