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2018/5/6 20:30

【ムー妖怪図鑑】名前を持つ「人魂」の怪

ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」今回は、霊魂的・妖怪的な「人魂」を補遺々々しました。

昔から目撃されている発光体

みなさんは「人魂(ひとだま)」を見たことがありますか?

 

「人魂」という文字が表すように、これは人の魂が浮遊する怪異で、尾を引いて空中を泳ぐように移動する不思議な発光体を指します。昔はよく目撃されていたようで、さまざまな文献に記録が残されていますが、最近ではなぜか、「人魂を目撃した」という話はあまり聞きません。

 

近いものは「オーブ」でしょうか。写真や映像の中に浮遊するように映り込む希薄な丸いモノで、霊的な現象だと考えられることもあります。肉眼で直接見えるものではなく、撮影機器を通してのみ発現するという、なんとも判断の難しい現象なのです。

 

他に近年に目撃されている発光体といえば、「火球」「未確認飛行物体」などでしょうか。前者は流星ですから天体現象、後者は正体不明の飛行物のことで、最近はここに人の形をしたもの、竜の形をしたものなども入ります。いずれも人の霊魂とは関係のないものでしょう。

 

人魂とはどんなものなのか

ひとことで「人魂」といってもさまざま々です。天ぷらにしたら美味しそうな、あのノッペリとしたオタマジャクシのような形状をイメージする方が多いとおもいます。

 

ですが、数メートルもの長い尾を引くもの、カラフルなもの、地面に落ちて泡になるもの、人の顔があるもの、などなど、色・形・行動に特色を持つ「人魂」は多数確認されているのです。

 

柳田國男・監修『綜合日本民俗語彙』では、「ワタリビシャク」というものを紹介しています。これは京都府北桑田郡知井村(現・美山町)に伝わるもので、青白い杓子(しゃくし)の形をしたものがフワフワと飛ぶ、という怪異です。名前にある柄杓(ひしゃく)とは水をかける道具で、杓子は食べ物などをすくう道具ですが、頭が丸く長い尾を持つ形状は同じです。

 

形状だけなら「人魂」と同じものに思えますが、この地域では「光り物」には3種あり、「ワタリビシャク」はそのひとつで、他のふたつは「テンビ」と「ヒトダマ」だといいます。「ワタリビシャク」と「人魂」は別のものとして認識されているということです。「テンビ」は各地に伝わる不思議な光や火の玉のことで、尾は引かず、快晴や火事の前兆とされます。

 

大分県大野郡では鵺(ぬえ・トラツグミのこと。スズメ目の鳥)のことを「ヒトダマ」と呼ぶこともあったようです。柳田氏は、この鳥が鳴くと人が死ぬという伝承は多いとし、このような俗信から「人魂」といわれたものか、と書いています。

 

神田左京・著『不知火・人魂・狐火』の「人魂」の章では、心理学者の小熊虎之介の資料を引いて、このような話を紹介しています。

 

小熊氏が知人の明大教授から聞いた話によると、東京では「人魂」を2種類に区別していたといいます。ランプの光のように黄色いものを「ひと玉」、青白く光るものを「金玉(かねだま)」とし、「ひと玉」は頭が大きくて尾が長く、「金玉」は尾は長くないが、光が強い、とあります。

 

「金玉」は民俗学では人の霊魂とは関係のない怪異として扱われており、これが落ちた家は栄えるといった伝承もあります。ものすごい音とともに落ちてきたという記録もありますから、前述した「火球」に近いものではないでしょうか。

 

沖縄では「タマガイ」と呼んで、これが夕方、あるいは夜間に空へ上がると人が死ぬといわれています。色は赤色、オレンジ色、青っぽいなど、複数の目撃例があります。この「タマガイ」が家の玄関から上がれば、その家の主人が死に、勝手口のほうから上がると主婦が死ぬといわれています。子供が生まれる前に目撃されることもあるので、一概に死者の霊魂とはいえず、肉体のない命そのものが発光していると考えるほうがいいかもしれません。これは家だけでなく、ガジュマルの木からも上がるといわれています。

 

悲恋の人魂

名前を持つ「人魂」をご紹介します。

 

青森県南津軽郡平賀町(現・平川市)のはずれに、浪人と娘がふたりで住んでいました。娘はとても美しく、気品のある人でした。

 

ある日のこと、大光寺城の若殿が馬で遠乗りに出かけている途中、浪人の家に寄って水をもらいました。そのとき、若殿は浪人の娘にひと目惚れをしてしまい、たびたび家に来るようになりました。娘のほうも次第に心を惹かれていき、ふたりは恋し合う仲となるのです。

 

この話を家来から聞いた大殿は、若殿のために娘を城に呼び、腰元(位の高い人に仕える人、侍女)としました。腰元といっても若殿のお気に入り。おそらく、扱いも違ったのではないでしょうか。以前から仕えている腰元たちに娘は妬まれてしまい、ひどいいじめを受けてしまいます。

 

こうして居続けることができなくなった娘は城を抜けだし、山中にある油沢(あぶらやづ)というところに身を投げてしまいます。恋しい若殿のことを想いながら――。

 

その夜から、この油沢から青白い「人魂」が出てきて、ゆらゆらと飛ぶようになりました。

 

この「人魂」には決まった径路がありました。油沢から現れると大光寺城のまわりをまわって、いったん堀端で消えてしまいます。消えた場所には白い着物を着た娘が現れ、泣きながら城を見上げたあと、また「人魂」となって、北にある尾上町の新屋のほうへと飛んでいき、村のはずれの林で消えたといいます。近年まで目撃されていたそうですが、なぜ、新屋のほうへ飛ぶのかは、だれにもわからなかったそうです。この人魂は「油沢のあねこ」と呼ばれました。あねこは娘っこの意味です。

 

文・絵=黒史郎

 

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