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2016/7/18 12:00

夜の「バスタ新宿」に集う若者たち、「安全性」への認識はどこまであるか?

今年4月、東京の新宿駅南口に、 国内最大級と言われる高速バスターミナル「バスタ新宿」が開業した。筆者の事務所は新宿からさほど遠くない場所にあるので、時間を見つけてはチェックしに行っている。そこで分かったのは、昼と夜とで様子が大きく違うことだ。

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バスタ新宿がいちばん活気付くのは夜、それも日付が変わるかどうかという深夜だ。1分に1台ぐらいというハイペースで、大阪や金沢などに向けて、バスが次々に発車していく。ところが待合室はそんなに騒がしいわけではない。乗り慣れている人が多いためなのか混乱はなく、スマートフォンを見ながら整然とバスを待っている人が多い。

 

もうひとつ、昼と夜の違いで気付いたのは、夜は若者の比率が高くなることだ。この状況、何となく理解できる。筆者も若い頃は、お金はなかったが時間と体力はまだ余裕があって、1日ぐらいの徹夜は平気だったし、下道だけで東京から九州までバイクで走破したこともある。寝台ではない座席の夜行列車での長旅は何度か経験したし、夜中にクルマを走らせて翌朝目的地に着くなんていうドライブもした。だから速いけれど料金が高めの新幹線や飛行機より、高速バスを使う若者が多いことは納得できる。

 

■夜行バスに乗るのは若者だが、運転士は中高年という現実

でも筆者は、若い頃は当たり前のようにやっていたナイトドライブを、今はめっきりしなくなった。40歳を超えたあたりから体力が明らかに落ちてきて、夜間の長距離移動は辛いと感じるようになったからだ。さらにクルマの運転で言えば、目も気になっている。老眼で近くの細かい文字が見えにくくなってきただけでなく、明るさ暗さへの順応のスピードも遅くなっているような気がするからだ。調べてみると、年齢とともに目のレンズが硬くなって焦点を合わせにくくなる老眼のほかに、明るさ暗さへの対応も遅れてくるとのこと。さらに暗い場所では文字が読みにくくなっていくこともあるという。

 

自分が運転せず、バスの乗客として過ごすなら、ほとんど寝て過ごせばいいのだから、老化は関係ない。でもそのバスを操る運転士はどうだろうか。バスタ新宿でチェックすると、この分野も高齢化が進んでいるという噂どおり、現在53歳の自分と同じぐらいかさらに上だと思われる運転士が少なくない。もちろんプロとしての訓練は受けており、経験も豊富だが、年齢とともに体力や目の衰えは出てきているはずだ。

 

自分自身は、夜中に家を出て目的地で朝を迎えるようなドライブはもうしないし、昼間でも眠気を感じたら仮眠をとって、すっきりしてから再スタートすることにしている。でもバスの運転手は決められた時間どおりに走らなければならないから、休みたくても休めない。そんなことを考えるようになってからは、バスでの移動は昼間の1〜2時間以内に留めるようになった。

 

若い人が高速バスでの移動を好むのは、安さが最大の理由かもしれないけれど、自分の身体感覚で乗り物選びをしている面もあると思う。心身の衰えは、自分の経験から考えれば、歳を取るまで分からないのだから。でもあなたが乗るそのバスの運転士は、そういう年齢に差し掛かっているかもしれないのだ。

 

バスを否定しているわけではない。でも安全性については、入念な対策が施され、現実に事故死ゼロの新幹線のほうがはるかに上である。その違いを、親など移動経験豊かな人が教えたほうが良いのではないかと思っている。「水と安全はタダ」というこの国の言い伝えは、移動については通用しないことを、ひとりでも多くの人が認識すべきだ。

 

【著者プロフィール】

森口将之

モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材し、雑誌・インターネット・講演などで発表するとともに、モビリティ問題解決のリサーチやコンサルティングも担当。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本デザイン機構理事、日本自動車ジャーナリスト協会・日仏メディア交流協会・日本福祉のまちづくり学会会員。著書に『パリ流環境社会への挑戦(鹿島出版会)』『富山から拡がる交通革命(交通新聞社)』『これでいいのか東京の交通(モビリシティ)』など。

THINK MOBILITY:http://mobility.blog.jp/

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