デジタル
2020/2/3 20:10

「家で思う存分ギター弾けない」時代終了! BOSS「WAZA-AIR」はあなたをまたギタリストにしてくれます

2019年12月、師走の喧騒の中、ギターのハードケースを抱えて私は秋葉原の町を歩いていました。編集部より「BOSSからとても面白いギターアンプが発売されたから使ってみないか?」との連絡をもらい、その取材をさせていただくために、BOSS擁するローランドの東京オフィスへと向かっていたのです。

 

馴染みがない人に説明すると、ローランドはキーボードやシンセサイザーをはじめ、幅広く楽器や音響機材を扱っているメーカーで、ギターアンプの「ジャズコーラス」(JC)やBOSSブランドのエフェクターなどはギタリストにもとても馴染み深い機材です。

 

↑「JC」ことJC-120。日本のほぼ全てのギタリストがJCで音を鳴らしたことがあるのではないでしょうか

 

普段はロックバンド「the knowlus」(ザ・ノールス)でギターヴォーカルを務める私もBOSSのコンパクトエフェクター「ブルースドライバー」や「クロマチックチューナー」、「ジャズコーラス」などを長年愛用させてもらっています。

 

今回は、最新鋭のギターアンプということで、いちギタリストとしても取材をとても楽しみにしていたのです!

 

新感覚のギターアンプ「WAZA-AIR」

2019年12月14日にBOSSブランドの最新機種として発売されたのが、今回取材させていただいた「WAZA-AIR」です。何も聞かされずに差し出されたら、多くの方がヘッドホンだと思うのではないでしょうか。しかしこちらは「ワイヤレス・ヘッドフォン型パーソナルギターアンプシステム」…なんだかややこしいですが、つまり正真正銘のギターアンプなのです。

 

↑正真正銘ギターアンプ。税込価格で4万4000円前後と、ギターアンプとしても手頃な価格

 

エレクトリックギターを迫力ある音で弾くには、ギターアンプで大きな音を出す必要がある。そんな固定概念を根底から覆しにかかったのがWAZA-AIRなのです。

 

日本ではギタリストをはじめ、多くのプレイヤーは普段演奏する環境が限られているため、自宅でアンプを満足いく音量で鳴らすということは非現実的です。多くのギターアンプでもヘッドホンを接続して音を聴くことができます。しかし、ギターアンプは本来スピーカーからの音で聴くために設計されており、ヘッドホンで聴くと耳のすぐそばでガンガン鳴っている感じになりがち…というのがギターあるある。ほとんどの方が不満を抱きながら家で演奏しているのではないでしょうか。

 

WAZA-AIRはそんな不満を限りなく解決に導いてくれます。その最新鋭の技術とサウンド、そしてユーザーのニーズを極限まで追求した設計を皆さんに紹介していきましょう。

 

ソリッドなデザインに詰め込まれた最新鋭の技術

まず、初見の感想としては、少々レトロなイメージといったところでしょうか。本体は黒を基調にしたシックなデザインでとてもカッコいい。本体の重量は約320g、普通のヘッドホンと大差ないぐらいの軽さです。サイズもコンパクトで普段持ち歩くバッグやギターのギグバックのサイドポケットにスッと入る大きさになっています。本体は折りたたみも可能で、さらにコンパクトに持ち運ぶことも可能。

 

 

↑折りたたんでコンパクトに携帯できる

 

付属のトランスミッターもW87×H36×D22mmと手のひらにおさまるサイズです。本体のヘッドバンドは幅が広めにつくられているので、演奏の際に少々頭を動かしてもズレにくく、長時間使用してもストレスの少ない安定した装着感が得られます。

 

コンパクトで軽量ですが、持ち運びやライブ、レコーディングの現場などにも耐えられる堅牢な設計になっています。

 

↑トランスミッターのサイズ感は手のひらの半分ほど

 

本体右側にはボリューム調節のダイヤルと2つのボタンが付いていて、音色切り替え等の操作がワンタッチで行えます。

 

さらに、イヤーパッドはパッド部分がマグネット着脱式になっていて、パッドが劣化した場合にはこの部分だけを買い替えての使用も可能になるということです。

 

↑本体側のボタンとボリュームで簡単操作

 

↑マグネット着脱式のイヤーパッド

 

そして、本体側面には「技」のロゴが刻印されています。WAZAシリーズは、BOSSのエンジニアが数十年にわたり蓄積した専門知識と、最先端の革新的なテクノロジーを組み合わせて楽器の限界を拡げる最高峰のプロダクトです。「技 WAZA CRAFT」のコンパクトエフェクターは楽器店でもよく目にする機材の一つで、馴染みのあるギタリストも多いはずです。

