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ムー
2018/4/15 20:00

【ムー古代貨幣の謎】現代にも影響を与えた古代ギリシア・ローマ期の貨幣デザイン秘話

1950年ごろの日本は、煙草がまだ専売制であり、日本専売公社が販売網を一手に握っていた。

鳩が横向きに刻まれた、ペロポネソスのシキュオンの銀貨

 

このとき公社は新しい高級煙草「ピース」の発売を企画し、パッケージのデザインをアメリカの一流工業デザイナーとして知られるレイモンド・ローウィに依頼したのである。その紺地に金色の鳩が描かれたデザインは1952年から採用され、好評のうちに売りだされたが、「ピース」のデザインは、これまでの煙草と違うのが子供の目にもはっきりわかった。

 

ところが発売後、しばらくしたころだった。「ピース」のデザインは「ギリシア・コインの模倣」という噂が海外から流れてきた。

 

そのコインとは、古代ギリシアのペロポネソス半島シキュオンのテトラドラクマ銀貨で、中央に横向きの鳩、そして周囲にオリーブの枝葉が配されていた。いっぽう、「ピース」のデザインは、縦(下向き)の鳩がオリーブの小枝をくわえる、というものだった。

 

日本にこの疑惑の報道が伝えられると、一時は100万円(当時だと200万円で地方に豪邸が建った)のデザインが盗作だったと大騒ぎになったが、デザイナーは強く否定。やがて時間が経過すると、熱しやすく冷めやすい、という気質の日本人らしく、この話はいつしか忘れ去られていった。

 

私は、このシキュオンのコインを初めて目にした際、即座にこれが「ピース」のデザインの原型だと察しがついた。父親が日に50 本も「ピース」を愛煙していたので、箱も馴染みあるパッケージといえた。そこに描かれていた鳩は、まさにコインで見た鳩だった。

 

レイモンド・ローウィが盗用したか否かはともかく、古代ギリシアの傑作のひとつ、シキュオンのテトラドラクマ銀貨が、その参考になったのはまちがいないだろう。

 

 

悪魔ゴルゴンの顔が描かれたコイン

古代ギリシア時代は、都市国家の守護神であるアテナなど、女神が各地のコインに登場していた。それと同時に少なからず、悪魔も描かれてきたのである。

 

その代表的なものが、人間を睨んで石にしてしまう、「ゴルゴン」という神話上の悪魔だった。ギリシア・コインを眺めていると、シラクサやマケドニアをはじめ、多くの都市国家のコインに見られたのだ。

 

それらに描かれたゴルゴンは、ユーモラスな容貌であるものがほとんどで、中には舌を突き出し「あかんべー」をしている。あたかも示し合わせたように、どれもこれもが、そうした表情を見せていたゴルゴンが描かれたコインの多くが、小型の金貨や銀貨だったが、数少ない例外がある。

スキュティアのオルビアで製造されたアエス・グラーウェの青銅貨。表面には人間を睨んで石にするゴルゴン(左)が、裏面には海鷲(右)が刻まれている

 

それが、ここで紹介するスキュティアのオルビアで製造されたアエス・グーウェ(重い青銅貨)だった。これは直径が70ミリ、量目が120グラムというもので、その大きさが目立つ。

 

オルビアで流通したのは、紀元前437〜前410年で、かなり古いものだ。表面にはゴルゴンだけが大きく描かれ、裏面には海鷲が海面すれすれに降下し魚を摑んでいる姿がみられた。

 

ちなみに、私がギリシア世界で見かけたもっとも見事なゴルゴンは、イスタンブールの地下貯水場にあった像だった。サイズが格段に大きく、あたかも飲み込まれそうな迫力を感じたものだ。

月刊ムー 2018年4月号

 

(ムー2018年4月号 特集「アンティーク・コインのミステリー」より抜粋)

 

文=平木啓一

 

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