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2018/8/26 20:00

【ムー昭和オカルト回顧録】ファンシーな80年代への移行期に登場した「脱法コックリさん」

前回までに解説したようなプロセスで、「コックリさん禁止令下」の70年代オカルト女子たちが、「法の目」をくぐるための「女子的降霊術」である「キューピッドさん」を開発すると、次々に類似の女の子専用「脱法コックリさん」が誕生しはじめた。

『キューピッドさんの秘密』に付録として折り込まれていた「フラワーさん」用の「文字盤」。霊ではなく、「お花の妖精」(笑)を呼び出して行う占いで、主に低学年女子に人気が高かった

 

前回も紹介した『キューピッドさんの秘密』によると、「キューピッドさん」は東京近郊で開発され、当初は関東地方を中心に普及していったものなのだそうだ。

 

一方、同時期の関西で流行していたのが、こちらも高い知名度を誇る「エンゼルさん」である。10円玉を使用する「エンゼルさん」はほとんど「コックリさん」と同様の方式だが、「文字盤」が多少アレンジされている。鳥居の代わりにひとつの円を配置し、ひらがなの50音表の代わりにアルファベットを使用する。つまりは、ローマ字でコミュニケートする「コックリさん」だ。

 

これが関西発祥の儀式だということを僕はまったく知らなかったが、ウチのクラスでは「キューピッドさん」流行とほぼ同時期に「エンゼルさん」もポピュラーなものになっていた。やはり誕生からほどなくして全国レベルで普及したのだろう。

 

続いて、用紙を縁取るような形で50音を配置した独特な「文字盤」を使用する「星の王子さま」も流行。さらには鳥居の代わりに花の絵を描く「フラワーさん」も普及した。

 

おそらくこのあたりまでが、僕ら世代の多くがリアルタイムで体験した「脱法コックリさん」だと思う。ちょっと補足すると、「キューピッドさん」と「コックリさん」をハイブリッドさせたような「ラブさま」(ハートマークと50音表を描いた「文字盤」を使う)というのも僕の教室では流行していた。『キューピッドさまの秘密』に記述はないが、これも全国に普及し、現在も一部の若い世代に継承されているらしい。

 

ただ、こうした当時の「脱法コックリさん」の数々は、継承されていくうちにさまざまな変更が加えられていくらしく、最終的にはほとんど本家の「コックリさん」と同じものになってしまう傾向があるようだ。本コラムで「現在の『キューピッドさん』は『コックリさん』の鳥居をハートマークに代えただけ」ということを書いたが、「ラブさま」なども「コックリさん」の名称を変えただけの儀式として伝わっている学校も多いらしい。

 

大人たちが「コックリさん」に目くじらを立てなくなるに従って、数々の「脱法コックリさん」が徐々に本家「コックリさん」の方へ戻っていった、という感じなのだろうか?

 

80年代に入ると、「森のシチュー屋さん」という、なにやらイラッとするネーミングの儀式も考案される。これは1983年にハウス食品から発売された商品の名前をそのまま借用したものだ。おそらく先述の「星の王子さま」が、同じくハウスから83年に発売された「カレーの王子さま」を連想させたため、その姉妹品から名前を取ったのだろう。

 

こうなると、いかにも小学生女子らしい「バカ丸出し」のセンスが炸裂している感があるが、見方を変えれば、80年代を支配することになる「ファンシー」の感覚が、オカルト的なものまでをも侵食しはじめていることがわかっておもしろい。70年代初頭から続くオカルトブームの様相が、このあたりで少しモードを変えたのかも知れない。

 

ちなみに、ハウスの「カレーの王子さま」「森のシチュー屋さん」などは、この時期に同社が打ち出した「子ども向けメルヘン路線」で、ほかに「ハヤシランドの王女さま」(笑)というハヤシライスのルーも販売されていた。いかにも80年代ならではの商品企画である。

 

以降、女子的「脱法コックリさん」は80年代を通じて、「ヘムレスさん」「グリーンさん」「ファラオさん」「文心さん」「分身さん」「ゴブリンさん」「ホワイトさん」「ニッコリさん」「守護霊さま」「花子さん」「マリアさま」……などなど、次から次へと考案されていった。どれもこじつけ的な設定が付加されているだけで、基本的には似たり寄ったりの内容なのだが、ちょっと変わっているのが80年代初頭に普及した「ダニエルさん」だ。

