デジタル
2022/8/6 19:20

「メタバース」で今何ができる? 今後どうなる? 3D都市データを駆使する制作者に聞いた、メタバースの基礎知識と楽しみ方

エンタメ業界を中心に、最近よく耳にするようになった「メタバース」という言葉。2022年はメタバース元年、とも言われますが、実際どういうものなのかわからない、という人も多いのではないでしょうか。

 

そこで今回は、メタバースの基礎知識やXR(VR・AR・MR)との違い、メタバースの活用事例など、未来への可能性を含めてわかりやすく解説します。3DCG技術を用いてメタバース空間の制作に携わっている、株式会社キャドセンターの古川修さんに話を聞きました。

 

そもそも「メタバース」って何? その魅力とは?

メタバース(Metaverse)は、「超越した」という意味を持つ「Meta」と、「宇宙や世界」を意味する「Universe」という単語を組み合わせた造語のこと。では実際に、メタバースとはどういったものなのでしょうか?

 

「『メタバース』とは、インターネット上に3次元CGで構築された仮想の空間のことをいいます。しかし、まだ線引きもあいまいで、厳密な定義があるわけではないんです。一般的には、オンラインの3D空間でユーザー同士がアバターを介してコミュニケーションしたり、ゲームを楽しんだり、映像を見たり。そういった体験ができるサイバー空間全般を指すことが多いです。具体的には『あつまれどうぶつの森』や『マインクラフト』といったゲームも、メタバースに分類されると言われています。

メタバースのなによりの魅力は、現実空間で不可能な体験が可能という点です。ライブ会場に行かなくてもアーティストのライブを楽しめたり、現実ではなかなか行くことができない観光スポットに仮想的に訪れることができたり。距離を感じさせない体験を共有しながらユーザー同士がコミュニケーションできるのも、メタバースならではですね。

また、アバターを介してなりたい自分になれるという魅力もあると思います。オンライン空間だからこそ、自分の好きなように自分をプロデュースできるので、外見など本来の自分に縛られることなく楽しむことができます」(株式会社キャドセンター・古川修さん、以下同)

 

混同されやすい、XR(VR・AR・MR)とはどう違う?

メタバースとよく混同されやすいのが、XR(VR・AR・MR)という言葉です。その違いについても解説していただきました。

「メタバースは『仮想空間』を意味する言葉で、XR(VR・AR・MR)は『仮想空間を表示する技術』のこと。いずれも、メタバース空間にアクセスするための手段といえます」

 

VR(Virtual Reality:仮想現実)

「ヘッドマウントディスプレイといったVR機器を装着して、3DCGなどでつくられたサイバー空間を360度体験できる技術です」

 

AR(Augmented Reality:拡張現実)

「現実空間でスマートフォンやタブレットをかざすと、その画面のなかに仮想のデジタル情報を表示させる技術です。スマートフォンアプリの『ポケモンGO』なども、ARの技術が使われています」

 

MR(Mixed Reality:複合現実)

「VRとARを組み合わせたようなもの。専用のグラスを装着することで、現実空間にCGや文字データを合成して表示する技術です。現在は、工場の点検業務や医療現場のトレーニングなど、一部の専門性のある領域で利用されているようです。これからますます発展が期待されています」

 

ヘッドマウントディスプレイを装着し、メタバース空間にアクセスする古川さん。

 

メタバースに注目が集まる、その背景とは?

メタバースという言葉自体は以前からあったものなのだそう。それではなぜ、今こうして話題となっているのでしょうか? 古川さんは「2022年はメタバース元年とも言われています。ここまで注目されるようになったのは、主に3つの背景があると考えています」と話します。

 

1.Facebook社が「Meta」に社名を変更した

「Google Trends」より。

 

「昨年10月、世界最大級のコミュニケーションプラットフォームを運営するFacebook社が、社名を『Meta』に変更し、メタバース事業に力を入れると宣言しました。それまではごく一部の人しか知らなかったキーワードだったのですが、この出来事がきっかけとなり、メタバース業界に参入する企業が続々と増えたのです。実際にこの時期の検索トレンドを調べてみると、この時期から注目度が急激に上がっているのが分かります」

