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2019/3/16 20:15

【ムー天狗伝説】天空から飛来する鬼神の正体「天狗」の謎

日本で「天狗」という名が初めて出現するのは、『日本書紀』の舒明天皇の御世(飛鳥時代)である。637年2月の夜、都の空を大きな星が東から西へと雷鳴のような轟音を立てて流れた。人々はこの音を流星の音だ、または地雷だと騒いだ。このとき、当時最大の知識人(隋ずいの占星術にも詳しい)、僧の旻が、「流星ではなく、これは天狗である。天狗の吠える声が雷に似ているのだ」といったと記されている。

流星。飛鳥時代の僧である旻は、天空で雷鳴する流星を「天狗」と呼ぶと説明した。

 

天狗は古代中国の凶星とされている。

 

司馬遷の『史記』「天官書」第五によると、天狗は狗が吠えるような音を響かせて流れる星である。それが地上に墜落すると、巨大な火柱が立ち、田地のような窪地を残す。そこには狗のような獣がおり、何処かへ走り去る。するとあたりに戦乱が起こり、多くの将が死ぬという。

 

天体現象と思われる天狗は、大気圏に突入した大流星による衝撃波と、地上に墜落した隕石の事件として説明できるが、古代中国では凶兆、もしくは宇宙の主宰者である天帝の警告と考えられていたようだ。

 

すでに儒教社会であった古代中国には、「天人相関説」という世界観があった。天すなわち神々の世界は、天帝が主宰者として治め、地上は天帝の代理として人間の帝がよき治政を行えば天帝はそれを褒ほめ、その証として瑞象が現れる。その反対に、帝に徳がなく治世が乱れると、天帝は罰として災厄を起こす警告として、怪異を現し、怪獣や化物が出現するとされた。

 

天狗が地上に墜落し、その姿を現すのは、「戦争を起こす」という通告だと解されていたのだろう。

 

近世以前、日本の天狗は「戦争を好む」という性癖を持つとされていた。その性質は隕石と戦争との因縁から発するのかもしれない。

 

天狗に隠された神仙道や道教

紀元前3000年ほど前、古代トルコのアナトリア高原に人類史上最初の鉄器文明が発祥した。そこに住むヒッタイト人は、純鉄に近い隕石(隕鉄) より鉄器を生んだ。その後、鉄鉱石や砂鉄から製鉄し、戦車などの新兵器を発明し、アッカド帝国やエジプト王国をも脅かす軍事国家、ヒッタイト帝国が興隆した。その帝国が滅亡すると、隠匿されていた製鉄技術は世界中に伝播し、鉄製の兵器の使用によって、人類の戦争は激化をたどったのだ。

 

星、鉄、戦争との関係から、陰陽道の太白神と天狗が同一視されている。

 

太白神は方角神であり、軍団の長である大将の象を有し、兵事や凶事を司る太白(金星)の精だという。陰陽道での金星は「金気殺伐」の神であり、戦争を好むとされる。金星の「金」とは、刀剣の材質である鉄を意味し、それが戦争を好み、兵法剣術を嗜む天狗の性格と一致するのだ。

 

太白星は大将軍の神名で、京都を守護する大将軍八神社の祭神となっている。吉凶を司るとされ、日々遊行する金神であり、この神のいる方位は何事も凶とされ、さまざまなタブーが生まれている。

 

修験者が各地の霊山の天狗を招き、祈念をこめる際に唱えた『天狗教』天狗呪第一の真言に、「オン・アロマヤ・テング・スマンキ・ソワカ」と記述されている。「アロマヤ」は「阿ア留ル那ナ」の訛りで金星の意だ。「スマンキ」とは天狗が従える数万騎の霊狐を意味する。

太白神(大将軍神)。日々遊行する金神であり、この神のいる方位は何事も凶とされている。
雷公(雷神)。かつて中国では、天空の雷鳴は雷公による地上への警告現象だとされていた(『繪伝太上感応篇』より)。

 

飛鳥時代の旻は、雷鳴する流星を「天狗」と呼んでいたと思われるが、後世の『日本書紀』の注釈書『釈日本紀』では、天狗の語に「アマツキツネ」と読みがつけられたため、天狗は「天津狐」、すなわち中国伝来の「天狐」と同一視された。

 

人間が修行によって不老不死の仙人になれると考えられたように、年を経た狐も修行によって、不老不死の天狐に変身すると信じられていた。天狗の背景には、仙人や天狐に関する神仙道や道教の影響があるのだ。

 

奈良時代末、密教修行の根幹に位置する、金剛界曼荼羅と胎蔵曼荼羅の図画が日本にもたらされた。その胎蔵曼荼羅の描き方を記した唐の『摂大軌』に、「南緯の南に涅ネ伽ギャ多タを置き、北緯の北に憂流伽跛多火を置く」と記し、両者を天狗と同一視している。涅伽多とは霹靂(急に雷が激しくなること) の意で、頭上に両手を挙げ合掌しながら空を飛ぶ神の姿で描かれる。

 

一方の憂流伽跛多火は流火(流星)の意で、雲中から上半身だけを現し、左手を挙げた神の姿で表現されている。雷鳴という音と、流星という視覚の両者を合わせて、日本の天狗の出自を暗示させている。

 

古代中国の雷神は雷公こうといい、太鼓を叩いて雷鳴をもたらす。つまり、日本の雷神像と同じだ。漢の時代の雷公は顔に鳥の嘴くちばしを持つ有翼の人型で、日本の烏天狗の容貌にそっくりである。涅伽多天狗(霹靂)と雷公が同じとされれば、烏天狗と似ているのは、偶然とは思われない。

烏天狗像。翼といい嘴といい、雷公とそっくりの姿をしていることに注目をされたい。

 

天狗がもたらすといわれる怪異現象は、音響と飛び物に集中している。空から石を降らせる天狗礫や天狗火などの飛火現象は、いずれも天狗と流星が関連づけられていたからなのだろう。

(ムー2019年2月号 「魔性の妖怪『天狗』特集より抜粋)

 

文=多田克己

 

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