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ムー
2018/10/14 20:00

【ムー妖怪図鑑】夜な夜な遊び歩くイケメンの正体

ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」(隔週水曜日更新)! 連載第36回は、夜な夜な現れる謎のハンサム、その意外な正体を補遺々々します。

夜の町に現れるハンサムさん

モデルのようなスタイルやアイドルのような容貌に恵まれた人は、歩いているだけで人の視線を引きつけます。そのような容姿に憧れる人はたくさんいるでしょう。

 

でも、あまり人目を引いてしまうと、その容姿が仇となることもあるのです。

 

今回は、そんなお話です。

 

舞台は、埼玉県の桶川。このあたりは宿場として、旅籠屋や商店のたくさん集まる、夜でもにぎやかなところです。

 

ここでは、若い女性たちの間で、あるひとりの男性が話題となっていました。

 

その男性、たいへん気品のある面立ちで、背もすらりとし、うっとりするほどきれいな容姿をしていました。

 

夜にだけ町に現れ、静かに酒を楽しむと、美しい声で歌い、時には踊ることもあります。そうして楽しいひとときを過ごすと、静かに帰っていくのです。

 

美しい容姿に落ち着いた振る舞い、そしてときどき見せる天真爛漫さに心をくすぐられたのでしょうか、この男性は女性たちにとって憧れの的でした。

 

ですが、この人物がどこから来ただれなのか、知る人はいませんでした。

 

美男子の正体……

夜の町を遊びまわる謎の美男子。彼はいったい、何者なのでしょうか。その正体を知ろうと、彼が町から帰る時、そっと後をつけた人がいました。

 

そして、驚くべき光景を目にするのです。

 

夜遊び美男子はなんと、お寺の中へと入っていったのです。

 

そこは曹洞宗の寺院・大雲寺でした。

 

さあ、大変です。その後、大雲寺の若い僧侶が町で遊び回っているという噂が立ってしまいます。

 

住職は若い僧侶を集めて尋ねましたが、皆、そんなことはしていないといいます。

 

困り果てた住職は、ある夜、だれにも気づかれないように見張ることにしました。

 

すると――。

 

夜半近くになって、何者かが寺へと入ってきました。

 

様子を見ていますと、その者は庭のあたりでフッと消えてしまいました。

 

そこには、お地蔵さまが立っていました。

 

そうです。

 

夜な夜な、町で遊び歩いていた美男子の正体。それは、このお地蔵さまだったのです。

 

真実を知った住職は翌日、このお地蔵さまを厳しく叱りつけました。そしてもう二度と夜遊びができぬように、背中に鉄の鎹(かすがい)を打ち込み、鎖で縛ってしまいました。

 

それ以来、謎の美男子が夜遊びをする姿は見られなくなったそうです。

 

「浮気な地蔵さん」『桶川市史』第六巻を参考にいたしました。

 

悪いことはできない

この自由奔放なお地蔵さまにお会いしたくなった私は、この夏、桶川の大雲寺へと足を運びました。

 

蝉の鳴き声が間断なく降り響く中、謎の人物が消えた寺の「庭」とされている場所でしょうか、そこに並ぶ三体のお地蔵さまとお会いすることができました。

 

夜遊びしていたお地蔵さまがどなたなのか、すぐにわかります。

 

右側のお地蔵さまの背中にだけ、夜遊び封じの鎹(かすがい)がしっかりと打ちつけられているのです。鎖はなかったので、もう反省して出歩かなくなったのでしょう。

こころなしかほかの二体よりもハンサムに見えますが、この一体にだけ頭に鳥のフンが落ちており、それを見て「悪いことはできないな」と思いました。

 

文・絵=黒史郎

 

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