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2019/8/22 20:30

ゼロからわかる「信用スコア」入門(中国編)ーー中国は座席を独り占めすると減点!?

「信用スコア」という言葉を聞いたことはあるでしょうか? 「信用スコア」とは、融資履歴や購買履歴などの個人のデータをクラウド上で収集・分析し、その人が「信用できるかどうか」を数値化したものです。以前から個人情報がローンやクレジットカード審査の判断材料に使われてきましたが、昨今の「信用スコア」の活用先は融資だけにとどまりません。例えば、スコアの高い人は、ホテル宿泊時のデポジットが不要になったり、レンタルサービスを保証金なしで利用できたりするのです。

 

こうした「信用スコア」がすでに浸透し始めているのが中国です。点数が高いと家電やスマホなどを保証金なしでレンタルできるほか、空港で専用の出国レーンを使用できたり、他国のビザが取得しやすくなったりといった特典があります。また高スコアのユーザーのみが参加できる婚活サイトなどもあり、進学や就職、結婚にも影響を及ぼすシステムとなっています。

 

日本での導入もすでに始まっており、ドコモやヤフーなどが続々とサービスを発表しています。なかにはAIがデータを分析し信用度を測るサービスも存在します。様々な情報を収集・分析となれば、まさにAIの得意分野。日本でも「信用スコア」が浸透し、AIに格付けされる日がやってくるかもしれません。

 

【本編に入る前に、信用スコアの基礎意識】

Q1:「信用スコア」の計算方法は?

A:学歴やローンの支払い状況、SNSでの発言など、個人のデータからスコアを算出

中国の場合、学歴や職歴、株式や住宅などの資産情報だけでなく、ネットショッピングの購買履歴やSNSでの発言などから算出されます。さらに、犯罪歴、裁判記録、賠償金の支払い状況などが使用されることもあります。

Q2:導入するメリットは?

A:保証金なしで家やクルマが借りられる

点数が高ければ、与信審査が簡略化され、保証金なしでクルマや家が借りられます。そういった特典があるため、料金の未払いが減る、返却がきちんと行われるなど、サービスの利用状況の改善も期待できます。

Q3日本での導入は、まだ先?

A:ドコモ、ヤフーなどが続々と参画

すでに日本でも導入が始まっており、ドコモ、ヤフー、LINEなどがサービスを発表しています。個人向けの融資以外にも、飲食店の予約にスコアを活用したり、信用度の高いユーザーにネットショッピングでの「あと払い」機能を提供したりしているサービスもあります。

あらゆる個人情報から信用度を計る「信用スコア」。近年日本にも導入の動きが見られますが、はたしてその仕組み、メリットとは?

すでに「信用スコア」が普及を見せている中国。代表的サービス「芝麻信用」の例を紹介しながら、導入の背景やメリット、なぜ広まったのか、人々の生活はどう変化したのかを解説していきます。

【解説してくれる人】

中国アジアITライター

山谷剛史さん

中国やアジア各国のITやトレンドを専門とするライター。主に中国のIT業界や製品のレビュー記事を執筆。

 

ユーザー増のカギはスマホ決済サービスとの連携

中国ではスマホ決済サービスが広く普及しています。お得なキャンペーンや電子マネーで行う投資信託サービスを提供したことで、爆発的にユーザーが増えました。偽札が横行するなど紙幣に対する不信感も電子マネーの浸透を後押ししました。

 

実は「信用スコア」普及の理由も、このスマホ決済にあるといいます。中国のIT事情に詳しい山谷剛史さんに解説してもらいました。

 

「代表的なスコアリングサービスである『芝麻信用』は、同じアントフィナンシャルの『アリペイ』に組み込むことでユーザーを獲得しました。つまりアリペイユーザー=芝麻信用ユーザーになります」

 

「また当時流行していたシェアサイクル(自転車)サービスに信用スコアを活用したことも、普及につながりました。高スコアのユーザーは、本来払うべき保証金を払わずにレンタルできます。他にもスマホ用モバイルバッテリーや洋服のレンタルサービス、スマホ買取(スコアが高いと買取商品到着前に買取金額が先に振り込まれる)サービスでスコアが活用されています」

 

芝麻信用に続いて新サービスも登場

「芝麻信用」の後を追う新サービスも登場し始めています。

 

「1月にテンセントが『微信支付分』をスタートし、すでに一部のシェアバッテリーサービスで適用されています。また家電量販店が独自の信用スコアサービスを持つといった動きもあります」

 

スコア導入は企業側にもメリットがあります。支払いや返却をきちんと行うことが評価されるため、ユーザーはサービスを正しく利用します。よって企業は未払いや未返却にかかるコストを削減できるのです。

 

中国の「信用スコア」の例1【アリババグループ 芝麻信用】

 

個人向け融資の可否から婚活サイトでの信用証明まで活用

「芝麻信用」は、アリババ系列でスマホ決済サービス「Alipay(アリペイ)」を運営するアントフィナンシャルの子会社が提供するサービス。アリペイの利用状況などのグループ内のデータや、提携するレンタルサービスの利用データなどを基に350~950点でスコアリングされます。スコアは個人向け融資の可否や上限額の設定、デポジット免除、宿泊予約サイトや婚活サイトでの信用の証明などに活用されます。