 

式の内容は相も変わらず「コックリさん」に準じたものだが、鳥居の代わりに、なんと「UFO」の絵を描くのだ。しかも、儀式のなかではこの「UFO」を「ベントラ」という懐かしい名前で呼ぶことになっている。この「ダニエルさん」は「降霊術」ではなく、「降宇宙人術」(?)なのである。つまり、宇宙人とのコンタクトを行う、という設定になっているのだ。「宇宙人」がなんで10円玉に「降りる」んだよ?と言いたくもなるが、矢追純一氏の「UFO特番」に多くの子どもたちが夢中になっていた時期に考案されたらしい。僕らもよくやった「ベントラ、ベントラ、スペースピープル……」という呪文を使う「UFO召喚術」と「コックリさん」をミックスしたような儀式だと言えるだろう。

 

もうひとつおもしろいのは「コンコンさま」。これは割り箸を組み合わせた三本足の「コマ」を使用する古典的な「コックリさん」で、つまり学校で禁止された「コックリさん」よりもさらに本格的な戦前版の「コックリさん」である(言うまでもなく名称の「コンコン」は狐の霊=稲荷信仰を示唆するものである)。

 

なんで「禁止令下」にこんなハードコアなものが流行ったのかといえば、「禁止令」を受けて大半の女子は抜け道を探して弾圧を回避しようとしたわけだが、なかには「禁止令なんて知るか、ボケ!」と考えた戦闘的な女子たちもいたらしい。彼女たちは「禁止令」によってさらに「コックリさん」への好奇心を深めて、あれこれ文献を漁ってより本格的な儀式にハマったようだ。いわば真性オカルト女子というか、「霊的武闘派女子」たちである。さすがにこれはウチのクラスでは流行らなかったと思うが、いや、わかったものではない。彼女たちも放課後の教室や友人宅で、密かに楽しんでいたのかも知れない……。

 

70年代オカルト女子たちの工夫と戦略

こうして数々の女子的「脱法コックリさん」を俯瞰してみると、いくつかの共通要素が見えてくる。もちろん「コンコンさま」のような例外もあるが、全体としてはどれも「憑依されたり呪われたりする心配のない安全な儀式」を(一応は)前提としており、「禁止令」下でも「これは大丈夫」と言い逃れができる儀式でなければならない。

 

このことは単に「先生対策」であるだけでなく、当時はさまざまなメディアが「コックリさん」の「憑依事件」をおどろおどろしく伝えていたので、本人たちもやはり単純に怖かったということもあったはずだ。とにかく「コックリさん」が持つ「怖いイメージ」をなんとか払拭する必要があったのだ。

 

そこで女の子たちが考えたのは、「名前をかわいくする」「文字盤をかわいくする」という2点である(笑)。そんなことで「霊障」や「呪い」に対抗できるのかという不安はあるが、恐怖に「かわいい」をぶつけて無力化してしまおうという発想は、やはり女子的には正当な対処のしかただったのだとも思う。

 

「エンゼルさん」「キューピッドさん」「ラブさま」などは、「呼び寄せるのは霊ではなく、無害で純真な『愛の天使』なのだ」というイメージ転換を意図したものだと思われるが、さらに後年の「フラワーさん」「ニッコリさん」などになると、そうしたコンセプトも消えて、もはやなんだかよくわらない「能天気さ」だけが漂う。とにかく「かわいくて明るくてファンシー」なフワフワ脱力系にしてしまうことで、「霊障」とか「呪い」といったものからできるだけかけ離れたものにしたかったのだろう。その最たるものが「森のシチュー屋さん」だが、ここまでくると「バカっぽい」という問題も出てきて、「天使系」の以降の儀式があまり普及しなかった背景には、「恐怖」を脱色しすぎたということもあったのだと思う。

 

