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ムー
2019/9/8 20:15

【ムー的グルメの錬金術師】味のメタ情報「風味」を制御する!

味はどこにあるのか。

ゴーグルを装着する。見た目より軽いので、着けていて動きの邪魔になることはない。

 

舌だろう。舌の味蕾にある味覚細胞が五味(甘味、塩味、酸味、苦味、うま味)を受け取り、脳が処理する。

 

では「風味」は?

 

食べ物の味は味だけではない。同じ味でも歯ごたえが違えば別の味に感じる。熱いスープと冷えたスープも、味の構成要素は変わらないのに別の料理のようだ。

 

だから正確には舌から入力される五味とそれ以外のテスクチャーや香りや温度が合成され、風味を生み出す。味は複数の感覚情報の統合なのだ。こうした複数の感覚情報を統合して処理することをマルチモーダルという。

 

味におけるマルチモーダルの例として、よく挙げられるのが東京大学の廣瀬通孝教授が開発したメタクッキーである。AR(現実の風景にCGの絵を重ねて表示する技術)を表示できるヘッドマウントディスプレイに、匂いを発生させるデバイスをセットした装置を使う。ディスプレイにはさまざまな種類のクッキー、チョコレートやキャラメル、バニラといった違うフレーバーのクッキーが表示され、匂いのデバイスからはそのクッキーの匂いが流れ出る。チョコクッキーの映像にはチョコレートの匂いが流れるわけだ。

 

香りは嗅上皮にある嗅細胞が受容し、その信号は嗅球で集約されてから嗅皮質という大脳新皮質の部位にリレーされる。ここで記憶と照合され(これはアイスクリームの匂い、あっちはみそ汁といったように)、匂い情報は眼窩前頭皮質へと渡される。

 

眼窩前頭皮質は情動と意識を司る脳の領域にある。ここで味覚と風味とが統合され、高度な味という情報を脳に伝えると考えられている。味とは味覚と他の感覚、嗅覚や視覚、聴覚、触覚などの情報が統合ざれた感覚なのだ。いわゆる風味とは味に伴う味覚以外の感覚情報である。味が食べ物の化学情報なら、風味はそれ以外の化学情報と物理情報である。

 

だからメタクッキーが成立する。メタクッキーでは、ベースとなるクッキーは変わらないのに、被験者は香りを変わると味が変わったように感じる。

 

舌が受容する味の情報は変わらなくても、風味を変えることで味の幅を変えることができる。酸っぱいものを甘いものに変えることはできなくても、風味を変えることで甘酸っぱい味を体験させることは可能なのだ。

 

メタクッキーに使われるデバイスは大型だったので、香りで味が変わるという話が本当なのか、体験するには研究室まで行く必要があった。

 

そこでベンチャー企業のVAQSO社が開発したVRデバイス『VAQSO』である。香りを発生させられるデバイスなのだ。

 

香りで変わるかき氷の味

8月3,4日に同社が新宿で行った体験会『フローズンの味が変わるVR』に参加した。かき氷のシロップが全部同じ味というのは、よく知られた話だ。味はまったく同じで、香りだけが違う。赤い色でイチゴの香りがすると、脳はイチゴの味を作り出してしまう。

画面には女の子がかき氷の写真を持って現れる。レバーを引くと写真が変わり、合わせた香りが噴射される。ごく少量のためか、香りはまったくわからない。

 

『フローズンの味が変わるVR』のシステムはシンプルで、3Dゴーグルに最大5種類の香りを発生させるデバイス『VAQSO』、AR用のカメラがセットになっている。かき氷を食べながら、手持ちのモジュールのレバーを引くと画面が切り替わり、画面に合わせた香りが出るのだ。

 

装着すると目の前に女性のキャラクターが現れる。かき氷を渡され、VRかき氷の体験開始である。かき氷は先にシロップがかけられている。VR用にVAQSO社が開発したもので、甘味だけではなく、酸味や塩味を少し足してある。酸味のあるシロップといった感じで、さわやかでおいしい。

 

画面にイチゴのかき氷が表示される。食べるとイチゴというほどイチゴが強くはないが、ヘッドセットを付けずにそのままで食べた時と甘さが違う。特に匂いが変わった感じはしないのだが、なぜか甘味が強い。

 

続いてレバーを引くと画面はレモンのかき氷に変わった。かき氷を食べると、これは奇妙だ。明らかに酸っぱさが増している。同じかき氷の味ではない。酸っぱいのだ。

 

混乱しつつ、次はブルーハワイ。これはよくわからなかった。記憶にも影響されるのかもしれない。最後はメロン。これは甘い。酸味がない? もう一巡してみる。イチゴから再スタートする。……イチゴだ。イチゴの味がする。

 

匂いが風味を変える。噴射される匂いはごく少量で、匂っているのかどうかもわからないレベルなのだが、脳は感知しているらしい。人間の嗅覚は分子レベルで匂いの情報をキャッチできるのだ。

 

舌からの情報に風味が加算され、香りによってバーチャルに味を変えてしまう。香りによって味を変える技術を使えば、薬が苦手な人に薬を飲んでもらう手助けをし、宇宙船のような食事に限界がある環境で味のバリエーションを増やすことができるだろう。可能性はさまざまに考えられる。

 

VAQSO社では、食べ物の匂い以外にもゾンビ臭や火薬の匂いなどのカートリッジを用意しているそうである。匂いを体感するゲームというのは、どんな奥行きを持つのか。そちらも興味深い。

VAQSOの香りは5種類を設定できる。ゲームなどでその場に応じた香りを噴射できるのだ。

 

文=川口友万

 

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