【どんなことをすると信用度は上がる?下がる?】

①SNS上の良好な人間関係が高評価に

SNS上でつながりのあるアカウントや、過去の発言、投稿内容が評価の対象となるようです。他にも、公共料金や税金などを滞りなくきちんと支払っていると高評価につながります。

②料金未払いやレンタル品の未返却は減点対象

料金未払いや税金の滞納、交通違反などの犯罪歴があれば当然評価は下がります。また、ゲーム内での違反行為(チートなど)が減点対象になることも。

 

【スコアを構成する5項目】

【各項目の説明】

●身分特質:年齢、学歴、職歴などの個人情報のこと。実名認証やメールアドレスの登録、運転免許証の画像のアップをするとスコアに加点されます

●履行能力:口座残高、余額宝(アントフィナンシャルが提供する資産運用サービス)の残高、所有する株式、クルマ、住宅など資産情報のこと

●信用歴史:カードローンやアントフィナンシャルの借入サービスの返済履歴、公共料金の納付状況、ネットショッピングの購買履歴などを指します

●人脈関係:人脈や友人の信用レベル、社会的影響力を指します。またSNSでの友だちの数や質、発言履歴などの交流情報もスコアに影響します

●行為偏好:購入したモノ、サービスの利用状況(ゲームのプレイ時間など)、寄付の有無やその金額といった消費行動の傾向を指します

 

中国の「信用スコア」の例2【テンセント 微信支付分】

SNS上の人間関係も評価対象となり、友だちのスコアが影響することも

「微信支付分」は、メッセンジャーアプリ「WeChat」を提供する「テンセント」が今年1月に運用を開始したスコアリングサービス。「芝麻信用」と同様に、スマホ決済アプリ「WeChat Pay」に紐づきます。スコアリングに使われるのは、同サービスの決済データや、氏名などの基本情報。またWeChat内の人間関係も評価対象となり、友だち同士でスコアが互いに影響し合うようです。2019年中に中国国内全域で利用を目指しています。現在はシェアバッテリーサービスにスコアが適用されています。今後、「芝麻信用」のように利用が広がるか注目です。

↑「微信支付分」は「WeChat Pay」に組み込まれ、利用状況がスコアに反映されます。中国国内で広く利用されているスマホ決済サービスであるため、今後は「芝麻信用」のようにユーザーが急拡大していく可能性もあります

 

中国の「信用スコア」の例3:地方自治体による独自の取り組み

①江蘇省蘇州市:ネットでウソのクチコミを投稿すると減点

蘇州市では独自の信用システムが運用されています。ネットのショッピングサイトでウソのクチコミを投稿する、ホテル宿泊を連絡なしにキャンセルするなどの行為が見つかると、200ポイントの減点となります。

②北京市:座席を独り占めすると減点

北京市は乗車マナーに関する条例を制定することを決定。座席独占や動物の持ち込み(警察犬・盲導犬を除く)、楽器の演奏、車内飲食などが禁止に。これらの違反行為が信用スコアの減点対象となります。

中国の20年の「信用スコア」ヒストリー

最後に、中国ではこの20年間で信用スコアの取り組みが加速しました。その流れを簡単に整理。これを見ると2015年を機に一気に浸透していったことがわかります。また、次回は国内サービス編をお届け!

 

1999年:社会信用システム構築の動きが始まる

企業の信用度を明確にすることが市場発展につながるとして、信用システムの必要性が叫ばれます。

2003年:人民銀行信用調査管理局設立

信用貸付業の管理や、社会信用システムの構築の推進が目的。全国レベルでの整備が始まります。

2004年:中国人民銀行個人信用情報データベースが設立

個人の融資やレンタルサービスといった利用履歴の収集と、金融機関の融資審査への提供が目的。

2013年3月:征信業管理条例が施行

中国人民銀行が信用調査機関に対する監督管理の職責を負うこととなります。

2014年6月:「社会信用制度の構築に向けた計画概要」を発表

中国国家省が、2020年までに中国国内で「社会信用制度」を構築することを公表。

2015年1月:民間企業8社にサービス設立準備の許可が下りる

アリババグループ、テンセントを含む8社に信用スコアサービスの設立準備が許可されます。

2015年1月28日:アントフィナンシャルが「芝麻信用」の公開テストを開始

用途は個人向け融資のみ。従来の調査機関がカバーできなかった一般庶民たちが主なユーザー層となります。

2018年2月:個人信用調査許可証が「百行征信」に交付

新たに設立された個人信用情報機関「百行征信」に許可が下り、8社に代わって金融機関へ情報を提供。

2019年1月:テンセントが「微信支付分」を運用開始

「WeChat」を運営するテンセントが信用スコアサービス「微信支付分(WeChat Pay Points)」を運用開始。

 

文/友納一樹(ゴーズ)