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2016/12/15 21:40

梓みちよ「クリスマス・イブ・シック」が救う“その他”の人たち

ギャランティーク和恵の歌謡案内「TOKYO夜ふかし気分」第5夜

こんばんは、ギャランティーク和恵です。連載ももう5回目になりましたが、今までのコラムを読み返してみて気づいたんです。ワタシ、毎回「寒くなってきましたね……」みたいな挨拶してますね。お恥ずかしい……。こういうコラムでは冒頭に時候の挨拶で始めるのが作法かしらと思ってたのですが、これじゃバカのひとつ覚えみたいですね。失礼いたしました。だって、寒いんだもん……。

 

もうすぐクリスマスがやってきます。「クリスマス」という行事は、ここ最近になって毎年恒例の行事になってきた「ハロウィン」と同じように、海外から日本に取り入れられたもののひとつですよね。「ハロウィン」が仮装パーティとして受け入れられたとしたら、「クリスマス」は家族や恋人へプレゼントを贈る日でしょうか。でも、ワタシにとってはどちらも蚊帳の外という感じのイベントなのです。「ハロウィン」は、普段真面目に生活されてる方々が仮装して非日常を楽しんでる感じでしょうから、すでに仮装(のような女装)を生業としてる身としては、むしろこの日くらいはお休みして、みなさんのハメを外す姿を微笑ましく眺める側になりますし、「クリスマス」は恋人なんて15年くらいいませんし、家族がこれからできる予定ももちろんありませんから、幸せそうに過ごす人たちを遠目に見て見ぬふりをするだけなのです。あ、なんか今ワタシ、可哀想な人みたいになってる……。

 

しかし、ハロウィンは、参加しなければ参加しないで、仮装する人たちを楽しく眺めたり、疎外感もなく無視して過ごすことが出来るのに、クリスマスとなるとそうはいきません。まるで、クリスマスに一人で過ごしていることが淋しく思えるような、変な負い目を感じてしまいます。これを読んでくださってる方にもそういう方多いんじゃないでしょうか? むしろ、世の中の半分くらいの人たちは、このクリスマスの「他人の幸せを街全体で応援している空気」に、居心地の悪さや疎外感を感じているんじゃないかと思うんです。

 

かれこれ10年以上前でしょうか。クリスマス・イブに自由が丘のケーキ屋さんで歌のお仕事をいただいたことがありました。こう書くとオシャレな営業だと思うでしょ? ワタシもお話いただいた時は「クリスマス・イブに自由が丘で営業だなんてオシャレやわ〜」って思ってたんです。でも良く考えてみたら、ワタシは歌謡曲の歌手だし、それを踏まえた上で何か歌ってくださいっていわれても、歌謡曲なんて「不幸な歌のデパート」みたいなもんですから、クリスマスに合うような歌なんてなかなかありません。歌えといわれれば日吉ミミさんの「世迷い言」を歌って「♪世の中バカなのよ〜」と恨み言でもぶつけたい気分ですが、自由が丘のケーキ屋さんではそうはいきません。しょうがなく(というと失礼ですが)越路吹雪さんの「愛の讃歌」を歌おうと決めました。これならベタで分かりやすいし、とっても自由が丘的だワっ♪(何がじゃ)と決めたはいいのですが、ズボラなワタシは、クリスマス・イブの営業当日になるまで「愛の讃歌」をちゃんと歌ったことが一度もありませんでした。そういう人なんですワタシ。

 

その日、夕方に起きてバタバタと衣装を選びカートに入れて家を飛び出し、その勢いで新宿のカラオケ屋へキー合わせを兼ねてリハーサルをしに行きました。するとそこには、大量のカップルやグループがワンサカ入室待ちしているという恐ろしい光景が。でも「愛の讃歌」をちゃんと歌っておかないと本番歌えるか心配だし……と、しょうがなく待つことに。そんなクリスマス・イブに、一人でカラオケボックスで入室待ちをするワタシを周りの人たちはどう見てるのかしら、しかも新宿通りから丸見えで、この状況を知り合いに見られるかも分からないし、BGMはクリスマスソング。もう早くここから逃げたい! と顔を下に向けて順番を待ち、やっと空いた部屋に飛び込みました。

 

すぐさま「愛の讃歌」を入れてキー合わせて歌っていると、あれ……ちょっと待って…ワタシ今、「クリスマス・イブに一人でわざわざ空室待ちまでしてカラオケに入って越路吹雪の『愛の讃歌』を熱唱するオカマ」っていう、スゴい可哀想な人になってる……と気付いては悲しくなったことがありました。そしてこれがワタシのクリスマス・イブの強烈なトラウマとなってしまったのです。でも、別に誰もワタシが一人でいることなんて気にもしてなかったでしょうし、むしろ自分たちの幸せで周りなんか見えてないんだと思いますが、それでも、「一人勝手に強迫観念」に襲われるクリスマスという日って一体なんなのでしょうか……。

 

