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2019/4/27 20:30

荒俣妖怪探偵団、「湯本豪一コレクション」に迫る!

獣が目の前に現れた。

収蔵室で意見を戦わせる探偵団一同

 

鶏鬼、猫鬼、狐鬼、熊鬼と呼ばれる4鬼の頭骨だ。どれも頭頂に、角が生えている。こいつら何者だ?

 

「鶏鬼は、キジ目キジ科の鳥に似ていますね。しかもすべてオスのようです」と鳥類専門の川上和人とが目を輝かせる。「同じキジ目のニワトリの鶏冠を思い浮かべてもらえるとわかりやすいんですが、キジ目は性的二形がすごく出やすい。オスは派手でメスは地味です。おそらく鶏鬼のメスも、地味な見た目をしているはずです!」

 

「角は肉食動物の牙、犬歯のようです」と、すかさず古生物が専門の荻野慎諧が応じる。実にあっさりと、鶏鬼の素性が判明してしまった! 読者はさぞかし興ざめだろう。しかし、だ。ちょっと待っていただきたい。この4鬼、そこから先が謎だらけだったのだ。

 

われらが目にしているのは、妖怪研究で知られる湯本豪一氏の妖怪コレクションである。その数はなんと、5000点におよぶ。

 

博物学の大家にして、無類の妖怪好きである荒俣宏を団長とする荒俣宏妖怪探偵団。異なるジャンルの専門家が集い、語らえば、妖怪世界に新しい何かが見えてくるのではないか、では見に行ってみよう!  というのが結成のきっかけである。

 

今回のねらいは妖怪が見えるようになった時代を訪ねること。妖怪学が専門の香川雅信がいう。

 

「なぜみな妖怪というと、形があることを前提に話を始めるのかなあ。もともと妖怪は、実体も名前もなく、怪しい現象や気配といったものです。それに名前が与えられ、姿かたちが与えられるようになるんですが、その動きが爆発的に広がり、加速するのが江戸時代の中期以降なんです」

 

爆発、膨張、加速とは、まるで妖怪ビッグバンだ。それは化け物どもが大増殖し、今風にいえば、彼らがマスコミによってたかってプライバシーを暴かれた時代。はたまた「妖怪が人間に捕まりまくった時代」(荒俣)だ。その様子を、4月26 日にオープンする「三次もののけミュージアム」で追ってみようということになったのである。

 

そんなわけで、妖怪探偵団は今ここにいる。

 

しかも三次は、江戸後期から明治にかけて大ヒットした怪奇譚『稲生物怪録』が生まれた土地でもある。

 

妖怪探偵団のメンバーは先の4人に、地質と地理に詳しい平田正礼と、記録係の私、森一空の計6名。さらに今回は、湯本豪一氏と元広島県立歴史博物館館長、植田千佳穂氏にも仲間に加わっていただいた。

 

謎だらけ! 小鬼のヒエラルキー

さて話を幻獣に戻そう。生物に詳しい諸氏によると、鶏鬼はニワトリの頭骨、猫鬼はネコ、狐鬼はキツネ、熊鬼はハクビシンの頭骨に似ているとのこと。正体なんて野暮なことはいわない。あくまでも「似ている」という話だ。幻獣とは、実在するかどうかは証明されていないものの、「いる」と信じられてきた生き物だ。その姿かたちは現世の生き物に近いのだ。

 

「この4鬼は、福島県いわき市好間町の小さな集落に出没したようです」と湯本氏。

 

「頭骨は一軒の家が持っていたのではなく、家々に分散して所有されていました。なぜか、この4鬼にはヒエラルキーがあるんです」

 

ヒエラルキー? 幻獣に上下関係があるなんて初耳だ。

熊鬼の頭骨。「ハクビシンの頭骨に似ている」と、荻野。外来種だが、江戸時代には日本にいたらしい。びっくり!
狐鬼の頭骨。「これ、ジャッカロープの類いだな。アメリカにもいるんだよ、角が生えたウサギみたいなやつが!」と荒俣団長、興奮。

 

力関係でいえば、最も強いのは4体で四天王とされる熊鬼、次いで狐鬼、猫鬼、鶏鬼の順になる。さらに、猫鬼には、野の鬼、幽鬼、空鬼、天鬼と4つの階級があり、それが角の数で表される。1本角が最も霊能が低く、角の数が増えるほど有能になる。角の形は、シカやヒツジに似せたものもあるが、角が増えるのは空鬼までで、最も霊能の高い天鬼には角がない。

 

川上いわく、「狐鬼のキツネ以外はみな外来種ですね。昔から神様なんかも、中国やインドから来ますよね。そう思うと外来種がやはり強くて妖怪なんかになったりするのは、納得できる姿といえますよね」。

 

「猫鬼は、人間界のようにも見えるね。人間『年をとると丸くなる』というけれど、猫鬼も修行を積んでいくと角がとれるんだ」と荒俣団長。

 

しかし「こういうものを家々が持ち合う習俗は、ほかに類例がなさそうなんですよね」という香川の言葉に一同がうなずく。

 

「限られた地域だけということは、あるときだれかがいいだして、急速につくられた習俗の可能性もあります。神がかった人が出て、その影響を受けたとか」(香川)

 

「流行神はだいたいそうだね」(荒俣)

 

「この幻獣にどんないわれがあるのか、頭骨がどう扱われていたのか、なぜその集落に、これを分けて持ち合う家があったのか、もう地元でも知る人がいないんです」(湯本氏)

猫鬼の頭骨。猫鬼にはヒエラルキーがあり、上から天鬼、空鬼(写真)、幽鬼、野鬼の4段階に分類できる。空鬼の頭領はアメノマタタビノミコト、野鬼の頭領はアメノカツブシノミコトという。
「写真の標本はニワトリのメスに似ているが、キジ目キジ科はオスに装飾が出るので、鶏鬼はオスに違いない」と川上。

 

幻獣の存在にも劣らず重要な、彼らの物語が失われていく。湯本氏が30 年近く前に、妖怪コレクションを始めた理由もそこにある。妖怪探偵団が危惧するところも同じだ。

 

われらが目的は「妖怪に会うこと、怪奇を楽しむこと、妖怪をキーワードにこの日本という国を読み解くこと」にある。

 

鶏・猫・狐・熊の4鬼は、骨の色などからして、そう古くはなさそうだ。明治以降のものと推察される。好間町の小さな集落のだれかが見たか、語り継がれてきたものを再現したのだろう。あるいは、これらがよそからその集落にもたらされた可能性もある。

 

いずれにせよ、これら頭骨を保持する家では、この幻獣を大切にしていたようだ。単なる飾り物ではない。何かしら、その地域特有の信仰と関連していたと、湯本氏も見えている。

 

しかし、気になるのは、やはり幻獣たちのヒエラルキーだ。その序列は、生態系ピラミッドのようでもある。しかも序列の上位をシンボライズしているのが角だ。では、角のない人間は、そのピラミッドの序列でいくと、いったいどこに位置するのだろうか。

(ムー2019年5月号より抜粋)

 

文=森一空

 

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