 

最高の音質と脅威的なレスポンス

WAZA-AIRは、ギターの接続からオーディオの再生までケーブルを一切必要としない完全ワイヤレス設計です。使用前の準備は付属のトランスミッターをギター側のジャックに差す、これだけです。この小さなトランスミッターは振動感知システムを内蔵。ジャックに差したままギターを持ち上げると振動を感知してスイッチがオン、ギターをスタンドに立てたまましばらく振動が伝わらないと自動でスタンバイモードになり、バッテリーの消費を抑えてくれるという優れもの。ギターを持ち上げれば振動を感知して自動で復帰するので、気軽に演奏を再開できるというわけですね。ここにもプレイヤーのストレスを無くす工夫が凝らされています。

 

↑本体とトランスミッター。接続も簡単

 

実際に使用させてもらってまず驚いたのは、その密閉性の高さです。本体を装着して楽器の音を鳴らすと周りの音が一切聴こえなくなるのです。取材時に、説明してくれているメーカー担当者に質問する度、本体を耳から外さないと相手が何を話しているのか聴き取れなかったぐらいです(笑)演奏に没頭したい時はまさにうってつけのアンプでしょう。

 

その密閉性を実現している秘密の1つがイヤーパッドにあります。イヤーパッドが斜めに設計されています。より側頭部に密着するようにつくられているのです。こんな細かいところにまで工夫を凝らして設計されているんですね。

 

↑斜めに設計されたイヤーパッド

 

スピーカー部分にはカスタム設計の50㎜大口径ドライバーが搭載されており、BOSSの粋を集めたアンプだけあって、音質は言うまでもなく最高です。ギターの低音から高音までが美しく再現されています。

 

冒頭にふれたギターアンプにヘッドホンをつないだ際の「ガンガン鳴り」が、WAZA-AIRでは全くないということが第一の驚きでした。ヘッドホンでアンプの音を聴くということは、言わばアンプのスピーカーに常に耳をくっつけて聴いているのと同じことです。それではそもそも音作りも何もあったもんじゃないというのが本音なのですが、今までの自宅の環境ではやむを得ませんでした。

 

「WAZA-AIR」のヘッドホンの中には空間があるんです。まさにそこでアンプ・キャビネットを鳴らしているかのような音場がリアルに再現されています。これなら、部屋鳴りや空気感を考えた音作りが自宅でもできますね。

 

もう1つ、特筆すべき点は驚異的なまでのレスポンスの良さです。「WAZA-AIR」にはBOSSが独自に開発したワイヤレス技術が採用されており、従来のワイヤレスシステムにありがちなタイムラグが一切ありません。私が持参したギターで試奏させてもらった際にも、そのレスポンスの良さに驚かされました。

 

途中、指弾きでも試奏したのですが、指から弦に伝わる繊細なタッチの強弱がそのままスピーカーから聴こえてくるんです。ここまで忠実に再現されると、自分のタッチの粗さがバレバレでちょっと恥ずかしかったくらいです(笑)しかしこれは普通のヘッドホンで聴いていたのでは絶対に気づけない部分ですし、アンプを鳴らせない環境では非常に練習の難しかった部分でもあります。

 

この音質と空間、そしてレスポンスをぜひ皆さんにも体感してみてほしい!

 

↑そのサウンドに、思わず笑顔

 

 

まるでステージに立っているかのような臨場感を生む、専用アプリ「BOSS TONE STUDIO」

まだまだ語りたいWAZA-AIR! 製品の持つ「新しさ」は先述の通りですが、実は最大の特長はソフトウェアの部分。専用アプリ「BOSS TONE STUDIO」で、3種類の音場から演奏環境を選択できるというところです。

 

「SURROUND」「STATIC」「STAGE」の3種類の音場が用意されており、「SURROUND」ではアンプをスタジオで鳴らしているかのような部屋鳴りを再現し、常にプレイヤーの前方でアンプが鳴っているように聴こえます。

 

↑「TYPE」のスイッチで音場を切り替え

 

「STATIC」もアンプサウンドが前方から聞こえるように設定されているのですが、こちらは本体に内蔵されたジャイロセンサーがプレイヤーの頭の動きを感知して、頭の位置や角度によってアンプサウンドの聴こえる方向が変化していきます。本当にその部屋にアンプを置いて鳴らしているかのようです。

 