「文字盤」のアレンジも重要だ。「コックリさん」の「文字盤」において「恐怖」の感情を呼び起こすのは、言うまでもなくあの鳥居である。これをハートマークや花の絵などの「かわいいもの」に変えてしまえば「もう大丈夫!」というわけだ。これまた馬鹿らしいほどシンプルな発想だが、しかし鳥居の印が日本人に喚起する畏敬の感情はやはり強烈である。ここを変更するだけでかなり印象は違ってくるのは確かだ。

『キューピッドさんの秘密』に付録として折り込まれていた「分身さん」用の「文字盤」。これは相手の「分身」(つまり生霊?)を呼び出し、ダイレクトに気持ちを聞くことのできる恋占い。ほとんど「コックリさん」と同じ文字盤を使用するが、鳥居の代わりにハートマークが描かれ、「yes/no」のアルファベット表記が用いられている。

 

また、「脱法コックリさん」にはアルファベットを使うものが多いが、これもまた「かわいい」に根差した改変なのだと思う。文字の持つ呪術的な雰囲気を消し去る、ということだ。「コックリさん」の「文字盤」で表記されるひらがなの「はい/いいえ」は怖いが、「yes/no」だと「あ、なんかオシャレ!」という印象になる(笑)……といった認識だったのだろう。

 

さらにポイントとなるのが、10円玉の代わりに鉛筆を用いる「儀式」が多いこと。これはウチの学校でもそうだったが、当時の先生は「コックリさん」を排斥する際、「お金をおもちゃにするな!」という言い方をよくしていたのである。今思えば、「コックリさんは危ないからやめなさい」と言ってしまうと、教師が「霊」の存在を認めることになってしまう。これに抵抗を感じ、ポイントをずらして「お金をおもちゃにするな!」という部分で子どもたちを叱る先生が多かったのだと思う。このあたりのことは今ではあまり語られないが、教室で堂々と楽しめる「儀式」には、「硬貨を使わない」はけっこう重要な要素だったはずだ。

 

こうして見てくると、僕のようなオカルトかぶれの70年代小学生男子は、常に「バカ丸出し」でアレコレのオカルトネタを楽しんでいたが、同じく当時の女の子たちもやはり「バカ丸出し」だったのだなぁと微笑ましくなってくる。しかし、どうして彼女たちがこれほどアホな試行錯誤と工夫を重ねてまで、男子的にはすでに「終わったブーム」である「コックリさん」に、その後約10年間にも渡ってしつこくこだわり続けたのか?……というのは、やはりひとつの大きなモンダイなのだと思う。

 

それは結局のところ、どうして多くの女性は昔も今も占いやおまじないに類するものに夢中になるのか?ということであり、これを考えはじめると、自分ではいかんともしがたい「運命」といったものに一方的に翻弄される不安を、男性よりも女性の方がより強く実感しやすい不均衡な社会構造が常にあるから、といった古今東西に共通する暗澹たる話になって、その「主体的には生きにくい」という不自由な感覚を、すでに小学校の低学年女子すらも共有していたのだということが70年代「コックリさん」ブームからも見えてくる……という絶望的な結論になりそうなので、ここらで筆を置くことにする(筆で書いてないけど)。

 

初見健一「昭和こどもオカルト回顧録」

◆第13回 無害で安全な降霊術? キューピッドさんの謎

◆第12回 エンゼルさん、キューピッドさん、星の王子さま……「脱法コックリさん」の顛末

◆第11回 爆発的ブームとなった「コックリさん」

◆第10回 異才シェイヴァーの見たレムリアとアトランティスの夢

◆第9回 地底人の「恐怖」の源泉「シェイヴァー・ミステリー」

◆第8回 ノンフィクション「地球空洞説」の系譜

◆第7回 ウルトラマンからスノーデンへ!忍び寄る「地底」世界

◆第6回 謎のオカルトグッズ「ミステリーファインダー」

◆第5回 東村山水道局の「ダウジング事件」

◆第4回 僕らのオカルト感性を覚醒させた「ダウジング」

◆第3回 70年代「こどもオカルト」の源流をめぐって

◆第2回 消えてしまった僕らの四次元2

◆第1回 消えてしまった僕らの四次元1

 

関連リンク

初見健一「東京レトロスペクティブ」

 

文=初見健一

 

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