 

2.VR機器やPCの性能が向上し、アクセスしやすくなった

「メタバース空間をより楽しむのに必要なVR機器の性能が向上し、かつ安価で購入することができるようになったのも、一つの理由といえます。それまでは数十万円かかっていたヘッドマウントディスプレイも、今では5万円程で購入できるようになっています。

また、以前はハイスペックなグラフィックボードを搭載したPCでなければ体験できないサービスが多かったのですが、近年は3D技術の向上により、スマートフォンやノートパソコン、ゲーム機でも楽しむことができるようになっています。より多くの人がアクセスしやすくなったことも、注目されるようになった大きな要因です」

 

3.コロナ禍によって需要が拡大した

「コロナにおける、対面のコミュニケーションや移動の制限は、メタバースのブームを加速させました。バーチャル空間でもコミュニケーションを楽しみたい、あの場所に行ってみたいという人々のニーズに応える手段として、メタバースに注目が集まったのだと思います」

 

エンタメだけじゃない! 日本と海外のメタバース活用事例

「現状のメタバースは、アニメやゲームでの活用が多いのですが、さまざまな分野に広がりを見せています。メタバース空間を提供するプラットフォームもたくさん誕生しているんですよ」と話すのは、キャドセンターのプランナーさん。実際にどのようななサービスがあるのか見ていきましょう。

 

・仮想の新宿で買い物も!「REV WORLDS」

「REV WORLDS (レヴ ワールズ)」
ダウンロード無料
iOS / Android

三越伊勢丹が提供する、スマートフォン向けアプリです。新宿東口をモデルとした仮想都市や仮想の伊勢丹新宿店といったメタバース空間に訪れ、チャットやモーションを活用して、アバター同士でコミュニケーションを取りながら、お買い物やメタバース空間の散策を楽しむことができます。ECサイトと連動しているので、訪れた仮想の伊勢丹新宿店で実際に商品を購入することも可能です。期間限定のイベントや催事なども開催されています。

 

・さまざまなメタバース空間が集まるプラットフォーム「DOOR」

DOOR
無料(一部有料)

『DOOR』は、NTTが提供するメタバースのプラットフォーム。企業や団体がコンサートや展示会、バーチャルショップといったさまざまな用途のメタバース空間を、このプラットフォームを通して提供しています。また、個人でメタバース空間を作成し、展開することもできます。利用者はアバターとなってメタバース空間に入り、ボイスチャットなどでコミュニケーションが可能です。

 

キャドセンターでは、首里城や平泉といった文化財を訪れることができるコンテンツを作成し、「DOOR」上で提供している。

 

・自分の作ったコンテンツをバーチャル上で収益化可能「The Sandbox」

The Sandbox(ザ・サンドボックス)
無料(一部有料)

 

現在、海外を中心に大きな注目を集めているのが、Bacasable Global社のゲーム「The Sandbox」です。「マインクラフト」のような見た目をしていますが、一番の違いは、このゲーム内で自分のつくったデジタルコンテンツを売って、収益化できる所にあります。

 

本来、デジタルコンテンツは安易にコピーできてしまうので、資産価値があるとみなされていませんでした。しかし『デジタルだけど複製できない』という特徴を持った技術(NFT)を用いることで、唯一無二のデータをオンラインで売買することができるようになりました。『The Sandbox』でも、その技術によって、自分でつくったゲーム内で使用できる装備や装飾品などを販売し、『SAND』と呼ばれる仮想通貨として収益化が可能。世界には、『The Sandbox』でお金を稼いでいる人もいるようです。

 

仮想空間といえど、現実と見紛うような精緻さで作り込んだメタバースも。リアルさを追求することで、どういった可能性が広がるのでしょうか?

