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2020/6/3 17:00

何が凄い? 何が変わる? 今さら聞けない「5G」の基礎知識

広告やニュースで頻繁に見かけるようになってきた「5G」というキーワード。スマートフォンを始めとする、移動通信機器の最新規格です。では、この5Gはどのような特長を持ち、私達の生活をどのように変えるのでしょうか? 第1世代とはいったいどのような技術だったのか、といった背景から、5Gがもたらす可能性まで、体系だって確認していきましょう。ここからは、テクニカルライターの湯浅顕人さんに解説していただきます。

 

モバイル通信の新時代が始まる

5Gとは、現在スマホで使われている通信規格「4G」の次世代にあたる最新規格のこと。4Gの10倍以上という高速な通信速度で、4K動画などの高画質映像をスマホでも再生できるようになります。

 

また5Gの通信機能は、スマホだけでなく自動車や家電、医療機器といった機器にも搭載されます。そうすることで、自動運転や同時翻訳、リモート医療、自由な視点からのライブ観賞など、社会のさまざまな分野に進化をもたらしてくれるのです。

 

Q1.「5G」とはどういう意味?「3G」や「4G」もあるの?

「5G」とは「5th Generation」の略で、直訳すれば「第5世代」となります。

 

携帯電話やスマホは、電波によって無線通信します。そのための通信規格は、1980年代の携帯電話登場以来、およそ10年ごとに大幅な変貌を遂げてきました。それが通信規格の「世代」です。そして、その最新世代にあたる「第5世代」の通信規格が、5Gなのです。

 

まずは第1世代~第4世代の規格について、簡単におさらいしておきましょう。

・1G(第1世代)
1980年代に普及。アナログ方式で通信を行なっていました。

・2G(第2世代)
1990年代に普及。デジタル方式で通信を行ない、インターネットの利用が可能になりました。「iモード」の登場もこの世代です。

・3G(第3世代)
2000年代に普及。国際的な統一規格に準拠しました。データ通信が高速化し、映像や音声もやりとりできるようになりました。NTTドコモでのサービス名は「FOMA」です。

・4G(第4世代)
2010年代に普及。フィーチャーフォン(いわゆるガラケー)にとってかわってスマートフォンが主流になり、高画質映像や大容量データの送受信に対応して通信速度がいっそう高速化しました。2020年現在でも主流となっている規格で、ほとんどの端末が4Gで通信を行なっています。

 

なお、通信規格では「送受信するデータの形式」「使用する電波の周波数」などが取り決められています。そのため、「使用するエリアの通信規格」と「端末(携帯電話やスマホ)の通信規格」の世代が一致していないと、基本的には使えません。ただし通信規格は一度にすべてが切り替わるのではなく、過渡期には新旧の規格が併用されます。また端末側も、新旧規格に対応するように作られています。

 

たとえば現在は3G・4G・5Gの規格が併用されており、4G対応として販売されている端末の多くは3Gでの通信機能も内蔵しています。そのため、「新世代が登場したことで現在使用中の端末が急に使えなくなる」ということはないのでご心配なく。

 

Q2. 5Gにはどんな特長がある?

最新規格である5Gの大きな特長は、次の3点です。

 

1. 超高速化

通信速度は最大20Gbps(ギガビーピーエス:1秒あたりに送信できる通信容量の単位 )。4Gの最大1.7Gbps(受信時)に対して、大幅に高速化しています。もっとも、サービス開始直後である現在は受信時最大3.4Gbpsと低めですが、今後高速化していくことで4Gの10倍近い速度が出ることになるのです。
たとえば、4Gでは1分かけてダウンロードしていたデータを、5Gならたった6秒で開くことができます。

 

2. 同時接続数の増大

「同時接続数」とは、一か所に集まっている端末(スマホなど)が、いくつまで同時にインターネット接続できるかということです。

4Gでは同時接続数がそれほど多くなく、狭いエリアに多数のスマホがあると一部は通信不能になる、ということがありました。5Gの同時接続数は、1平方kmあたりなんと100万台。そのため、イベントなどで多数のスマホが集まっても通信可能です。また、後述するように5Gではさまざまな機器に通信機能を組み込む使い方が想定されていますが、そのように一か所に通信機器が密集する使い方ができるのも、5Gの特長なのです。

 

3. 超低遅延

無線通信の際、送信したデータが実際相手に届くまでには、わずかながら時間がかかります。これを「遅延」といいます。遅延はデータが一往復する際の時間で表わし、4Gでは「50ミリ秒(0.05秒)未満」でしたが、5Gでは将来的に1ミリ秒(0.001秒)が実現されることになっています。

そのくらいの遅延なら、0.05秒でも0.001秒でもたいした違いはないと感じるかもしれません。しかし、たとえば自動運転の制御に使う場合、時速60kmの車は0.05秒で083.3cmも進んでしまいます。それに対して5Gの0.001秒なら、たった1.67cmしか進まずにすむというわけです。

 

以上のような5Gの特長をふまえ、今後は4Gでは不可能だった使い方も想定されています。次のページでは、その使用例を解説していきます。



提供元:心地よい暮らしをサポートするウェブマガジン「@Living」

Q3. スマホだけじゃない! 5Gで社会はどう変わる?

5Gが普及すると、どのようなことが可能になるのでしょうか?

