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2019/9/1 20:15

【ムー的宇宙論】「宇宙の別のなにか」がある――ブラックホールの特異性

光あるところに影あり。これはゲーテの戯曲の登場人物のセリフだが、ブラックホールもまたしかり。この奇妙な天体は、〝光〟の研究の延長線上に初めてその姿を現した。

地球から約6000光年離れた、はくちょう座の首の付け根あたりには、チューリップ星雲と呼ばれる美しい星雲がある。写真の右上、淡い半円のところにブラックホールX−1がある。

 

歴史を紐解いてみよう。

 

ブラックホールという概念が初めて登場したのは、いまから200年以上昔のことだ。18 世紀後半、「ラプラスの魔」で知られる、フランスの数学者ピエール=シモン・ラプラスや、英国の天文学者ジョン・ミッチェルは、「光の速度が有限でその正体が粒子であるなら、極端に重力の大きな天体からは光さえ抜けだすことができなくなるだろう」と大胆な仮説を発表した。

 

見事な卓見である。

 

が、彼らの着想はあまりに時代を先取りしすぎていたようだ。「光を引き戻す!? ……それほど大きな重力の星が存在するわけがない」と嘲笑され、この仮説はやがて忘れ去られていく。

 

ブラックホールが再び表舞台に登場するには、そのあと100年を超える長い歳月が必要であった。1915年、アインシュタインは一般相対性理論を発表。世界はその衝撃に震えた。

 

一般相対性理論は難解極まりない理論である。とくにやっかいなのは、理論の骨子となる重力場を導く方程式だ。論文の生みの親であるアインシュタイン自身ですら、この方程式の正確な解を求めることができなかった。

 

そこに颯爽と登場したのが、当時ほとんど無名だったドイツ人天文学者のカール・シュヴァルツシルトである。なんと彼は世界で初めて、重力方程式の厳密な解を導くことに成功する。

 

アインシュタインは驚愕した。そして彼の成し遂げた数学的な業績を称賛した。ただし、アインシュタインは、一か所だけシュヴァルツシルトの論文に大きな不満を抱いていた。いや、不満というより、抱いていたのはむしろ恐れの感情に近いかもしれない。

 

ブラックホールを認めなかったアインシュタイン

シュヴァルツシルトの解は、重力により周囲の時空がどのように湾曲するかを精密に描きだすことに成功した。が、彼の慧眼はそこにとどまらなかった。シュヴァルツシルトは大胆にも、さら一歩先へ論を進める。「十分な質量が十分に小さい球体に押し込められると、時空の湾曲が極限に達し、あらゆるものが球体の中に吸い込まれていく。光でさえも例外ではなく、その球体は暗黒の奈落となる」と。

 

ブラックホールの存在は、このとき初めて数学的に立証された。

 

このとき自分がどんなに重要な一歩を踏みだしたのか、彼はまだ気づいていなかったかもしれない。本来ならば、宇宙には存在しないはずの〝異空間〟を発見したことの意味を。

 

だが、その踏みだした一歩の重さを、アインシュタインは理解していた。十分に理解していたからこそ、アインシュタインはその結論を、受け入れるわけにはいかなかった。

 

親しい友人に宛てた手紙で、アインシュタインはこう述べている。

 

「結局のところ、シュヴァルツシルトは数学的な詭弁をもてあそんでいるにすぎません。〝暗黒の奈落〟などというバカげた天体は、現実の宇宙に存在しないことを私は確信しています」と。

 

以降、その生涯を通じて、アインシュタインはブラックホールの存在を頑がんとして認めようとしなかった。まるで何かの呪いが刻印されているとでもいうかのように、話題にすることさえいやがった。しかしなぜ彼は頭ごなしにブラックホールを否定し、蛇蝎のごとく忌み嫌ったのだろうか?

 

その理由については、また後で考察することにしよう。とりあえず、シュヴァルツシルトの偉大な発見に戻る。

ドイツの天文学者カール・シュヴァルツシルト。彼は一般相対性理論の重力場方程式を使って見事に解を導きだした。それはブラックホールの存在を示唆していたが、アインシュタインは頑としてそれを認めなかった。

 

星がブラックホールになるメカニズム

「十分な質量が十分に小さい球体に押し込められる」と周囲に強大な重力が発生し、時空の歪みが極限に達する。つまりブラックホールの誕生である。これをシュヴァルツシルトは数学的に証明した。では「十分な質量」と「十分に小さい球体」とは、どのくらいのものなのだろうか?

 

たとえば太陽ほどの質量の恒星がブラックホールになるためには、直径3キロになるまで押しつぶされねばならない。わたしたちの住む地球の場合はもっと小さく、直径わずか1センチになるまでぎゅうぎゅうと押しつぶさなくてはブラックホールになれない。

 

ただし、この1センチになった地球そのものがブラックホールというわけではない。1センチの地球の周囲にある異常な空間の広がり、これがブラックホールである。具体的には、光の脱出速度を凌駕する重力場のことであり、その外側との境界面のことを「事象の地平線」と呼んでいる。

非常に高密度の質量が存在する場合、その空間自体が重力で歪み、光すら抜けだせない特殊な球形領域= シュヴァルツシルト半径=ブラックホールが発生する。その境界線を事象の地平線という。
時空の歪みを表した図。ブラックホールに呑み込まれたものは事象の地平線からさらに押し潰されつづけ、特異点に達したとき、すべての物理法則が失われると推測される。

 

事象の地平線とは一風変わった言葉で、一般の方にはちょっと馴染みにくいかもしれない。大まかな意味はこういうことだ。どんな見晴らしのいい場所でも地平線の向こう側までは見えない。ブラックホールも境界面の向こう側はすべてを呑み込んで見えなくなる。そこで「事象の地平線」という言葉が使われるようになった

 

話を戻そう。1センチにまで縮んだ地球は、そこでとどまらない。極限を超えた重力の歪みは、地球をさらに小さな点にまで押しつぶしていく。そしてその先に待っているのが「特異点」だ。特異点とは、重力が無限大になる一点のことである。特異点から事象の地平線までの距離のことを、シュヴァルツシルト半径と呼ぶ。

 

特異点では時間と空間の歪みが極限に達し、すべての物理法則はバラバラに解体される。

 

おそらくわたしたちの宇宙とは別の何かがそこにあるのだ。

(ムー2019年9月号より抜粋)

 

文=中野雄司

 

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