そんな複雑な気持ちを代弁してくれるような、クリスマスを楽しめない世の中の約5割の大人たち(和恵による統計)のための“アンチ・クリスマスソング”、梓みちよさんの「クリスマス・イブ・シック」を今夜はご紹介したいと思います。これは、家庭を持つ男を愛してしまった女が、ひとりでクリスマス・イブを過ごす歌。この日だけは男を家族から奪うことができず、まるで家族団欒から追い出されるかのように街の中を行くあてもなく歩いていると、どこもかしこも幸せそうなクリスマスムード一色で、そんな状況に吐き気やめまいに襲われてしまう、という内容。しかも毎年決まってこの症状に悩まされるという可哀想な女の歌です。

 

【今夜の歌謡曲】
05.「クリスマス・イブ・シック」梓みちよ (アルバム『女が男を語る時』に収録)

20161215-i06 (3)
提供:ソニー・ミュージックダイレクト

(作詞/阿木燿子 作曲/筒美京平)

 

歌謡曲にはなぜかクリスマスソングが多くありません。ワタシが知ってる限りでも、10本の指に収まるくらいの少なさです。これはどういうことなのでしょうか。流行歌がJ-POPといわれるようになるころにはたくさんのクリスマスソングが作られてきましたが、その前までのいわゆる「歌謡曲」があった時代までは、日本人が堂々と幸せな気分を歌に出来なかった時代背景や日本人の奥ゆかしさがあったのでは、とワタシは推測しています。そして、むしろ悲しみや辛さを歌が代弁してくれるからこそ、心を癒してくれるのが「歌謡曲」です。クリスマスというハッピーな題材は歌謡曲には向かなかったのかもしれませんが、その幸せムードなクリスマスの裏に潜む悲しい物語を、作詞家の阿木燿子さんはちゃんと見つけて歌にされてるのです。もう…阿木燿子さんってば……ホント大好き。

 

ハッピーでポジティブな歌にまみれたいまの時代に、どうかこういう「不幸のどん底」みたいな歌を聴いていただきたい。歌は心をあずけるものです。心の中に抱えてる悲しみや苦しみを、きっとそんな歌たちは3分の間だけあずかってくれるでしょう。特にクリスマスというポジティブハッピームードに息が詰まってしまう日には、「クリスマス・イブ・シック」を、ぜひおすすめいたします。

 

ちなみに先ほどの「自由が丘の営業」のお話の続きなんですが、会場に到着するとテーブルに男性器の模型とコンドームが置いてあり、「これでエイズ予防について皆さんに講義してください! 『聖なる夜の性教育』という感じで!(笑)」とイイこと思いついたような顔をした店長に言われまして、もうどうにでもなっちまえと、少ないお客さんの前でコンドームの付け方を教えたりなんかして、最後に朗々と「愛の讃歌」を歌い放ったのでした。

 

<和恵のチェックポイント>

1979年にリリースされた梓みちよのLP「女が男を語る時」の中の1曲。同盤は、カバー以外は全曲・筒美京平による作曲で、「よろしかったら」を含む名曲だらけの1枚。デビューして間もなくヒットした1963年の「こんにちは赤ちゃん」の清純なイメージから、アダルトなイメージへの脱却に成功した1974年の「二人でお酒を」以降、さらなるアダルト路線として提唱した「ニューシャンソン」がこのLPを皮切りにスタート。女がどんどん強くたくましくなっていく80年代をリードしてゆくように、もう誰も止められないほどに孤高で高級な女に成り上がってゆくこの頃の梓みちよさんは、ワタシにとって「神」です。

 

この「クリスマス・イブ・シック」のチェックポイントは、「私のコート グレイミンク」というフレーズでしょうか。ミンクのコートを着た高級な女でありながら、イルミネーションの華やかさとは対照的に、心の色を映すような「グレイ」の色を着ているというみじめさも描いているような、阿木燿子さんのマジック。そして、この主人公がどこかヒステリックそうなところも、さらに高級な女な感じがして良いです。いやー、阿木燿子センセーと梓みちよアニキのコンビネーションは最強ですね……。

 

記事中で紹介している「クリスマス・イブ・シック」をはじめ、「よろしかったら」や「二人でお酒を」などのヒット曲を収録した2枚組ベストアルバム「GOLDEN☆BEST 梓みちよ ニュー・シャンソン」も要チェック!

20161215-i06 (4)

GOLDEN☆BEST 梓みちよ ニュー・シャンソン
3065円(税込)
CD2枚組

 

【インフォメーション】

ギャランティーク和恵さんが、梓みちよさんの「クリスマス・イブ・シック」をはじめ、秋から冬の情景をテーマに昭和の名曲をカバーしている「ANTHOLOGY #3」が、2016年11月9日(水)より配信中&CD発売中です。詳しくはANTHOLOGY特設ページをご覧ください。

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「ANTHOLOGY #3」

発売中

配信:600円 日本コロムビアより

CD:1000円 モアモアラヴより

iTunes store、amazon、ほかインターネットショップにて

 

<曲目>

01. 燃える秋(作詞:五木寛之 作曲:武満徹)

02. 窓あかり(作詞:山口洋子 作曲:梅垣達志)

03. クリスマス・イブ・シック(作詞:阿木燿子 作曲:筒美京平)