3つ目の「STAGE」ではステージに立った時のようにプレイヤーの後方からアンプサウンドが聴こえる設定になっています。WAZA-AIRはBluetoothで接続した機器からの音楽再生もできるのですが、この「STAGE」モードでは、Bluetoothオーディオで再生した楽曲をギターサウンドと同時に流すことができ、プレイヤーの頭の動きに合わせてオーディオサウンドとギターサウンドの聴こえる方向が同時に変化していきます。まるで憧れのバンドとステージで一緒に演奏しているかのような臨場感を味わえるのです。

 

↑ステージを感じさせるサウンドの動きを楽しみました

 

この機能はとても画期的で、まさに全てのプレイヤーが望んでいた機能ではないでしょうか。バンドにおいて、ステージで演奏できる時間というのは限られています。さらに、実際のステージで練習するとなると、費用の問題も出てきます。WAZA-AIRを使えば、録音した自身のバンドの楽曲に合わせてステージで演奏しているかのような音場を再現して練習することも可能です。それも自宅で。我々プレイヤーが半ば諦めかけていた機能がここに実現したのです。

 

専用アプリは高品位なアンプサウンドと豊富なエフェクトも楽しめる

WAZA-AIRは、ステージ用アンプとして定評のあるBOSS「KATANA」シリーズからサウンドや機能を継承し、5種類のアンプタイプを搭載しています。クリーンからハイゲイン、アコースティックやベースにも対応したレンジの広いタイプまで、幅広いスタイルに対応しています。BOSSにより作られた安心のサウンドが搭載されているのがうれしいです。

 

↑アンプの切り替えとイコライジング

 

また、ディストーションやモジュレーション、ディレイ、リバーブなど50種類以上のエフェクトが内蔵されており、設定したエフェクトを6個までメモリーに保存でき、イヤーパッド側面のボタンからワンタッチで呼び出すことができます。エフェクトはもう言わずもがな、ギタリストならどれかお世話になったサウンドが必ずあるでしょう。

 

↑豊富なエフェクトの種類。T-SCREAMはIbanezのチューブスクリーマーでしょうか? 編集部の玉造は、チューブスクリーマーをこよなく愛しているそうですが…

 

音色の切り替えやボリューム調節など、簡単な操作は本体側のスイッチで行い、アンプのイコライジングや空間の広さなど細かな調整はBOSS TONE STUDIOを本体に連携させ、スマートフォンやタブレット上で行うようになっています。

 

↑本来はギターアンプにエフェクターと、室内であちこち動いて設定する音作りを片手でできてしまう

 

前述した3種類の音場の切り替えはもちろん、アンプを鳴らしている空間の広さやアンプを置く位置まで、細かく調整可能です。空間の広さは10畳ほどのスタジオ小部屋から、最大でアリーナクラスのステージまで調整可能です。アリーナクラスの音場で鳴らす音はまさに壮大!

 

「BOSS TONE STUDIO」の中にはチューナーもセットされていて、スマートフォンの画面上でそのまま楽器のチューニングもできるようになっています。

 

↑チューナーも付いてます。助かります

 

この機能は意外にとても重要で、どんなに本体がストレスフリーに設計されていても、いざ弾こうと思った時にいちいちチューナーを引っ張り出して来ないといけなかったりしたら意味がありません。そして必要な時に何故か見つからなくなるのがチューナーというものなのです(笑)こういったところまで気を使っていただけるのはプレイヤーからしたらとても助かるところですね。

 

進化を続ける音楽と機材

近年の音響機器の進化は本当に目覚ましく、数年前には予想もしていなかった機材が次々と生み出されています。まさに、今回紹介したWAZA-AIRもそうです。それに伴ってプレイする側の選択肢もどんどん増えていきます。しかし思うのは、機材とともに我々プレイヤーも進化する努力を怠ってはならないということです。

 

これは、いちプレイヤーの我儘ですが、WAZA-AIRで自分が普段使っているアンプをシュミレートできたらどんな音作りができるだろう。ダウンロードコンテンツで音色がカスタマイズできたりしたら面白い。あくまで私の勝手な想像ですが、夢がどんどん広がっていきます。

 

バンドをやっている私はWAZA-AIRに驚くばかりですが、何も精力的に音楽をやっていなければ楽しめない代物ではありません。むしろ、昔はギター弾いてたけど家族のいる身で思いっきり家でギターを鳴らせない…そんな元ギター小僧にこそ、まずは試してほしいです。昔立ったライブハウスのステージ、夢見たアリーナは4万4000円で手に入りますよ?

 

↑楽器の未来を見つめる川野もギター小僧です

 

撮影/我妻慶一