 

もちろん、もっとも身近な効果はスマホの通信速度が高速化することです。動画の視聴やテレビ電話が、より高画質になります。臨場感の高いVR映像や、情報量の多いAR映像なども、より充実するはずです。また、大容量通信を利用した高度なアプリも登場することでしょう。クラウド(インターネット上のコンピューター)が高速処理をしてくれるため、ナビゲーションや会話の同時通訳など、スマホのアプリもいっそう高機能化します。

 

そして、5Gの効果はそれだけではありません。これまで、移動体通信といえば携帯電話やスマホ、モバイルルーターなどに限られていました。しかし5Gでは、それ以外のさまざまな機器に組み込むことも想定されています。そうすることで、これまでにないサービスの登場が期待されているのです。その一部を紹介しましょう。

 

・自動運転

車載カメラやセンサーで収集した情報を、5G回線を利用して高速解析。フィードバックされた情報を元に、自動運転を行ないます。高速・低遅延の5G回線なら、「情報を得たが間に合わずに事故が起きてしまった」ということも防ぐことができます。

 

・ライブ観賞やスポーツ観戦

会場に多数のカメラを設置し、映像を配信。観客は手元のスマホやノートPCで、好きな視点のカメラを選択することができます。

 

・生活情報の取得

街中のセンサーやスマホから情報を収集し、よりピンポイントな、よりリアルタイムな情報を得ることができます。たとえば気象情報や渋滞情報、施設の混雑状況などがわかるようになるのです。

 

・多人数・高画質のビデオ会議

高速通信を活かして、スマホやタブレットでも4K画質・ハイレゾ音声・多人数でのビデオ会議が可能になります。「テレプレゼンス」と呼ばれる、まるで相手が目の前にいるような臨場感のビデオ会議も可能です。

 

・医療やヘルスケア

高解像度カメラや高感度センサー、ロボットアームなどを利用して、リモートでの処置や手術が可能になります。たとえば離島から搬送される救急ヘリの中で、医師が専門医からの指示を受けつつ緊急手術を行なう、といったことも可能になるわけです。わずかなタイミングのズレが命取りになる医療の現場でも、5Gの低遅延性が役に立ちます。

 

また、体重計や血圧計、活動量計などの情報を収集し、その膨大な情報を個人の健康維持に役立てるという使い方も考えられています。

 

Q4. 5Gはどのくらい普及している? 4Gから乗り換えるデメリットは?

NTTドコモ・au・ソフトバンクといった国内の大手キャリア(携帯電話会社)では、すでに2020年3月から5G回線での接続サービスを提供しています。新規参入の楽天モバイルでは秋頃から、その他のMVNO(格安SIMを提供する事業者)でも、今後サービスが開始される予定です。

 

5G回線を利用するには、「5G回線プランへの加入」と「5Gに対応した端末(スマホ)」が必要になります。現在、大手キャリアに加入しているなら、5G回線プランへの切り替えを申し込み、5G対応の端末を購入すればいいということです。

 

2020年6月現在、5G対応のスマホはNTTドコモで6機種、auで7機種、ソフトバンクで4機種(発売予定の製品も含む)。なお人気機種のiPhoneシリーズについては、5G対応製品はまだ正式発表されていません。発売は年末~2021年初頭にかけてとなるのではないかと予想されています。

 

一方、5G回線の弱点は、サポートエリアの狭さ。2020年6月現在では「エリア」といえるような広さすらなく、「特定の施設の付近で利用できる」という「スポット」の状況です。

【参照:各キャリアでの5G通信可能エリア】
・NTTドコモ https://www.nttdocomo.co.jp/binary/pdf/area/5g/5g_area.pdf
・au https://www.au.com/content/dam/au-com/mobile/area/pdf/5g_arealist.pdf
・ソフトバンク https://www.softbank.jp/mobile/network/area/map/

 

そのため当面は、5G回線を活用したイベントなど、特定のシーンでのみ利用できると考えたほうがいいでしょう。もちろん5G回線に切り替えたあとでも、4G回線を利用することで、4Gのエリアで通話や通信を行うことは可能です。

 

なお、総務省は各社に対して「5年以内に50%の基盤展開率の達成」を求めていますが、NTTドコモは97.0%、auは93.2%というさらに高い計画値を掲げているため、5Gのエリア拡大は急速に進むと考えられます。

 

もちろん海外でも、5Gの導入は進んでいます。米国・韓国では2019年4月にサービスが開始され、中国でも2019年11月に開始されました。欧州では、スイスで2019年4月に開始されたのを皮切りに、イタリア、スペイン、イギリス、ドイツなどで提供されています。

 

現在の4Gと同様、世界中で5Gのスマホを利用できる時代がすぐそこまでやってきているといえるでしょう。

 

【プロフィール】

テクニカルライター / 湯浅顕人

1971年神奈川県生まれ、電気通信大学情報工学科卒業。パソコンムック『Windows究極の快適設定』『Windows深刻トラブル自力解決』(ともに宝島社)シリーズのほか、『アスキーPC』(アスキー・メディアワークス)、『家電批評』(晋遊舎)など多数のムック・雑誌に執筆。著書に『「捨てる! 」ほど快適になるパソコンのカラクリ』(宝島社)、『電撃PC[超解]Windows7たん』(アスキー・メディアワークス)など。