妥協なき“リアリティ”への追求
キャドセンターのメタバース空間づくり

今回取材を行ったキャドセンターは、メタバース空間のデータ制作を行っている会社です。20年以上も前から3D都市データを作成してきたノウハウを生かし、クライアントが求める高度な空間をつくり上げてきたと言います。

フォト・リアリスティック3次元都市データ 「REAL 3DMAP」

 

「現実の街や観光地などを舞台としたメタバース空間をつくる際、当然ながらその場所の3D都市データが必要となってきます。例えば、秋葉原を舞台にしたメタバース空間をつくりたいとなれば、本来秋葉原の街を計測するところから始まるのですが、当社は長年作成してきた3D都市データを持っているので、そのデータをベースとして制作することができるのです。

 

蓄積してきた3D都市データは、空撮写真や測量を経てつくられた正確なもの。さらに、不動産のCGパースなどを多く手掛けてきたこともあり、『地図の正確さ』と『表現のクオリティ』両方の意味での“リアリティ”を実現できるところが弊社の強みです。この都市データはメタバース空間制作だけでなく、3Dハザードマップとして防災分野で活用されたり、映画などの背景などにも利用されたりしています」

大日本印刷株式会社 バーチャル秋葉原
アプリ版 ※DMM「Connect Chat」上にて利用可能。/ ブラウザ版

 

「バーチャル秋葉原」も、キャドセンターの技術とノウハウが生かされたコンテンツのひとつ。同社が所有する「REAL 3DMAP TOKYO」という3D都市データをベースに、人気クリエイターKEIGO INOUE氏のデザインビジュアルを融合させた、まるでSFの世界のようなメタバース空間です。

 

「バーチャル秋葉原では、アバターが集まってチャットで交流することはもちろん、同時に映像を見ることができるウォッチパーティーや、画家やイラストレーターによる展示会など、さまざまなイベントに参加することができます。また、一部のバーチャルショップでは、ECサイトと連動して実際に商品を購入することも可能です」

 

メタバースの可能性を広げる「街バース」

同社は、メタバース空間のベースデータとして活用できる3D都市データ「街バース」をリリース。第一弾として発表したのは、開業から100年を迎えた東京駅周辺(丸の内エリア)。順次、地域は拡大していく予定だといいます。

街バース

「街バースは、現実の都市空間を忠実に再現しているだけでなく、実際にアバターが歩くメタバースのデータとして必要不可欠な、人の目線からみた景色を再現しているのが特徴です。さらに、実際の街を歩いているかのような“フォトリアル”なデータを追求しました」

 

街バースは、「アイレベル」(人の目線の高さ)で見た景色のリアリティが魅力。

 

「ただ映像が綺麗なだけでもなく、ただ地図として正確なだけでもない。その二つの要素を組み合わせることで、メタバースの仮想体験自体がよりリアルになっていくと考えています。街バースをはじめとするコンテンツ制作を通して、メタバースの可能性がますますひろがっていくとうれしいです」

 

「メタバースが普及したからといって“リアル”がなくなるわけではありません。実際、私たちの元には『オンラインで体験してもらって、実際の来場につなげたい』といったご相談も多いです。みなさんも、インスタグラムで見た投稿をきっかけに実際のお店を訪れる、なんてことも多いですよね。それと同じように、気軽に利用できるオンライン空間があるからこそ、リアルにもつなげることができるようなハイブリッドなサービスは、今後ますます求められてくると考えています。

今、メタバースはまさに過渡期。それでもこの流れは止まることなく、買い物や仕事、教育現場など、今後もさまざまな分野に広がっていくと思います。そしていつか、『メタバースがリアルを超える』なんて未来がやってくるかもしれませんよ」

 

【プロフィール】

株式会社キャドセンター / 古川 修

同社プロデュースグループのプランナーとして、クライアントへの提案やコンペ等のコンセプト決定と提案書作成など、受託案件の実現へ向けた総合プロデュースを担当。学芸員の資格を持っており、文化財の3Dデジタルスキャンやテクスチャ撮影のコーディネートを担当することも。
https://www.cadcenter.co.jp/